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29話 猫が帰還

アユミとギュスターヴは教会に戻ってきた。玄関でロータスが出迎えてくれる


「アユミ! やっと帰ってきた…随分大変な思いをしてきたようね?」


アユミの傷を見ながらロータスは言った


「あはは…まぁ勇者の力で治りますから…」

「な~に笑ってるニャ! もう昼になるニャ! すぐ帰るんじゃなかったニャ!?」


カラドボルグが怒鳴りながら剣形態のままピョンピョン跳ねて来た

だが床を傷つけないように柄を下にして移動するあたり、心底怒ってはいないようだ


「今から昼飯食えば、昼に出る馬車には間に合うニャ。とっとと準備するニャ

まったく…お人好しのアユミは吾輩が言わニャいと出発すらできないニャ」


急かされて、ロータスとギュスターヴは昼飯の準備をし、アユミはカラドボルグを立てかけ

鍛冶道具を持ち出す準備をした


***


昼飯を食べながら、昨日からの出来事を話す


「ディーン王子の訓練に、トラ男が率いる盗賊団の退治

人質を助けたと思ったらバーン家の隠し子で、キャリー夫人に暴露したら

サルシア…アグリーに暗殺されかける…とても濃密な1日だったと思います」


「トラ男…あいつか…盗賊団の首領だったとはギルドマスターとして恥ずかしい限りだ…」

「尋問した所、エルフという存在が裏で糸を引いているのではないかと」

「エルフ? 聞いたことがあるニャ」

「本当!?」


「200年くらい前にはチラホラ居たニャア…耳が魔族みたいに尖っている以外は肌色も人間と

大差ない種族ニャ。でも徹底的に秘密主義で、北から来た…位しか分かんなかったニャ」

「北? そのあたりは獣人達の縄張りのはずだが」

「それよりもっと北ニャ」

「本当かよ…そこまでは人間の調査が終わってないぞ…獣人達の反発もあって開墾もできん

戦争中に敵を増やしたくはないだろうし、昨日魔族の脅威について話し合ったばかりだ

調査に人員を割く余裕は無いだろう」


「それじゃ、調べに行くなら単独でって事ですね?」

「まぁそうだが…アユミ、えらく積極的だな?」

「ええ…エルフは人間と魔族が戦争するに至った要因を知っている…と思います

まだ推測ですけどね」


さすがにサリエルの話はできない


「待つニャ、資金とかの準備無しで知らない場所に遠征しようだニャんて10年早いニャ!」

「うっ…それじゃギルドの仕事を頑張って…」

「それもいいけど…手っ取り早く稼ぐには、やっぱり鍛冶が一番ニャ!」

「…頑張るよ」


結局そこに行きつくのか…少し渋い顔になった

次にロータスが話を切り出す


「それより…バーン家に隠し子がいたなんて驚いたわ…」

「母親の名前は公言しない事になってますが、アグリー・バーンの血を引いているのは

間違いないようです…ヘンリーは親に似ず、いい子ですよ。だから…」

「…分かってるわ、今はアグリーのようにならない事を祈りましょう」


アグリーが残した悪評はヘンリー達にのしかかる…理不尽とは思うが

アユミがこれ以上できることは無いだろう…


「…キャリーはどうしたニャ?」

「アグリーと争ってる最中に出た火の責任をとって牢に…」

「ハァ…ままならんニャー…」


***


食べ終わり、鍛冶道具は纏めて背負い、カラドボルグを持とうとしたが…


「んぐぐぐ…」


わずかに力が足りず持ち上げられない、忘れがちだが…アユミは10歳女児である


「アユミ、まずは吾輩だけを外に出すニャ」

「う、うん…」


カラドボルグを外に出してから、戻って鍛冶道具を背負い直した

