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25話 草の根

朝になり、半袖半ズボンにシューズにバレッタの恰好に着替えたところで


「アユミ! ディーン王子殿下のご指示により迎えに参った! 出ませい!」

「えっ、もう!?」

「アユミすまん! 予想よりも早かった! 着替えて…はいるか

このパン食いながら行ってくれ!」

「は、はい~」

「程々に頑張ってくるニャー」


ギュスターヴに渡されたパンを持って、アユミは慌ただしく出発した


***


走りながらパンを食べ終え、しばらくして運動場に到着した。城に併設されていて

土の地面が広がっている。オグホープで見た魔族達の運動場と違い

屋内で運動できるような場所はなく、倉庫に運動用具が置かれているだけだった

その分屋外が広くなっているが、総面積は魔族のより劣る印象だ


中央には、アユミと同じような服装の、兵士らしき集団が整然と並んでおり

それに対してディーン王子が立ち、訓示を与えているようだ。人間族以外はいない

そこへ、アユミと迎えに来た兵士が駆け寄る


「来たかアユミ! 諸君! 彼女が今日の訓練に参加する勇者だ! だが特別な事はない!

いつも通り、我らの練度の高さを見せるのみ! 諸君の尽力に期待する!」


アユミは隊列の端、迎えに来た兵士の後ろに並ぶ

すると何やら周りから「白…」というヒソヒソ話が聞こえてくる


「訓練中に私語は慎めー! 今発言した者は誰だ!? 貴様か!?」

「サー! 違いますサー!」

「自分でありますサー!」

「貴様か! 何を発言したか…正直に大声で言ってみろ!

「イエッサー! 彼女は巷で「白い痴幼女」と呼ばれ有名であります!

何故そう呼ばれているのか気になって、口に出てしまいました!」


アユミは物凄く渋い顔になって、発言した兵士をにらみつける

決闘裁判で、着ている物全部燃えカスにした事なら、自分は悪くないはず

まさか、冒険者ギルドで脱いだ事が変に伝わったのだろうか?

それとも、魔族領での醜態がここまで伝わったのか?

いずれにしろ噂というのは恐ろしい…


「う、うむ! アユミ! 何か言うことはあるか!?」


これは新手の羞恥プレイか何かだろうか?


「…自分の持つ勇者の力の中に、全裸にならないと使えないものがあるのです

決して好き好んで痴女になっているわけではないとお伝えしておきます」

「…だ、そうだ…理解したか!?」

「…サー! イエッサー!」


絶対分かっていないだろう…しかしこれ以上この話を続ける気はない


「よし! まずはストレッチの後に走り込みだ!」

「「「サー! イエッサー!」」」


アユミはこういう体育会系の組織は苦手に感じた、だが今日だけ我慢である

兵士達は2人1組で背中を押したりしているが、アユミの体は10歳児なので

助けが要らないくらいのやわらかさであった


***


ストレッチの後走り込みが始まった。ディーン王子が先頭に立ち

兵士達は行列を成して付いていく。アユミはその後方につき、全員揃って

運動場の外側を走る。速度は小走りといった感じだった

オグホープでの運動テストの時は5歳児で、縄に引っ張られながら走ったので

それに比べれば温い方…と思ったその時


ピィー!!


突然ディーン王子がホイッスルを鳴らし、全力疾走を始めた。兵士達も

それに必死で付いて行った。アユミも真似して全力で走る

10秒程で速度が元に戻り、また小走りを始めた。この静と動を交互に行う走り方は

行軍中に敵と遭遇した時を想定して取り入れられたらしい

30分この様な走り込みが続いた


***


「よし! 休め!」

「「「サー! イエッサー!」」」


走った後、兵士達は入念なストレッチと水分補給をしていたので

アユミもそれにならって休憩していると、ディーン王子が近づいてきた

手にはバケツと銅の洗面桶を持っている


「よーし! 諸君は剣の素振りの準備! アユミは勇者の力の試験に移る!」

「はい」

「「「サー! イエッサー!」」」


兵士達は自分の剣を取りに向かい、ディーン王子は水を汲んで洗面桶に入れる


「アユミの勇者の力は、昨日の決闘裁判の時に大体見させてもらったが

今日はまだ見ていない能力を中心に確認させてもらう」

「はい」

「まずは「呼吸省略可」を見る。水に顔を漬けた状態をどのくらい維持できるかを測る

勿論苦しくなったらすぐに顔を上げて良い」

「わかりました」

「では…始めー!」


アユミは洗面桶に顔を突っ込んだ、程なく素振りをする兵士達の掛け声が響いてきた


***


「アユミ、聞こえていたら右手を上げろ」


アユミは右手を上げる


***


「アユミ、1+1は?」


アユミはVサインをする


***


「アユミ、拍手をしてみろ」


自分の頭上で手を叩いてみた


***


「…よし! もう顔を上げていいぞ」


言われた通りに顔を上げる


「うむ…30分ずっとそのままだったな、「呼吸省略可」という能力は本物だ…

諸君らも素振りはここまでー!」

「「「サ、サー…イエッ…サー!」」」


もしかして、息を止めている間ずっと素振りさせ続けるつもりだったのだろうか?

