表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/88

27話 お家騒動

夕方、エンゼに戻ってきたアユミは、マギーとヘンリーと共に馬車を降りた


「お世話になりました」

「殿下、救っていただいたご恩は忘れません」

「我が心は、常に民と共にある…アユミも達者でな」

「はい」


「よーし、出て良いぞー!」

「「ははっ!」」


ディーン王子達は城の方へと去っていった


「さぁ、行きましょうマギーさん」

「え、ええ…!」


3人はバーン家へと向かう


***


扉をノックして、しばし待つ。マギーはそわそわしている


「母さん、どうしたの…?」

「ヘンリーは…物心ついてからは初めてだったわね…」


マギーはヘンリーを見て深呼吸する、覚悟を決めた母親の顔に見える

その時、扉越しに女性の声が聞こえてきた


「どなたでしょうか?」

「アユミです、キャリー夫人に火急の用件があり、失礼を承知で参上いたしました」


扉がゆっくりと開く、そこにいたのは、賠償金清算の時に夫人と一緒にいたメイドだった

彼女はマギーの姿を見ると驚き、怒気を含んだ声で言った


「マギー…! あなた…よく顔を出せたものね!」

「ブレアー…あなたの怒りももっともだわ、私はどうなってもいいから

どうかヘンリーだけは…!」


アグリーのことだ、ヤり捨てた事を自分の都合のいい様に吹聴したのだろう

やはりここは一肌脱がなければ…アユミは2人の言い合いを遮って言った


「ブレアーさん、キャリー夫人は今どちらに?」

「くっ…奥様は只今私室にてアグリー様と話し合いをなされています」

「それはちょうどいいです。彼にも話があったので、案内して下さい」

「し、しかし…話の途中に割って入るなど…」

「ブレアーさんには迷惑はかけません。後で僕が厚顔無恥な無礼者だったと

キャリー夫人に報告すれば良いのです」

「…っ、だ、ダメです! 日を改めて下さい!」


ブレアーはアユミの態度に戸惑っているようだ

一方で、マギーは何もそこまでと言わんばかりの表情でアユミを見ている

しかし、ここで妥協する気は無かったアユミは

ブレアーの胸ぐらを掴んで、ちょっと上げた


「なっ…!」

「…あなたはアユミに脅迫され、命の危険を感じ、やむを得ず案内した」

「あ、アユミさん…!」

「わ…わかりました…ご案内します」


***


私室のドアの直前にて


「この先が…奥様の私室です」

「わかりました。ブレアーさんは少し離れた位置から聞いてて下さい」

「はい…」

「マギーさん、後から来て下さいね」

「は、はい」

「ヘンリー…ちょっと我慢してね」


アユミはヘンリーの腕を右手で強くつかむ


「い、痛いよお姉ちゃん!」


無視して、左手で勢いよくドアを開けた


***


手前にアグリーが立っていて、奥にキャリー夫人が座っている

一様に驚いた表情をしていた


「なっ…貴様は!?」

「あ、アユミ!?」


アグリーを左手で押しのけ、ヘンリーを連れて夫人の前に立つ


「先に謝ります! 申し訳ありません! そして、この子はヘンリー! あなたの孫です!」

「な…なんですって!?」

「マギーさん! こっちへ来るのです!」


マギーは恐る恐るドアから顔を出す、アグリーは憤怒の表情をマギーに向けている


「キ…サ…マ…!」

「ヒイッ!」


マギーは腰を抜かす。だがアユミは全てを無視して話を進めることにした


「何度でも言います! キャリー夫人! この子はヘンリー! あなたの孫です!」

「で…デタラメを抜かすナァ!! メイド共! こいつらを叩き出せ!!」

「デタラメと言いますか! ならば今すぐ教会へ行きましょう!

ここに「看破の水晶」があるのって本当に幸せですね!」

「グッ…!?」


マギーは何とか勇気を振り絞り、ハイハイで夫人のもとへ近付く


「こ、この子は私とアグリー様の間にできた息子でございます…!

お、奥様…ど、どうかヘンリーだけはお許しを…!」

「母上! このような戯言を真に受けないで下さい! …この売女め!!