そのまま何とか外に出ると、カラドボルグは剣形態のままアユミの鍛冶道具に柄をひっかけた


「吾輩が化け猫になったら騒ぎを起こしちゃうニャ

なるべく浮力を働かせるから我慢するニャ」

「て、手伝いましょうか?」

「甘やかしちゃダメニャ、ギュスターヴは先に行って馬車を確保するのニャ」

「お、おう」


アユミは「健康な肉体」の持久力上昇効果で何とか持ち上げ続けていた

「空気摂取」も忘れない。そのまま歩いて馬車乗り場までたどり着いた


***


馬車に乗り込もうとすると、御者が制止した


「お…おいおい、そのでかい剣…? も入れるのか?」

「む…ダメか?」

「ダメってほどじゃないが…他の客も乗ってる、もう一人分運賃を払ってくれ」

「ギュスターヴさん、お願いします」

「…ま、折角の贈り物だしな…支払うぜ」

「まいどあり…これで一杯になったから、ワンダラ行き出発しまーす!!」


「ロータスさん、お世話になりました」

「「看破の水晶」も無事、多めに調達することができた、ありがとな」

「道中、神のご加護がありますように…また会いましょう」


御者が馬をゆっくり走らせ始める。ロータスが祈りをささげるなか

「エンゼ」の街を出発した


***


盗賊団が退治されたばかりなので、追い剥ぎは出ない

結構揺れるので、舌を噛まないよう皆口数は少ない

その代わり、床に置かれたカラドボルグが皆の注目を集めていた

触ることはしなかったが、穴だらけでグニャリと変形したそれは

大いに興味をそそられ、退屈しのぎになったようだ


***


「到着でーす! またのご利用をお待ちしてまーす!」


夕方になる直前に、「ワンダラ」に到着した

安全の為、アユミ達は最後に降りて背負いなおす


「ふぅぅ…やっと戻ってこれた、7日ぶりかぁ…」

「お疲れさん。でもまだギルドでやることがあるからなー」

「はーい」

「吾輩の精錬も忘れずにニャー」


***


「冒険者ギルド」に辿り着くと、外まで長い行列ができていた

スイングドアを押して中に入ると、職員達が慌ただしく動いている


「な、なんだこりゃ…」

「あ、ギルドマスター! やっと帰ってきましたか! さっさと「看破の水晶」を

寄越して下さい! 仕事が溜まって仕方ありません!」


受付カウンターにいるリューツが急かす


「わかったわかった! 今行くから待ってろ! 悪いがアユミは座って待っててくれ」

「は~い…ん…しょっと!」


鍛冶道具とカラドボルグを持って端の方へ行って下した


「ニャ…そういえばアユミ」

「うん?」

「家はどこニャ?」

「家…あー…無い」

「…まさか、野宿だったニャ?」

「うん、ヒートハンドあるからか、寒くないしね」


「そんニャ話をしてるんじゃ無いニャ、鍛冶道具をどこに保管しとくつもりニャ?」

「…あ」

「外に置いといたら盗んでくれと言ってるようなもんニャ、倉庫をどっかで借りるニャ」

「倉庫かぁ…」


全くアテは無い。と言うより不動産を借りるという発想自体が無かった

後でギュスターヴに聞いてみなければ…そう考えていると

後ろからジェニファーが話しかけてきた


「アユミも帰ってたのね」

「はい、ジェニファーさん」

「…あら? 服はどうしたの?」


アユミは遠い目になり


「話せば長くなりますが…エンゼに入ったら即、破かれました」

「本当にどういうことなのよ…?」

「気になるなら後でギュスターヴさんに聞いてみて下さい…」


7日間の事を立ち話で語るべきではないと思う


「アユミ! 待たせたな! 空いたから来てくれ!」

「ハーイ」


あれほど並んでいた行列が無くなっていた、全員「看破の水晶」待ちだったのだろうか?

