24話 猫の正体
教会へ戻った後、教会の服と靴を脱ぎ鍼灸ワンピースを着る
服は汚れていないからそのまま返し、靴はブラッシングしてから返した
「そういや…ディーン王子の所に1日仮入隊するように言われていたな
運動しやすい服を買いにいくぞ」
「え…まだお金無いんですけど…」
「必要経費だから出す、もうじき店が閉まっちまう…早くいくぞ」
「わかりました」
「私もついて行きましょうか?」
「ロータスは休んでてくれ、服を買いに行くだけだからな」
「そうですか…では気を付けて」
***
服屋への道すがら、ギュスターヴと会話する
「…ここに来る途中、馬車に乗り合わせた老夫婦いただろ?」
「はい」
「優しいアユミによろしく伝えてくれ…ってな」
「そんな…大したことは…」
「普通の奴ならここまで酷いことされたら復讐の鬼となってもおかしくないんだぞ?
俺もギルドもアユミの優しさに助けられた…ありがとな」
「…はい」
***
服屋にたどり着いた、ここはバーゲンセールではなく、普通に男の店員が応対する
「いらっしゃいませ、何をお求めでしょうか?」
「こいつがディーン殿下の訓練に参加することになってな、運動に適した
服と靴…あと髪留めが欲しい」
「あぁ! 新しい勇者の方ですね? おーい、女性のお客様を頼む!」
「はーい! どうぞこちらへー」
女性店員がやってきてアユミを店の奥へ案内し、鍼灸ワンピースを折り畳み
半袖半ズボンにシューズ、そして大きめのバレッタをアユミに着せて出てきた
「王子の訓練ならこの格好が妥当なところです」
「じゃあこれでお願いします」
「では全部合わせて5400ゴールドです」
ギュスターヴが代金を支払い、着たまま店を出た
城から出た時の微妙な空気は払拭された気がした
***
教会へ戻ると、入り口横に豪華な馬車が駐められていた
それを見ていると、ロータスが出迎えにきた
「アユミにギュスターヴ! ちょうどいいところに」
「ん? どうした…誰か会いに来たのか?」
「今さっきキャリー夫人がお越しになったのよ、今客室でお待ちになってるわ」
「わかりました」
客室に行くと、キャリー夫人が座って待っていたが、アユミの姿を認めると
スッと立ち上がり、お供のメイドらしき女性と共に一礼したので
アユミもつられてお辞儀をした。顔を上げると、夫人の優美な微笑みが見えた
見つめていると、ギュスターヴが咳払いをして話を切り出す
「キャリー夫人、どうぞお掛けになってください…あっと、今は子爵でしたね」
「ありがとう、今まで通りキャリー夫人でいいのよ。早速だけど、賠償金の
支払いを済ませに来させてもらったわ」
そう言うと、お供のメイドがトレイに大量の1万ゴールド硬貨を乗せて提示した
子爵とはいえ、こんなに早く用意できるものなのかと面喰らってしまう
「アユミ? ちゃんと確認してね」
「は、はい…」
アユミは驚きつつも数え始める
「記憶能力強化」により数えるのは速い。合計83万ゴールドあった
「83万…あの…6100ゴールド多いようですが…」
「あら~、そうだったかしら~?」
ギュスターヴが耳打ちしてくる
「ここは夫人の顔を立てておけ」
「…で、では確かに頂きました…ここから2万取って…残りを手術費用として
ロータスさんに支払います」
「はい、これは教会への支払いという扱いになります」
「こ、これで清算は終わり…ですね、ご足労いただきありがとうございました」
アユミが頭を下げると、キャリー夫人が語り掛けてくる
「礼を言うのは私の方よ、アユミはバーン家が立ち直る機会をくれたのだから」
一呼吸おいてキャリー夫人は続ける
「夫と長男に先立たれ、残ったアグリーを甘やかしてしまったのが私の過ち
これからは教育の鬼となってあの子を厳しく鍛えなおしてみせるわ!」
「そ、そうですか…」
血筋がアグリーしかいないのなら仕方ないのかもしれないが
彼がそう簡単に心を入れ替えるとは思えない…しかし、アユミは助言できるほど
人生経験が長いわけでもない。ここから先はバーン家が解決すべき問題だろう
「コホン…さて、アユミには…これとは別に渡したいモノがあるのよ」
「…え?」
「本人たっての願いでね…表に用意するからついてきてもらえるかしら?」
「あ、はい…」
モノ? 本人? 一体誰のことを言っているのだろうか?
