31話 猫が釣り
木に寄りかかって寝ているアユミに近付く3人の人間の男
「おっ、あんなところで寝てるカモがいるぞ」
「おぅおぅ…上玉じゃねぇか…」
「ん? なんだこの折れた剣は…」
男の1人がカラドボルグに触ろうとした時、前触れなく電撃が放たれ
男とアユミどちらも襲った
「ふがっ!?」
「アッツ!! …お、起きやがった…!」
電撃で無理やり起こされて、アユミの顔が渋くなる
時刻は日の出直後、アユミが視線を向けると男が3人、周りを取り囲んでいたと分かる
アユミが怪訝そうな表情で男達を見ていると
「よ、よう! 起きたか! おはよう!」
「こ、こんなところで寝ていると…危ないんだぞぉ!」
「確かにお前らみたいな置き引きは危ないニャー」
「んなっ!?」
カラドボルグが猫形態に変わって戦闘態勢を取る
「話は全部聞かせてもらったニャ、上玉と評価されたのは鼻が高いニャが
勝手に取られるのは困るニャー、一緒に冒険者ギルドまで行って怒られてくるニャ」
「じょ、冗談じゃねぇ! おい! 1人と1匹だけだ! たたんじまえ!」
「フーッ!!」
男が短剣を取り出すと同時にカラドボルグが電撃を放つ
3人とも成すすべなく気絶した
「さぁ! 身ぐるみ全部剥ぐのニャ!」
「ねぇ…まさか最初からこれを狙って…?」
「バローが「冒険者の素行が悪い」って言ってたニャ? 一度確かめたいと思ってたんニャけど
さすがに1日目から襲ってくるとは予想してなかったニャ…でも、大丈夫だったニャン?」
「まぁ、そうだけど…」
男達が持っていた武器、荷物を取りまとめて背負う。金床よりは重くない
ちょっとは力がついてきたのだろう
「あ、服も脱がせてすっぽんぽんにさせるのニャ」
「え…そこまでするの?」
「繰り返してれば親玉が来るはずニャ、そいつをとっ捕まえれば
ギルドでの評価がドンドン上がるニャー。死なないんだからガンガンやるニャ」
「むー…それは良いけど、「たとえ罪人から奪い取ったものでも、元の持ち主に返して
いないなら罪」なんだよ? こんなに沢山の荷物…どうするのさ」
「これはギルドに落とし物として届ければ良いニャ」
「えぇ…?」
カラドボルグは剣形態になり、アユミは全ての服を奪って背負う
そのままワンダラへと戻っていった
***
ギルドはまだ開いていなかったので、建物正面にあるスイングドアの前に座ってしばし待つ
鍵を開ける音が聞こえたので振り返ると、見たことのない女性ギルド職員がいた
たれ耳のウサギ獣人の彼女は、アユミの荷物に驚きながらも応対する
「あっ! …ギルドに御用ですか?」
「はいそうです、もう入って良いですか?」
「え、ええ! ど、どうぞ」
荷物を背負い直して中へ入った。たれ耳の彼女は怪訝そうな表情でアユミを見ていた
***
「おや、こんな朝早くから何の用ですか?」
「リューツさん、落とし物を届けに来ました」
アユミが受付カウンターに、男達が持っていた荷物をドサドサと置くと、リューツはため息をつく
「アユミさん…今度はどんな悪ふざけを思いついたんですか?」
「カラドボルグ…思いついた事なんだからちゃんと説明してよ」
「ニャ、とりあえず落とし物として預かってくれれば良いニャ、ただし…落とし主は
アユミの寝込みを襲おうとした不届きな連中だニャ」
リューツは頭を抱える
「その…不届きな連中とやら…顔や特徴はわかりますか?」
「では似顔絵を描きます」
アユミは、渡された紙に「記憶能力強化」で覚えておいた3人の男の顔を描いた
写真と見紛うばかりの正確さに、リューツは少し引いたが、3つの絵をよく見て
何か思い出したらしく、アユミの持ってきた荷物を漁り、3枚の木の札を見つけ出した
それは過去にアユミにも渡した「前科持ち用の証」だった
「ううん…職員がついていって問題無い事を確認したはずなんですがねぇ…」
「ま、悪人はそう簡単に改心しないって事ニャ、それより落とし物がギルドに届けられたと
触れ回るニャ、やましい事がニャいならそのまま受け取りに来てハッピーエンドニャ」
取りに来るということは全裸でここに来るということでもあるのだが、アユミは黙っておいた