死ぬ覚悟はできてるだろうなァ!?」

「教会でも牢獄でも、どこだって行きまっすぅううう!!」


その時、キャリー夫人は両手をうち合わせて大きな音を鳴らして言った


「静まりなさい!!」


***


少しの間の後、キャリー夫人は怯え切ったヘンリーに歩み寄り、屈んで目線を

ヘンリーと同じにして語り掛ける


「ぼうや、お名前は?」

「へ、ヘンリー…」

「そう…貴族にとって名乗りはとても大事なこと、覚えておくのですよ」

「は、はい…」

「フフ…いい子ね…」


キャリー夫人はヘンリーに微笑みかけながら頭を撫でた後、ゆっくり立ち上がり

アグリーを睨みつける


「アグリー・バーン!!」

「!?」

「ヘンリーの父親であることを認知なさい!」

「は、母上!?」

「お、奥様…!」

「こ、こんな戯言を信じるのですか!?」

「…ならば、本当に教会に行って世間に我が家の騒動を晒してもよいのですよ!」

「うっ…ぐぐぐ…!」


アグリーの肩が激しい怒りに震える、だが後に否定する言葉が続かない

この話が真であると言っているようなものだ


「認知しない場合…アグリーはただの強姦魔! そんな者を家に入れるわけにはいきません!」

「ま、待ってください母上!」

「選びなさい! ヘンリーに悔い改め、立派な父親になる事を誓うか!?

それとも、バーンの名を捨て勘当されるか!?」

「う、うおぉぉぉ!!」


アグリーは耐え切れず家から飛び出していった

その様子をキャリー夫人はじっと見続け、ため息を吐く


「はぁ…どうしてこうなってしまったのかしら…甘やかしも極まると大罪になるわね…」


ここまでを見届けたアユミはキャリー夫人に対し土下座した


「申し訳ありませんでした! お孫さんとマギーさんを傷つけ、無理やりここへ

押し入ってしまいました! 存分に罰をお与えください!」

「お、お姉ちゃん…」


キャリー夫人は呆れ顔になり


「アユミ…こんなケレン味のある手段を取らなくても…」

「ヘンリーとマギーさんは、誘拐されていた所を先程ディーン王子殿下によって救出されました

そこでヘンリーの生い立ちを知り、彼の安全の為にも一刻も早くキャリー夫人に

保護を求めるべきだと…僕の一存で決めました! ヘンリーの命と比べれば

僕が叱られるだけで済むなら安いもの!」


「そこまで言うのなら…あなたに罰を与えましょう」

「はい!」

「お、奥様!?」

「…ヘンリーの友達になってあげて」


アユミは顔を上げた


「あ…はい、僕でよければ」


キャリー夫人は微笑んだ


「マギー、再び私の下で働かないかしら?」

「奥様…! 喜んでお仕えいたします!」


結局、キャリー夫人の好意に甘える形になってしまったが

人間関係をうまく回すことができないアユミには、これが精一杯であった


***


日が沈んだので、このまま一晩泊まるよう提案され、アユミは了承した

マギーはメイドとして復職するため、一旦今までの仮住まいに戻って支度をすることに

ブレアーは、アユミを泊める旨を教会まで伝えに行き、キャリー夫人は

他のメイド達に夕食とベッドメイキングの指示を出しに行った

…アグリーは結局戻ってこなかった


アユミがソファーに座って、今日あったことを思い返しながらぼーっとしていると

ヘンリーが隣に座ってきたので、自然にヘンリーの腰に手を回した


「あっ、ヘンリー…」


無意識にやってしまって思わず顔を見る…嫌がってはいないようだ

それどころか、体を密着させてきた


「さっきは強く引っ張って…ごめんね…」

「ううん…平気だよお姉ちゃん…」

「…ア、ユ、ミ、って呼んで?」

「うん…アユミお姉ちゃん…」


アユミは苦笑しながらヘンリーの頭を撫でる。不老不死だから「お姉ちゃん」と呼ばれるのは

今だけの事…どう呼ばれるのが適当なのだろうか…考えているとメイドがやってきて


「お食事の用意ができました」

「わかりました…行こう、ヘンリー」

「うん!」


2人隣り合って食べる様子は微笑ましかったという


***


そして就寝時間


「ではアユミさんはこの部屋をお使いください」

「はい、ではおやすみなさい」

「おやすみ、アユミお姉ちゃん」

「おやすみ、アユミ」


中に入ると6畳程の広さの部屋にベッドが一つ、サイドフレームを

奥の壁に寄せて置かれていた。アユミは持っていたキャンドルをベッド横の机に置き

シューズとバレッタも外して置き、今日あったことを思い返す続きをした


朝早くに羞恥プレイから始まり、どうなることかと思ったが、訓練自体はまともだったと思う

盗賊退治にも参加し、ヘンリーとマギーを救えて、斥候とやらに向いている事が分かった

昼食の魚のつみれ汁を途中であきらめたのは心残りだが、作り方はしっかり見させてもらった

機会があれば自分で作ってみるのも良いだろう。あとは…


「エルフ…か」


あのトラ男が唐突に言った謎の存在、ディーン王子が「聞いたことがない単語」と言っていた

歴史書で調べると言っていたが期待はできない…この世界の人間は歴史に無頓着なのだろうか?

