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28話 甘さと優しさ

朝、アユミが目を覚ますと、昨日とは別の部屋で、毛布を掛けられてうつ伏せで寝ているとわかった

鍼灸ワンピースを着せられ、その内側には布が巻かれている。今は痛みは無い


「起きたかアユミ、大丈夫だったか? 全く…ちったぁ自分の身を大事にしろよな?」


ギュスターヴが入ってきたのを見て、アユミはゆっくりと起き上がる


「ギュスターヴさん、助かりました…でも、どうしてここに?」

「アグリーの私兵が「白い痴幼女アユミが殺人を犯した」とか

デタラメをぬかしてたから、とっ捕まえて聞き取って…それでバーン邸に来てみたら

黒い煙が出てて焦ったぞ。後はメイドさんにキャリー夫人の捜索を任せて

俺は安全を確保してアユミとヘンリーを保護していたって訳だ」


「そうでしたか…僕の手当てもギュスターヴさんが?」

「ああ、不老不死なら簡単な手当てだけでも十分だと思ったからな」


それを聞いてアユミは少し考える

昨日は「空気摂取」を沢山使った…つまり寝ている間に屁が沢山出たかもしれない


「ギュスターヴさん」

「ん、なんだ?」

「僕が寝てる間、屁は沢山出ましたか?」

「ブッ!!」


盛大に噴出した。ギュスターヴには能力の一覧表を見せているので

そこまで突飛な質問ではない…と、思っているのはアユミだけだった


「グ…ウォッホン! 何を言うかと思えば…何も音はしなかったし

臭くもならなかった、それどころか…やけにいい匂いがしたぞ」

「えぇ…?」


(サリエルさん、これは屁じゃなく、フェロモンだ)


「ま、まぁ臭くなかったのなら良いのです。ご心配をおかけして、すみませんでした」

「おう、あまり気にするな…と、まずは朝飯にしようぜ。夫人達が待ってる」

「…そうですね」


***


食卓では、重苦しい空気が流れていた。食べ終わるまではキャリー夫人も

マギーもブレアーも他のメイド達も、誰も言葉を発しなかった


「皆…この後ディーン王子殿下がお越しになられるわ、その前に…情報の共有をしましょう」

ブレアー、司会進行を頼むわ」

「はい、奥様」


ブレアーはスッと立ち上がり、食卓の中央に立つ


「まず、ヘンリー様の扱いについて…どうぞこちらへ」


不安げにアユミを見るヘンリーを、アユミは優しい眼差しで促す


「頑張って…」


頷き、ゆっくりとブレアーの元へ行き、用意していた台の上に乗せられる


「彼の名はヘンリー! アグリー様の一人息子である!

母親の名は、産んだ本人と奥様の判断で表向きには公言しないものとする

ヘンリー様はバーン家の正統な後継者として育てられる!

皆さん。顔をよく覚えておくのですよ!」

「「「はい!」」」


マギーを見ると、そっと涙を拭っている様子が映った


「次に、昨夜の小火騒ぎについて…アユミさんのおかげで大事には至りませんでしたが

黒煙が出たので隠すことはできません、殿下や衛士達に質問されたら正直に答えるように!」

「「「はい!」」」

「そして犯人ですが…サルシアだと断定されました!」


メイド達がざわつく、昨日アユミを刺して自殺したメイドがサルシアで、同僚だったようだ


「サルシアは自ら命を絶ちましたが、ヘンリー様を殺害せんとした疑いもかかっています

そしてアグリー様が後ろで糸を引いていたとも、キャリー夫人は仰っています

当面の処置として、アグリー様を屋敷に入れない事に決めました。もし帰られたら

キャリー夫人かディーン王子殿下にご報告し、判断を仰ぐように!」

「「「は、はい!」」」


アユミは、一部始終を見ながら自分のやった事を思い返していた

ヘンリーの為に行動したのは間違いないが、アグリーへの復讐心が無かったと言ったら嘘になる

自分が出しゃばらなければバーン家が危機に陥ることは無かったのだろうか? …いや違う

アグリーの横暴に隠し子暗殺未遂…バーン家の歪みといえる部分が一気に噴出した感覚だ

自分が干渉しなくても、遅かれ早かれ今回のような事件は起こっただろう…


ヘンリーを救うことができただけでも良しとしなければ…そう考えた時、ノック音が聞こえ


「キャリー・バーン! 出ませい!」


衛士がやってきたようだ


「私が応じます。ブレアー…後は頼みましたよ」

「奥様…委細心得ております、お任せください」

「え…え…?」


ヘンリーが動揺してキャリー夫人とブレアーを交互に見る

近くで聞いていたギュスターヴも、半ばあきらめの表情で


「放火は重い…たとえ未遂で、自分の家だとしても半年は覚悟しなきゃならんが…」


そう呟いている間に、キャリー夫人が玄関に向かった

恐らく、アグリーが原因とはいえ、火を出してしまった責任を取りにいったのだろう

理不尽だが、自分が庇いに行っても無駄だろう…そうアユミが思っていると


「ヘンリー様、落ち着いて下さい!」

「どうして!? お婆様は悪くないよね!?」

「ヘンリー様、ここは大人しく…っ!!」


ヘンリーは昨夜体験した出来事により、精神がとても不安定になっていたようで

制止するブレアーの腕を噛んでひるませ、キャリー夫人を追った

それを見たアユミの足も自然と動きだしていた


***


ヘンリーは意外に俊足で、すでにディーン王子の足元に着き、今にも噛みつかんばかりだった

アユミはなんとか噛みつく前に追いついてディーン王子の足元からヘンリーを引きはがした


「無礼者ォ!」


衛士が怒鳴る。ヘンリーに腕を噛まれながらアユミは平伏する


「よい! アユミではないか…その少年、やはり只者ではなかったか」

「ディーン殿下! ヘンリーはバーン家の正統な後継者でした!」

「そうか…ヘンリーよ! しばし、夫人を借りていく。だが案ずるな!