アグリー・バーンではないだろうし…思い当たる人物はいない
***
先に夫人のメイドが小走りで出て、馬車の横に立ち
アユミとギュスターヴとロータスとキャリー夫人は揃って外に出た
「皆さんは既に会っているはずだけど、改めて紹介します…ドアを開けなさい!」
「はっ!」
メイドが馬車の扉を開けると、誰も乗っていない…いや、大きくひん曲がった剣が見える
アグリー・バーンが決闘裁判に持ち出し、アユミがグニャグニャにした、あの剣である
刺さっていた剣は、さすがに外されていた
「カラドボルグ! 早く出てきなさい!」
「重いのニャ…手伝って欲しいニャ…」
「け…剣が喋った!」
「ウルサイニャ…アユミが持ち出すんだニャ」
「えぇ…?」
「ごめんなさい…彼は気まぐれで…お願いできるかしら?」
「はい…」
アユミは馬車に近付き、曲がった剣を持とうとする
「待つニャ、ものすごく重いから馬車を傷つけないように注意するニャ」
「はい…」
柄の部分を左腋に挟み、右手を刀身部分に添えてゆっくり馬車を出る
大体5~7キロ位だろうか
「ふぅ…出しましたよ」
「ニャ、ここなら姿を表せるニャ、地面に置くニャ」
アユミが言われた通りにすると、剣は決闘裁判の時のように黒ずんで巨大になっていき
やがて体長3メートルを超える黒猫になった。その後アユミに頬ずりしながら語る
「吾輩はカラドボルグ…生きてる剣ニャ、さっきの戦いでアユミの熱に惚れ込んだニャ
だから吾輩はアユミについて行くのニャ」
「決闘裁判でですか? それならギュスターヴさんの方が活躍したのに…」
「ハゲたおっさんよりも美少女の方がいいニャ」
ギュスターヴが腕を組んでカラドボルグを無言でにらみつける
「美少女って…本当は男なのに…」
「ニャハーン? 男ニャー?」
「ちょ…ひあぁっ!?」
カラドボルグはアユミの股間に顔を突っ込んで鼻を押し付けて匂いを嗅いでいる
ヒゲも敏感な部分に触れて、アユミは身悶える
「嘘つくニャ、チンチンのニャい男がいるかニャ、変なこと言うニャ」
「はぁ…はぁ…ぼ、僕が悪いの…?」
「そうニャ、吾輩のチンチンに剣をブッ刺した責任をとって精錬するのニャ」
「せ、精錬…?」
カラドボルグは剣に戻って続ける
「エサは無くてもいいけど、精錬は必須ニャ。もうやる気のニャい鍛冶師に
いじられるのはコリゴリニャ…鋳造も論外ニャ、是非とも精錬を学んで欲しいニャ」
聞いていたギュスターヴが口をはさむ
「精錬か…エンゼは潮風が吹く時があるから向かない
ワンダラに帰れば知り合いの鍛冶師を紹介してやれるぞ」
「ニャ! 明日朝一で帰るニャ!」
「明日はアユミはディーン王子に呼ばれてる、断れないぞ」
「ニャフーン…仕方無いニャ」
気まぐれだとキャリー夫人は言っていたが、わがままという訳ではなく
常識はある印象を受けた
「ごめんなさい…もうしばらく待っててください」
「ニャ…敬語やめるのニャ、むず痒いニャ」
「え? あ…うん…」
キャリー夫人が微笑みながら語りだす。その間にメイドが馬車から金床等の鍛冶道具を出す
「カラドボルグをよろしくね、鍛冶に使う道具も付けておくわ。結局我が家では
使える鍛冶師は居なくなってしまったから…」
「キャリー、また遊びに行くニャ」
「ありがとう…アユミも何か困ったことがあったらいつでも言ってね」
「はい」
「…さぁ! 帰りますよ!」
「はっ!」
キャリー夫人とメイドが馬車に乗り込み、そのまま帰っていった
見送った後、アユミは剣状態のカラドボルグに語り掛ける
「剣の状態だと動けないの?」
「本当は動けるニャ、でもヘタクソな鍛冶師に鋳造でヘンな刃被せられてからは
ムダに体がでっかくなって、引きずって床を傷つけてしまうのニャ
でも精錬さえしてくれればムダを省いて軽くなって
また浮いて移動できるようになるニャ」
「そうなんだ…じゃあそれまでは僕が持つね」
「頼んだニャ、吾輩もなるべく浮力を働かせるニャ」