たしかに便利な水晶だが、「魔看破の水晶」の事もある、依存しきるのもどうかと思った

そんな事を考えながら、また背負って受付カウンターに向かう


「よし、まずは証の再発行からだ

「審査の手数料として、2000ゴールドいただきます」


一旦荷物を下ろしてから、ポケットから1万ゴールド硬貨を1枚出して提示した

5000ゴールド硬貨1枚と1000ゴールド硬貨3枚を釣りとして返された


「確かにいただきました。先ほどギルドマスターから盗賊団の首領を捕まえたという

証言がありました。間違いありませんね?」

「はい」


「看破の水晶」が青く光る


「その功績を鑑みて、前に渡した前科持ち用の木の札ではなく、正式な

「冒険者証」を発行することになりました。お受け取り下さい」

「ありがとうございます」


手渡された「冒険者証」は青銅の鋳物で、首に掛けるストラップがついている

リューツは徹底して事務的に接してくる。だからこそ職員としては信用できる


「これでアユミは冒険者としての開始地点に、ようやく立ったってな感じだ…さて

ワンダラ鍛冶屋に行ってみるか?」

「あ、その前に鍛冶道具を保管する為に倉庫を借りたいのですが」

「む、そういえば家も無かったのだったな…ジェニファー! ここらで手頃な物件はあるか?」

「そうですね…アユミ、今お金はいくらある?」

「18000ゴールドです」

「そう…それだと敷金を要求されるような所は厳しいわね…適当な所を見繕っておくから

先に鍛冶屋に行ってみたらどうかしら?」

「では、そうします」


アユミが背負って、ギュスターヴと一緒に出ていく


「それにしてもあの道具…まさか鍛冶でもやるつもりかしら?」

「ハァ…アユミさんは非常識な事ばかりされますね…困ったものです」


***


アユミとギュスターヴは鍛冶屋にやってきた、アユミは初めて来たわけではなく

一番安いナイフが5000ゴールドなのを見て買うのを断念した店でもあった

改めて見てみると、奥が広く、多くの職人が金物を供給する為に働いているようだ


「よぉガンダー! 今手ぇ空いてるか?」

「ん? なんだギュスターヴか…何の用だ?」

「こいつに鍛冶を教えてやれねぇか?」

「こ、こんにちは…」


アユミはおずおずとお辞儀をする、ガンダーが睨みつけてくる


「冗談じゃねぇ…こんなヒョロヒョロしたガキが鍛冶なんかできるもんかい…帰れ帰れ!」

「お願いします、せめて見学だけでも…」

「ダメだダメだ! これ以上邪魔すんなら炉の中にブチ込むぞ!」

「…はい」


アユミは項垂れ、とぼとぼと出口へ歩いていった、やはり10歳女児に教えてくれる人は居ない…

予想していた事だが、ここまで強く言われると堪える。そんなアユミが背負っている

鍛冶道具とカラドボルグを見て、ガンダーは口を開く


「あのガキ…あの剣みたいなのをどうにかするつもりか? 道具もあるようだが…」

「あぁ…あの剣と道具は前の持ち主からの貰い物でな…やっぱり難しいか?」

「道具は一通り揃っている…だがあの剣の状態が滅茶苦茶だ。うちでも金のかかる大型炉でないと

あれは入らん。苦労して直してもどの道子供の細腕じゃ扱えんし、鍛冶をやるなんて非常識だ

熱意も無い様だし、あのまま諦めた方が本人のためだ」


***


「アユミ、ニャにあっさりと引き下がってるニャ」

「だって、ガンダーさんの言うことはもっともだもん…」

「ニャニィ? 鍛冶を頑張るって…嘘だったニャ!?」

「嘘じゃないよ! 嘘じゃ…」


「お前ら言い争いは止めとけって…アユミの一人芝居に見えるぞ」

「ウルサイニャ…吾輩の今後がかかっているのニャ」

「そこまで言うなら…カラドボルグが教えてよ!」

「ニャニィ!?」


ギュスターヴは辺りを見回し、ハイハイと言いながらアユミの背を押して歩かせた

どうやら、ぐずる子供をあやす親のようだったらしい…少し申し訳なく思った


***


ギルドに戻ると、ジェニファーが書類を手に待っていた


「お帰り…その様子だと、やっぱり断られたようね?」

「はい…」

「残念だけど…私から見ても鍛冶は無理だって思うもの…その道具は一旦預けたら

古物商とかに引き取ってもらった方が…」


「ニャーッ!! わかった! わかったニャ! 吾輩が教えるから売るのだけは勘弁ニャ!!」

「なっ!? だ、誰よ急に!?」

「この剣…みたいな塊です」

「言うニャ…」


カラドボルグが離れて直立した。もちろん柄を下にして


「け…剣が生きてるの!?」

「ハァ…アユミさんは装備まで非常識なのですか…本当に困ったものです」


アユミからすれば「看破の水晶」の方が非常識なのだが…慣れの問題だろうか?


