表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/88

23話 嘆願

教会の客室内で昼食を摂りながら、予定を確認する

王への謁見時間は1日の中で午後2時から6時と定められていて

事前に予約してから行くのだが、今回は直々に招待を受けたので

食べて着替えたら、そのまま城へ向かうことになる


「あぁ、大臣達にこの書類を根回ししておきたいから、少し早く出てもらっていいか?」

「あ、はい…そういえば上申する為に来たんでしたね」

「服と靴は…教会の物を貸し出すわ。大きさが合えばいいけど…」

「ありがとうございます」


教会の関係者ではないが、ロータスが事情を説明すれば大丈夫だろう

今回の「魔看破の水晶」の不具合について、教会を代表して説明しに行くという


***


3人は城の門までやってきた、槍を持つ門番はアユミの髪を見て識別した


「白い髪…陛下が招待された方達ですね、どうぞお入りください」


アユミ達は一礼して門を通る。すると美しい庭園が広がっている

市場に出回らないような、栽培が難しく珍しい作物が植えられているそうだ

ギュスターヴが先導する、前に何度も訪れているとの事なので迷うことはない

やがて巨大な扉と、その中の騎士の広間が見えてきた。謁見の間は2階にあるらしい


「あ…そういえば僕、謁見の作法とか分からないのですが…」

「それなら…私の真似をすればいいわ。あと「僕」じゃなく「私」に変えてね」

「わかりました」


ロータスが一緒で良かったと思うアユミであった

ギュスターヴの真似を10歳少女がするのは、さすがに不自然が過ぎるだろう

やがて、謁見の間の前にたどりつくと、1人の衛士がこちらに気付いて近付いてきた


「あなたがたが陛下の呼ばれたアユミ一行ですね? 早速ですがお入り下さい」

「ん? 遅刻はしてないはずだが…」

「アグリー・バーン子爵の母であるキャリー夫人が謝罪をしに来られたのです

ならばアユミも一緒の時にした方が良い…と陛下が仰ったので、ささ、お入りください」


「わ、わかりました」

「いきなりか…腹を決めて行くか」

「アユミ、落ち着いて…ね」


***


2階の謁見の間には、芸術性を重視した絨毯、柱彫刻、シャンデリアがあり

複数の大きな窓から差し込む光と相まってきらびやかな空間を演出していた

奥には豪華な椅子が2つあり、ヴィガ王とディーン王子が座っている

ヴィガ王の横には大臣と思しき男性が付いている


ヴィガ王の正面には、1人の貴婦人が正座していた。恐らく件のキャリー夫人だろう


「来たか…アユミ」


ヴィガ王の言葉に反応してキャリー夫人が一瞬だけこちらを向く

ショートヘアで黒を基調とした服を着ている上品な女性…という印象を受けた

王を無視しては無礼に当たるのだろう、すぐに再び王の方へ向いた


アユミ達は彼女の後ろまで移動し、ギュスターヴは跪いて剣を正面に置き

ロータスはギュスターヴに並んで正座したので、アユミも並んで正座する


「待たせたな…キャリー夫人よ、改めてそなたの言い分を聞こう」

「はい、我が息子アグリー・バーンは、いたいけな少女アユミを拷問し

その様子をあろうことか市民達に公開し、苦痛と混乱をまき散らしました」


第三者の視点からはそんな風に見えていたのかと、アユミは思った


「決闘裁判では、我が家の私兵を使い、もはや決闘とは呼べない一方的な虐殺を企て

貴族の品位も失墜させました。陛下に見捨てられても仕方がありません

全ては親である私の監督不行き届きに原因があります、深くお詫び申し上げます」


「こう言ってるが…アユミはどう思う?」

「えっ…ぼ、私ですか!?」

「そなたが直接の被害者であるのは誰もが認めるところだ、賠償を求める権利がある」


そうは言うが、いきなりこちらに丸投げするとは思っていなかった

アユミは少し考え…


「…では、ボロボロにされた私の服の代金3400ゴールド、奪われた8500ゴールドに

ギルド証代金2000ゴールド…合わせて13900ゴールドに加えて、教会で行った

私の手術費用の全額負担を要求いたします」


ロータスが付け加える


「手術にかかった費用は81万ゴールドです」

「ええっ!?」


アユミは思わず声を上げる。が、アユミ以外誰も、キャリー夫人すらも動じていない

ギュスターヴは頭を抱えながら、何も言わずにアユミの背を叩く…つまり

保険が無いこの世界では決して法外な料金ではなく、子爵の地位にあるならすぐに払える…

そう察したアユミは恥ずかしくなって、うつむく


「と、とにかく全部あわせて82万3900ゴールド請求いたしましゅ」


噛んだ、もう穴があったら入りたい


「フッフッフッ…交渉しがいのない金額を求められてしまったのう?」

「いえ、これは彼女の慈悲であると推察いたします」

「フム…では余からも慈悲を与えるとしようか…本来なら爵位剥奪も止む無しだが

余の権限でバーン家の家督をキャリー夫人に移し、そなたに子爵の勤めを課す」


「へ、陛下! それでは…!」

「キャリー夫人の事は信頼している…今後も尽くしてくれたまえ、アユミもよいな?」

「陛下の仰せの通りに」

「うむ、キャリー夫人は下がってよいぞ」

「はい…! では、失礼いたします」


キャリー夫人は涙をこらえながら退出する。妙に話がスムーズに行われた気がする