だとしたら、申し訳ない気持ちに…ならなくもない


***


ディーン王子は書類に目を落としながら考えている。あれはおそらく

アユミ自身が書いた能力の一覧表の写しだろう


「よし、次に「透明化」とやらを使って見せてくれ。まずは服を着たままでな」

「はい」


服を着たまま「透明化」を使って見せるのは何気に初めての事だ

どんな反応を見せるのか内心ワクワクしていた…が


「う…うむう…諸君の感想を聞こう!」

「サー! 服が宙に浮いています!」

「サー! 気持ち悪いです!」

「サー! 服を脱いでもらうことを進言いたします!」


そこまで言われたら仕方ない、アユミは服を脱いだ


「さぁ! 服を脱ぎましたよ! これで全裸の必要性がおわかりいただけたでしょう!」

「「「…イエスマム!」」」


マムと言われる歳でもないが…これで少しは誤解が解ければ良いのだが

そう願いつつ服を着て透明化を解除する


「ではいよいよ魔族の魔法を見せてもらおう! 的を設置せよ!」

「「イエッサー!」」


兵士2人が倉庫から的となる木の杭を持ってくる間、資料を見ながらディーン王子は話続ける


「受け取った資料によれば、ヘルファイアとアイスコフィンを使えるが

手で直接触れていないと効果が出ない…とある。決闘裁判の時に出し惜しみしたとは

思わんが、やはり直接見た方が良いだろう、頼むぞ!」

「は、はい…」


的の準備が終わり、設置役の2人が戻ったのを確認してから、アユミが的の前に立つ

結果は見えているが、王族の頼みは断れない


「ヘルファイア!!」


ポンッ! …ポスッ


「…」


線香花火並みに小さな火の玉が発射され、杭に届かずに地面に落ちて消えた

予想通りとはいえ視線が痛い、早く済ませてしまおう


「アイスコフィン!!」


シュー…


「…それで終わりか?」

「はい…直接触れていないと、こんなものなのです…次は直接触れた状態を

ご覧いただきます」


そう言うとアユミは、息止めに使った銅の洗面桶を持ってくる

当然水はそのまま残っている


「お手は触れないで下さい…いきます」


まずはコールドハンドを使い、一瞬で氷にしてみせた

洗面桶の裏側を叩いて氷を取り出して見せると、感嘆の声が兵士達から上がる


「今度は沸騰させます」


氷を洗面桶の中に戻してヒートハンドを使う、グツグツと音を立て

洗面桶から湯気が立ち上るが、今度は声は上がらない


「ふむ…確かに、しかし直接触れていないと効果が無い魔法など初めて見たぞ

想像以上に地味なのだな」

「…本来の魔族の魔法は、もっと派手ですよ」

「それは戦場で既に見ている、アユミのはもはや新種の魔法と捉えた方が良いだろう」

「そうですか…」


「よし、アユミの勇者としての能力は十分見せてもらった!

諸君らも休みは取れたであろう!」

「「「サー! イエッサー!」」」

「ここからは全員通常のノルマをこなす! まずはスクワット100回!」

「「「サー! イエッサー!」」」


まだ「記憶能力強化」をテストしていないと思ったが、王子は体育会系だから

記憶能力をわざわざ調べる姿は想像できなかった


***


「昼食の時間だ! 英気を養え!」

「「「サー! イエッサー!」」」


食堂も城に併設されていて、大きい長テーブルを部屋中央に、扉に対して横向きに設け

後は6人程が使える円卓が点在していた


アユミは大きめのお椀とスプーンを持って、鍋の列に並ぶ

昼食のメニューは、野菜がたっぷり入った魚のつみれ汁のみ。おかわり自由

海が近く、簡単に大量に作れて、栄養バランスも良いという理由で採用されている

まれに高級魚が紛れていることもあり、兵士達の楽しみとなっていた


席は決まっていないようなので、アユミは端っこの席に座って食べ始める

塩と野菜の甘味と魚の旨味が合わさって、とてもまったりできる

しばらくするとディーン王子が隣の席に座った


「どうした、こんな隅の方に座って」

「…人と関わるのは苦手なんです」

「冒険者ギルドでも、協調性は大事だろう?」

「話しかけられたら無視はしません。でも、こちらからだと何を話せばいいものか…」

「アユミのような奴は物事を難しく考えすぎるのだ…思い切って話を切り出せば

案外うまくいくものだぞ」

「そうですかね…?」


王子のような体育会系には無縁の悩み…と思っても、口には出さない

しかし難しく考えすぎるという意見も一理あるかもしれない。練習なら

ちょうどカラドボルグという手頃な話し相手もできたことだし…と、考えていると


「サー! 緊急連絡です!」

「どうした!?」

「盗賊団の居場所が判明しました!」

「よーし諸君! 直ちに出撃の準備だ! 5分後に城門前に集合!」

「「「サー! イエッサー!」」」


ディーン王子と兵士達は食べかけのお椀をその場に放置したまま食堂を出ていく

アユミは一瞬反応が遅れたが、全員出て行った所で状況を把握した


「勿体ないけど…」


食べかけのつみれ汁をあきらめて、アユミも食堂を出た


***


食事中…


「まさか脱ぎたいんじゃなく、脱がなきゃいけないとは…」

「彼女も苦労してるんだな…」

「しかし…もう「白い痴幼女」の噂は広まりきってしまってるぞ…」

「噂だけは俺らにはどうにもしてやれん…あの娘が何か名声を得られれば別だがな…」

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