「吾輩はただ精練をして欲しいだけなんだニャ…」

「そういう訳なのです、僕の能力が鍛冶に向いているって言ってついてきたので

何とかしてあげたいのです」

「アユミ…こんな厄介ごとを引き受けて…本当、優しいんだから」


今回ばかりは、自分でもそう思ったが、自分以外にできそうにないなら仕方ないとも思った


「それじゃ、倉庫を借りれそうな所へ案内するわ。地図で言うと…ここね」

「ここって…古物商じゃないですかー!」

「売られるのは嫌ニャアァァ!!」

「落ち着いて! そこの店主は不動産も取り扱っているのよ…もうじき夜になるし

早く向かいましょう」


ギュスターヴは不在時に溜まった仕事を片付けに行き、代わりにジェニファーが

ついてきてくれる事になった。不動産という、買うときに信用が必要な物は

ギルドのお墨付きが無いと、今のアユミには買えないという事だろう


***


ウサギ獣人の店主が経営する古物商、アユミがワンダラに来て最初に訪れたのもここだった

縁がある割には、まだ店主の名前を聞いていなかった


「いらっしゃ…ついに今度は美女を売りに来たか?」

「店主さん…もうその冗談はやめてくださいよ…」

「フッ…一度信用を失えばこうなるのだ」

「アユミ…一体何をしたのよ?」

「最初、盗賊から奪い取った宝石を売りに来たんです

そしたらカタギに就かんと破滅するぞと言われて現在に至ります」


「なるほどね…でも、それはもう過去の話、アユミは盗賊団の首領を捕まえて

その功績で、正式な「冒険者証」が発行されたのよ。少しは信用してもいいんじゃない?」

「首にかけてるのがそうか、なるほど…有言実行して、少しは骨のある所を見せたようだな?

いいだろう…もうこの冗談は言わないでおいてやる」

「ありがとうございます」


頭を下げるアユミを見て、店主はフンと鼻を鳴らし、椅子に座りなおす


「…それで、今日は何の用だ?」

「ここで倉庫を借りれると聞いたのですが」

「ふむ、予算は?」

「今18000ゴールドあります」

「ふーん、じゃあ敷金5000、礼金8000、月々支払い5000で」

「お、おおぅ…」


まさか倉庫だけで全額取られるとは思わなかった…ジェニファーが口出しする


「ちょ…ちょっと! 倉庫で敷金礼金取るなんて…しかも何なのその礼金は!?」

「フン…嫌なら他の所へ行ってもいいんだぞ…あればの話だが」

「ジェニファーさん…どうなんですか?」

「ハァ…アユミの予算内で借りれるのはここくらいしかないわ…あとはいきなり

一戸建てとかに飛んじゃうの」

「えぇ…?」


「ま、他に競合がいなけりゃこんなもんさ…恨むなら、他に倉庫や集合住宅を作ろうとしない

ワンダラの行政を恨むんだな…ククッ…もっとも、リスクを恐れて出来ないだろうがな」

「どういうことですか…?」


「今はヒュージリバーの拠点が戦線を維持しているが、そこが崩れたら魔族が一気に押し寄せてくる

南にある城塞都市ジスならともかく、ワンダラはそこまで守りは固くない…そう思われてるから

元々ある建物だけでやりくりしようと考える連中が多い。皆臆病なのさ」

「はぇ~…」


「一戸建てをワンダラで借りるとしたら…今の相場は敷金4万、礼金無し、月々支払い2万

ってところか、暴落してもこの値段だ、お前に払えるかな?」

「…無理です」


「そっちのお嬢さんは礼金に不満があるようだが、礼金は大家が好きに決めて良いのは常識だろ?」

「だからって…!」

「アユミと言ったか…お前がギルドで活躍したとしても「冒険者」であることに変わりはない

連中の素行の悪さは嫌でも耳に入ってくる…何か売りに来たら応対するが

俺は冒険者が好きではない」

「はぁ…」


「つまり、ここで有り金全部出して誠意を見せろと言っているのだ

嫌なら別に良いのだぞ? 何せ倉庫だからな…古物商としては使い道はいくらでもある」


値切りには応じない、他の倉庫も無い、一戸建てを借りる金も無い

…他に選択肢は無いと思ったアユミは18000ゴールドを差し出した


「借ります」

「アユミ…!」

「家賃滞納したら倉庫の中身は容赦無く売る、それでもいいのか?」

「…ううぅ」


アユミは具合が悪くなってきた


「フッ…冗談だ。売るときはお前の了承を得てからにする、行方不明にならん限りはな」

「ねぇ、せめて家賃滞納の猶予期間を設けましょうよ」

「ダメだ、たとえ冒険者でも、毎日真面目に依頼をこなしていれば5000なんてすぐ溜まる

もうじき下水道掃除の依頼がまた張り出されるはず。それを受ければ一発だ」

「わかりました…借ります」

「よし、契約書を出そう」


店主は紙を2枚重ねてインクで内容を書き、アユミに手渡した


「ちゃんと確認してから名前を書け…間違いないな?」

「…はい」


アユミが名前を書くと、店主は丁寧に紙をはがし

大きな判子を取り出して2枚それぞれに押した


「これで契約は成立だ、まずは倉庫のカギを渡す」

「はい」


37番と書かれた金属の鍵を受け取り、無くさないように「冒険者証」のストラップに付けた


「じゃ、案内するぞ…こっちだ」


アユミ達は店主に連れられて一旦外に出た。もう日が半分沈んでいた



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