勤めを果たせば開放される、今しばらくの辛抱だ!」

「ウゥゥ…フーッ…」


ヘンリーは、なおもアユミを噛みながら大粒の涙を流す


「何卒、寛大なお裁きをお願いいたします!」

「…任せておけ!」


馬車の音が遠のくのを確認して、アユミは噛ませたまま屋内に戻る


***


中ではギュスターヴとブレアーが待っていた、アユミの腕を見て仰天する


「アユミ! お、お前…!」

「ヘンリー様! おやめください!」

「うあぁ…お婆様がぁぁ…」


ヘンリーはようやく歯を離し、大声で泣き出した。アユミの腕は噛み痕が紫に染まっていた

ギュスターヴとブレアーはどうすべきか思案しているようだったが、アユミはそのまま

ヘンリーを抱える


「やーぁー!! おーろーしーてェェ!!」

「なっ…何をするつもりだ!?」

「ヘンリーはこの世の不条理を味わい、深い悲しみに暮れています。この状態では

もう大人がどんなに倫理立てて諭しても彼は理解できず、悲しみが増すばかりです」


秋田歩見にも経験のあることだった。暴れるヘンリーを抱えたまま適当な客間に入って

鍵をかけた


「アユミさん!?」

「大丈夫、任せて下さい」


アユミはベッドまで歩いてヘンリーを離し、一緒にベッドに寝転んだ


「うっ…ヒッグ…」

「ヘンリーはキャリー夫人を守ろうとしたんだよね…偉かったね」

「うっうっ…どうして? ねぇどうして?」


アユミはヘンリーを優しく抱きしめながら続けた

フェロモンも沢山出しておく


「僕はあなたからお婆様を取った悪い女…ヘンリーの好きにしていいよ…」

「うっ…ウアアー!!」


ヘンリーはアユミの手を振り払い、馬乗りになって号泣しながら叩き、ひっかき、噛み

アユミはそれを防ぐこともなく受けていた。やがて力が無くなり動きが緩慢になった所で

傷だらけのアユミは、再びヘンリーを優しく抱きしめた


「頑張ったよね…」

「うっ…うっ……」


ヘンリーは、やがて泣き疲れて眠った。アユミは着衣の乱れを直してから

部屋の鍵を開けた


「うっ…あ、アユミさん…!」


ブレアーは傷だらけのアユミを見てたじろぐ


「僕なら大丈夫です。ヘンリーに手紙を書いて行くので、後はお願いします」

「は、はい…」


ブレアーは、寝ているヘンリーをそっと抱き上げ、部屋を出て行った


***


手紙を書き終えてブレアーに渡し、内容の了承を得た後、自分のバレッタを回収して着けた

床に置かれていたシューズと半ズボンは血まみれでもう着れないが、2万ゴールドは回収できた

玄関に行くとギュスターヴとマギーが待っていた


「行くか、アユミ」

「はい」

「本当に何とお礼を言ったらいいのか…」

「今はヘンリーが健やかに育つ事だけを考えて下さい」

「このご恩は忘れません…ありがとうございました」


マギーはアユミ達の姿が見えなくなるまで見送った


***


「ふぁ…アユミお姉ちゃん…?」

「目が覚めましたか、ヘンリー様」

「どこ…? アユミお姉ちゃんはどこ!? 僕…ひどい事を…」

「…アユミさんから手紙を預かっています」

「え…?」


***


 親愛なるヘンリーへ


 あなたはまだ弱い、ブレアーさんに強くなる方法を教えてもらうのです

 いつか、マギーさんやキャリー夫人を守れる位の強さを身につけられたら

 また会って話をしましょう


 アユミ


***


「アユミさんは…怒ってはいませんでしたよ」

「アユミお姉ちゃん…僕、強くなるよ! それで…ちゃんと謝るんだ!」

「このブレアー、お手伝いさせて頂きます」


***


馬車内にて


「あのヘンリーという少年…そなたの孫というわけか…つまりアグリーは婚姻もせぬうちに

こしらえてしまったのか…」

「お恥ずかしい限りでございます…」

「奴の放蕩ぶりは目に余る…父上とも話すが、場合によっては幼きヘンリーを

バーン家当主に据えなければならぬかもしれぬぞ?」

「それが許されるのならば、私は身命を賭してヘンリーを導く覚悟でございます」


「うむ…流石だ、父上が一目置かれるのも頷ける」

「いいえ、私はアグリーを甘やかす愚かな母でした…しかし、アユミの行動が

私の目を覚まさせてくれたのです。彼女がいてくれなければ、どうなっていたか…」

「そうか…不思議な少女…いや、勇者か…」


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