話し終わると、先程のように腋にはさんでしっかり持ち、教会の中へと入っていった
カラドボルグを運んだら、もちろん金床等の鍛冶道具も忘れずに運ぶ
***
日が暮れたので、ギュスターヴ達と夕食を摂りながら明日の予定を話す
「明日は朝早くに王子の迎えが来るはずだから、早めに寝ておくんだぞ」
「はい」
「それにしても…キャリー夫人の信頼を得るとは…やるなぁアユミ」
「僕は…普通に接しただけのつもりなんですけどね…」
「そこがアユミの魅力でもあるのかもね」
「あぁ…俺も安心して王子の元へ送り出せるよ」
特別なことは何も意識していないが、そう言われるのは悪い気はしない
***
寝る時間になり、アユミは鍼灸ワンピースだけになってベッドに寝転がる
カラドボルグは壁に立て掛けられている
「ねぇカラドボルグ、一つ聞きたいんだけど…」
「何ニャ?」
「結局、何でギュスターヴさんじゃなく僕を選んだのかわからなかったよ…
精錬するにしたって、女の細腕に何を期待しているのか…」
「アユミ、吾輩のチンチンに剣をブッ刺した時、熱を込める魔法を使ったニャ?」
「あぁ…僕は「ヒートハンド」って勝手に名付けてる。魔法を放出することはできないけど
直接さわった所には効果を発揮できるみたいでね…熱を奪う「コールドハンド」も使えるよ」
「その手で…鉄とか溶かしたことあるニャ?」
「うん…脱獄する為に鉄の棒を曲げたことならあるよ」
「ニャハッ♪ 十分ニャ♪ やっぱり吾輩の思った通りだったニャ~」
「えぇ…?」
「頼んどいてニャンだけど、精錬って大量の石炭と専用の溶鉱炉が必要な
凄~くお金のかかる作業なんだニャ、それをタダ同然でできるニャンて
鍛冶師なら喉から手が出るくらい欲しい能力のはずニャ」
「そうなんだ…」
「それに、女がどうとか関係ないニャ。最初に吾輩を作り出したのは
女鍛冶師の「ミナモ」という娘だったニャ」
「ほぇ~」
「ニャから、アユミにもできるはずニャ。細腕なら鍛えればいいだけニャ~」
「…わかった、頑張るよ」
「熱に惚れ込んだ」という言葉は比喩ではなかった、期待されてるなら応えなくては
ベッド横に置いた金床をチラ見しつつ、決意を新たにする
「ニャフ…アユミ、ひょっとして本当に男なのかニャ?」
「うん…どうして今そう思ったの?」
「さっきから吾輩がチンチンって連呼しても何も動じてないニャ…
こんな美少女は見たことも聞いたこともないニャ」
セクハラ発言だという自覚はあったのか…少し呆れつつもアユミは答える
「そうだね…この世界に「異世界召喚」された時は、確かに25歳の男だったんだ」
「ニャンと」
「でも魔族の人体実験で女にされ…子供にされ…さらに加えて
卵子を全部取られて閉経して…大天使から与えられた能力で健康は保ててるけど
今じゃ「不老不死」という能力まである…ハハ…
他人に話しても信じられる要素が一つもないね」
「「不老不死」なのニャ!? 吾輩と同じニャ!」
「え…?」
「吾輩が生まれたのは200年くらい前…溶鉱炉に足を滑らせて落ちて
魂が鉄に溶け込んだところをミナモが剣に加工して「生きてる剣」として
生まれ変わらせてくれたのニャ。ミナモも「異世界召喚」で呼ばれた勇者で
「魂をこめる」とかいう能力があったらしいニャ」
200年前の勇者というと…魔王ヒュプリノウが人間族の王に降伏勧告を行ったころだと
ゼログニが言っていた…剣先から雷を出したりするチートとやらが
カラドボルグ本人の事だったのだと推測できる
「ミナモは鍛冶を大きく発展させたけど…年には勝てなかったニャ
それからいろんな主人に使われてきたんニャけど…ロクに精錬もしないで…
見栄えを良くするためとか言って鋳造で刃を被せられたのニャ…
そんな連中も皆死んで、吾輩だけがずーっと生きてるのは結構キツかったニャ」
「そっか…おそろいだね」
「おそろいニャ」
たとえ世界が滅んでも、この猫だけはいてくれる…そう思うと少し気が楽になり
アユミは微笑みながら眠りについた