「ハァー…落とし物と言われたら…ギルドとしては放置できません、預かりましょう…」
「頼んだニャ、さぁ依頼でも見に行くニャー」
アユミはカラドボルグと一緒に掲示板を見に行く、近付いて見るのは今回が初めてだった
見送ったリューツは小声で愚痴をこぼす
「全く…ネコババしないのがこんなに面倒とは…」
***
掲示板を見ると、最初にゴブリン退治や猛獣退治が目に映ったが、よく考えてみたら
10歳女児が単独で受けるのには相応しくない…かといって常設の薬草採取依頼を受けても
一文無しではみかじめ料は払えない…そう考えながら見ていると
上に別の依頼書が貼られているせいで、隠れて見えにくくなっていた依頼書が目に留まる
「む…井戸に髪飾りを落とした…?」
よく見ると、他にも指輪、腕輪、ブラシ、瓶や食器などを落としたとする依頼書が多数
目立たない位置に貼られている…どれも報酬が書かれていない
ちょうど通りかかったジェニファーに詳細を聞いてみることにした
「ジェニファーさん」
「あらアユミ、おはよう」
「この依頼書…報酬が書かれていないようですが」
「あぁ…これはね? 依頼書というより、落としたものをあらかじめ知らせておいて
ある程度溜まったら井戸さらいができる人に頼んで取ってきてもらうのよ…
そういえば結構溜まってるわね…」
「あの…僕がやりましょうか? 「呼吸省略可」の能力がありますし
ロープを垂らしててくれれば釣瓶に入れられますよ」
「そう? じゃあお願いしようかしら、今は皆朝食作るのに使ってるだろうから
2時間くらい経ったら、またギルドに来てね」
「はーい…ん?」
何気なく部屋の隅に視線を向けると、たれ耳のウサギ獣人のギルド職員が
アユミの事をじっと見ていることに気が付いた
「あの…彼女はどなたですか?」
「え? あぁスーザンの事? ギルドの新人職員なんだけど…何してるのかしらあの子」
「僕の事は良いですから…また2時間後に来ますね」
そう言って、アユミは外に出た
***
北門から街の外に出て北西へ歩いた。いつも通り朝食のキノコを食べる為である
「空気摂取」があるから食糧を食べなくても飢えたりしないが、それだと味気ない
そして腹が満たされた時…
「おい! さっきはよくもやってくれたな!」
あの男3人が戻ってきた、裸ではなく今度は仲間を多く引き連れ、合計9人になっていた
アユミが振り向き、何かする前に…
「やれっ!」
「「サイレンス!!」」
「…、…!」
男2人が魔法を使ったようで、アユミは声が出せなくなっていた
「これで化け猫は出ねぇだろ! 覚悟しろ!」
「「「ウオオオオ!!」」」
「フーッ!!」
カラドボルグが問題なく電撃を放つ
魔法を使った男2人以外の7人は成すすべなく気絶した
「ば、バカな…魔法じゃないのか…!?」
「説明する気は無いニャ」
カラドボルグは猫形態になり、電撃を纏ったネコパンチを放つ。これには2人も
防御しきれずに気絶した
「大丈夫ニャ?」
「…あー、あー…うん大丈夫」
「よっしゃ! 身ぐるみ全部剥ぐのニャ!」
「はいはい…」
アユミは再び脱がせて、持ち物を背負った。さすがに9人分となると重い
「ちょっと…後ろから押して…」
「仕方ないニャー」
カラドボルグは額で押して、そのままゆっくりと北門へと戻る
途中、起き上がって追ってきた男もいたが、電撃でまたすぐ気絶するハメになった
門の守衛は顔を引きつらせていたが、青銅の「冒険者証」を見せると、問題なく通れた
***
その様子を隠れて見ていたスーザンと、1人の男
「なっ…なんて人…!」
「ご覧の通りです…あの女はギルドマスターにも取り入っていて放置されている有様…
貴女がギルドの病巣を取り除かなければなりません」
「では、すぐに訴え出て…!」
「お待ちください、確実に捕えねばなりません、我らがお膳立てしますので
スーザンさんには、ギルドの正式な賞金首情報として
ギルド職員の誰にも分からないように書類を書いていただきたいのです」
「わかりました! お任せください!」