もしかしたら、ヴィガ王はこういう落としどころを最初から狙っていたのだろうか

アユミ自身は誰も恨んでないので不服はないのだが、王の真意は分からない


***


「さて…アユミよ」

「はい」

「そなたの戦いぶりは見させてもらった。人間だという主張も正しいのだろう

だが、そなたが何者であるかは未だ不明のままだ」

「ううん…それにつきましては…まずは、こちらの用意した書類を読んでいただければと…」


そう言ってギュスターヴの方を見ると、頷いて返した


「陛下! お久しぶりでございます。ワンダラ冒険者ギルドの

ギュスターヴでございます」

「おお、壮健であったか」

「はっ! 我がギルドでもアユミの出自を問いただしたことがあり、事情を鑑みるに

陛下に奏上する必要があると判断し、仔細はこれに纏めておきました。お納めください」


まず大臣がギュスターヴから受け取ってパラパラとめくる…少し青ざめた表情にみえたが

そのまま大臣からヴィガ王の手に渡った…王の目が見開く


「魔族が…我らが秘中の秘たる「異世界召喚」を…!?」


ディーン王子とロータスも驚きを隠せない


「私は魔族によって召喚され、人体実験によって魔族の子を孕まされて勇者の力を奪われ

副産物で魔族の魔力を得たのです。その後、大天使から改めて能力を授かり何とか脱走し

今は冒険者ギルドに身を寄せ、生活しています」

「そうか…魔族にここまで盛り返された理由がようやく分かった。残念じゃが

由々しき事態である…よくぞ生き残り、この情報を持ってきてくれた…大儀であった」

「もったいなきお言葉…です」


ロータスがスッと手を挙げた


「陛下、一つよろしいでしょうか?」

「許す、何だ?」

「今回、アユミの魔力に「魔看破の水晶」が反応し、誤解と混乱を与えてしまいました

教会は今回の件を重く受け止め、各地の魔看破の水晶を回収して作り直す事にいたしました

何とぞ、ご容赦の程よろしくお願い致します」

「そうか、教会に自浄能力があるなら王家が何か指図することはない

教会長にもそう伝えてくれ」

「了解しました、ありがとうございます」


「さて、後はアユミの処遇をどうするかだが…」

「父上! 異世界召喚された勇者はまず、我が部隊に入隊して訓練をするのが習わし!」


ディーン王子が隣から発言すると、大臣が口をはさむ


「しかし…魔族の魔力を持つ者を加えるというのは…」

「スコット大臣! 多種多様な勇者達を貴殿も見てきたはず! 今更何を言っているのか!」


ディーン王子は立ち上がってスコット大臣を睨みつける

そう言えばゼログニも、人間を魔族軍に配属させることははばかられたと言っていた

ただの苦手意識か、根深い差別か…いずれにしろ、アユミが入隊するのは

難しいという事はわかる


「落ち着け…その訓練は元々勇者達がこの世界に順応するために行われてきた事だ

冒険者ギルドの方で経験を積むというのなら、無理に入れることは無い」

「…で、では1日だけ! アユミの力を詳しく見るために仮入隊させます!

これだけは絶対に必要なことです! 大臣もよろしいか!?」

「そ、それなら軋轢を生む事もないでしょう」

「よし! ではアユミ、明日の朝に迎えの衛士を差し向けるから準備しておくのだぞ!」

「あ、はい…」


言い終わるとディーン王子は席に着く。勢いで決められてしまったが

どの道、王族の頼みは断れない。その様子を見届けてヴィガ王が咳払いする


「…ギュスターヴの用意した書類も吟味したいところだが、日を改めて取り組むべき

内容であろう…これ以外に言うべきことはあるか?」


アユミは横目でギュスターヴとロータスを見、表情で判断した


「ありません」

「結構…では、下がってよいぞ」

「はい、失礼します」


3人は立ち上がり、一礼してから謁見の間を後にした


***


3人はしばらく無言だったが、城の門を後にした所でアユミが口を開く


「あの…何か僕、無礼を働いてしまったでしょうか…?」

「「えっ」」


ギュスターヴとロータスは素っ頓狂な声を上げ、アユミの方を向く


「い、いや…無礼ってことは無いと思うけどよ…」

「ま、まさか…あれで緊張していたのですか?」

「…はい」

「あんなに物怖じせずハッキリとした口調で…と思っていたのに…」

「うむ…俺もそう思っていたが…」


***


アユミは、地球で歩見として生きていた頃の事を思い返していた

あれは中学生の頃、クラスでの人間関係がうまくいかず

いじめが激化し転校を余儀なくされた後、新しい学校で先生に言われた事


「挨拶はとても堂々としていたわよ、偉い!」


新しい環境に馴染めるか不安で胸が張り裂けそうな時だったのに

先生は自分の気持ちを分かってくれないのかと嘆いたものだった


***


それを思い出し、アユミは渋い顔になった


「いえ、無礼じゃなかったのなら良いんです。行きましょう」

「おい…何拗ねて…いってぇ!」


ロータスがギュスターヴの耳を引っ張る


「もっと言い方があるでしょう!」

「わ、悪かったよ…一番大事な、陛下への謁見は無事済んだんだ

心配はいらねぇよ」

「…はい」


微妙な空気のまま教会へと戻る、自分のせいでこんな空気になったのを

申し訳無く思うが、うまく言葉が出てこない…やはり人間関係は難しいと

アユミは思うのだった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