ふと、歴史好きなゼログニの顔が脳裏に浮かぶ


「まぁ、分からない事に囚われてちゃダメだね。出来ることからコツコツと…」


まずは約束通り、ワンダラに戻って精錬だ。そう考えキャンドルの火を吹き消そうとした時

ドアをノックする音が聞こえた


「…? はい、どうぞ」


入ってきたのはヘンリーだった、アユミとは別の部屋をあてがわれていたはずだが…


「ヘンリー…どうしたの?」

「アユミお姉ちゃん…一緒に寝ていい?」


おおっとぉ…秋田歩見も昔は母親に甘えて寝床にもぐりこんだ時期があったが

自分がそうさせる事になるとは…それにヘンリーにここまで好かれるような事を

した覚えも無いが…とはいえ、拒む気は全くなかった


「しょうがないなぁ…おいで」

「えへへ…♪」


アユミは奥の壁に寄ってベッドにスペースを空けてヘンリーを招いた後

体を伸ばしてキャンドルの火を吹き消し、毛布を一緒に被る


「あったかぁい…♪」

「もう…大人になったら、一緒に寝たいとか言っちゃダメだからね?」

「どうして?」

「…大人になれば分かるよ、今は良いから…ね?」


アユミが頭を撫でるとヘンリーは体を寄せて甘えてくる


「アユミお姉ちゃん…いい匂い…好きぃ…」


寝てしまったようだ…全く、可愛らしい夜這いもあるものだ

向かい合った状態で、改めて毛布を掛けなおした…その時である


キイィィ…カチャリ


ノックも無しに慎重にドアを開けて入ってきたのは、アユミが知らないメイドだった

足音を出さないように、不自然な歩き方をするのを月明りで見て、嫌な予感がし、アユミは

とっさに「透明化」を使い、頭だけ毛布から出し、ヘンリーの上に覆いかぶさる


「フフフ…いたいた…」


メイドは懐から短剣を取り出し、両手で構え、下に刃先を向け、まっすぐ毛布ごと突き刺した


「ぐっ…!」

「!?」


メイドは驚き、刺した短剣から思わず手を放す。アユミは「透明化」を解き、起き上がった

背中には短剣が刺さりっぱなしで、血がにじみ出ている


「誰の…差し金だ!」

「くっ」


メイドはもう一本の短剣を取り出し、また襲い掛かってきたので

両腕を交差させて刃を受けた後、アユミは短剣を持つ手に向けてコールドハンドを放った

しかし背中からの痛みで、相手の腕を掴むには至らない


「ヒギャアッ!?」

「うーん…!? あ、アユミお姉ちゃん…!? ち、血が!?」


起きたヘンリーはアユミの背中に刺さった短剣を見て仰天している

一旦ひるんだメイドは、短剣を逆手に持ち替え、こう絶叫した


「お助けぇえええ!!」


そしてメイドはアユミに駆け寄り、自分自身の喉に短剣を突き刺した


「なっ…!?」


メイドは恍惚の笑みを浮かべながら絶命した。首から血しぶきが噴き出す

それから間を置かずにアグリー・バーンが部屋に乱入してきた


「どうした! む! 貴様…我が家のメイドを殺したな!」


次に、アグリーの私兵が3人やってきた


「殺人事件ですね!」

「犯人は白い痴幼女アユミ!」

「ヘンリーを人質にしている!」


それから、騒ぎを聞きつけたキャリー夫人が、火のついたキャンドルを手に現れた


「何の騒ぎですか!?」

「母上! 殺人事件です! ついにこの女狐が本性を現したのです!」

「アユミ…!? 背中に…!」


キャリー夫人には、アユミの背中に刺さった短剣が見えており、全てを察した様子だった


「アユミがそんな事するはずないわ! むしろ襲われた方よ! …まさかアグリー!?」

「…母上はお疲れのようだ! 安全な所へお連れしろ!」

「放しなさい! アユミ! アユミィー!!」


私兵の内2人がキャリー夫人を拘束して強引に連れて行った

その反動で、夫人の持っていたキャンドルが床に落ちた


「犯人は白い痴幼女アユミだとエンゼ中に触れ回れ! ディーン殿下にも報告しろ!」

「ははっ!」


残った私兵1人も走り去り、それを見送ったアグリーの笑みが月明りで映った


「アグリー…この外道ォ!!」


アユミが叫んだ…その時、キャンドルが落ちた地点から火が燃え上がった


「う、うおお!? お、俺は知らねぇぞ!!」


アグリーは火を消そうともせず、さっさと逃げてしまった


***


黒煙を上げながら廊下が燃えている、今は1メートル弱の高さの火だ


「…っ、ヘンリー! 僕に刺さってる剣を抜いて!」

「で…できないよぉ…」

「いいから! あなたにしかできないの!」

「ううっ…!」


ヘンリーは泣きじゃくりながら、震える手で短剣をつかむ。だが、なかなか抜けず

へっぴり腰で短剣を動かしたので、傷口が広がり、出血量が増える

アユミは歯を食いしばって耐える


「うぐぐ…」

「ぬ、抜けないよ…アユミお姉ちゃん…」

「…僕はどうなってもいいから、力を入れて抜いて!」

「う…うああ…っ!」


なんとか抜けた。一緒に刺さっていた毛布も体から離れる。火は先程よりも大きくなった

痛みに耐えて、アユミは着ていた半袖を脱ぎ

死んだメイドの血に浸しながら半ズボンも脱ぎ、火の中に飛び込んだ


「アユミお姉ちゃん!!」

「アイス! コフィン! アイス! コフィン! アイス! コフィン!」


アユミは火の中で、血染めの半袖を床に叩きつけながら、詠唱し続ける

半袖は燃えず、冷やし続けることは出来るが、水の無い状態では

燃え広がらないようにするのがやっと。黒煙も充満してきた


「ヘンリー! 床に伏せてじっとしてて!」

「う…うん…!」


「健康な肉体」により、腕と背中からの出血は止まり、持久力が上昇している

だが燃えている中なので「空気摂取」が使えず、空腹になりつつあった

そんな時、ブレアーがやってきた


「ヒィッ!? あ、アユミさん!?」

「ブレアーさん! 水! 水ー!!」


ブレアーは慌てて水を汲みに行き、ほどなく桶に入れて持ってきてアユミごと水を掛け

ようやく鎮火した


「アユミさん! どういうことですか!?」

「話は後です! キャリー夫人がアグリーの私兵に拘束されて

どこかへ連れていかれました!」

「な、なんですって!?」

「早く探しに…っ!?」


ぐうぅぅぅ


アユミはその場に倒れ伏した、背中の痛み、持久力、空腹感ともに限界に達していた

慌てて「空気摂取」を始め、口をパクパクする姿は、陸に上がった魚のようだった

その時、入口の方から声が聞こえてきた


「アユミー! 大丈夫かー!?」

「あうあ…」


ギュスターヴが駆け寄ってきたのだ。何故こんなところに、と思う前に

安心感の方が勝り、アユミは意識を手放した


***


エンゼから大分離れた農家の一つにて


「ハァ…ハァ…や…やってやったぜ! アユミはもう終わりだ!

小火が出たのは予想外だが…これでバーン家跡取りの座は安泰!」


アグリーの後ろの暗がりから、フードを被った男が近付く

その右手には短剣が握られている


「いえいえ、出火は時を得たみごとな行動でしたよ…これであなたの役目も終わりです!」

「グハァッ…な、何故…!?」

「本当に終わりなのはバーン家なのだと気付かないとは…おめでたい男だ!

魔族に父と兄を殺られたと疑いもせず、今まで良く踊ってくれたものだよ…」

「だ…騙した…のか…!」

「殺ったのは我らだ」

「おのれ…おのれ…! 俺は…何の為に…!」

「愚かな人間共は全て我らの為に生まれ、死んでゆく、それだけの事だ…さて」

「ま、待て! お、俺を殺したらすぐにバレるぞ…!」

「ほう? 死体処理の心配なら無用だ。しっかり血抜きをしてから毛を取り除いて肉を削ぎ

撹拌器にかければ、もはや何の肉かわかるまい。骨も洗ってから研削盤にかけて粉にすれば

何も問題は無い」

「ひ、ヒイィ!!」

「…そうだ、ここまで役立ってくれた礼に、血液は薬品にして再利用してやろう

さぁ母なる大地に還るがよい」

「し、し、死にたくないィィ!!」


***


フードを被った男は、笑みを浮かべながら

アグリーの死体を逆さに吊るして血抜きをしている


「さて、アユミとやらはどう動くかな? まあ、バーン家を庇って破滅したとしても

それはそれで、取るに足らん事だ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