21話 誇りと欲
「ゴボッ! ゴブーヴッ…」
「アユミ!」
目を覚ますと、ギュスターヴの腕の中で飲み薬を胸に塗りたくられていた
「呼吸省略可」で肺が機能不全でも酸欠にはならないが、言葉を発せず
代わりに血を吐き続けていた
「なっ…何故死なん!? 看守達! もっと刺せ!」
「し、しかし…」
守衛の男が声を荒げるが、「看破の水晶」の青い光を見た看守達は動けない
アユミは痛みに耐え、震える手で胸を押さえながらなんとか肺に空気を送り込む
「ツ…レ…ゴフッ…」
「な…なんか言いたいのかアユミ?」
「ツ…レ…テ…ニ…ゲ…テ…」
「…わかった! ロータス! 教会へ引くぞ!」
「はい!」
「ま…待て! 魔族を逃がすな!」
ギュスターヴはアユミを抱き上げて、ロータスと呼ばれた女性聖職者と共に
街の中央広場を離れてエンゼ内の教会まで走った。周囲はすっかり暗くなり
教会内の人影もまばら、だが血だらけのアユミが運び込まれたことで
一時騒然となる
「ロータス…手術の手配を頼む、費用は俺が出す」
「わかったわ、任せて」
ロータスが走り、ギュスターヴはアユミが呼吸しやすいように横向きに寝かせる
教会内に重傷者の受け入れ態勢があり、回復魔法を使える者皆聖職者であり医者でもあるという
医療保険など無いこの世界、絶対に割高になるだろうが、今は立て替えてもらうしかない
「心配するな…少し眠れ、悪いようにはしない」
「フーッ…フーッ…」
アユミは頷くが、痛みで寝れそうにない。ギュスターヴは清潔な布を持ってきて
アユミの着ているボロボロの服を脱がせ、血を丁寧に拭いていく
しばらくして清潔な部屋に通され、手術開始と共に掛けられた睡眠魔法でようやく眠りにつく
後でギュスターヴ達に聞いた事だが…交代制で睡眠魔法と回復魔法を掛け続けながら
砕けた肋骨を回収し、肺を縫合し、骨を元の位置にくっつけたのだという。どう見ても
手遅れ状態の中、手術を続行するよう説得するのは大変だったらしい
肺が動いていないのに心臓は問題なく動き、肺は表面を縫っただけで血管が即再生し
骨にいたっては接着剤も使っていないのに磁石のように正しくくっ付いたので
少し不気味に感じたとロータスは語った
***
朝、アユミはゆっくりと目を開ける、絶対安静なのは分かりきっているので
体を起こさずに周囲の状況を見る
ここは多分、教会内にある客室、家具配置は最低限で質素なベッドに寝かせられている
胸に包帯を巻かれ、鍼灸ワンピースを着せられている
枕元には小さなベルが置かれていた。試しに鳴らしてみると、とても綺麗な音がでた
ややあって、ドタドタとギュスターヴが入室した
「アユミ! ようやく目を覚ましたか…心配させやがって…」
遅れてロータスがやってきてギュスターヴをたしなめる
「ギュスターヴ、病人の前ですからお静かに…アユミ、調子はどうですか?」
「…あー…あー…うん、喋れるようです。どのくらい眠っていましたか?」
「今は、アユミが運び込まれてから2度目の朝ですが…本当に驚異的な回復力です
勇者の力があるという話も本当なのでしょう」
「ご迷惑をおかけして、申し訳ないです」
「迷惑なもんか! 全部アグリー・バーンのせいだろうが!」
「…アグリー・バーン?」
「アユミを魔族扱いで処刑しようとしやがった子爵だ! 今も私兵を使って
教会を取り囲んでやがる…あぁ…やっぱり一度ぶっ飛ばさないとおさまらないぜ!」
「ギュスターヴ! 暴力をふるってはなりません!」
「そうですよ、ギルドマスターなんですから、またリューツさんに怒られますよ」
「う、ぐむぅ…」
ロータスは少し意外そうな顔をした
アユミはゆっくり体を起こしながら続ける
「とはいえ…こちらも何か行動しないといけないでしょうね…紙とペンを下さい
アグリー・バーンに手紙を書きます」
「手紙だと?」
「彼がああも魔族を敵視するのは、父と兄を失ったのが原因…「魔看破の水晶」で
僕に魔族の魔力があると判明した以上、拷問しなければ自分を保てなかったのかもしれません
しかし彼自身も、僕が人間だと薄々わかっていて、今更引っ込みがつかなくなってしまった
可能性もあります。なので…こんな内容にします」
そう言うと、手紙を書き上げて2人に見せた
***
全ては私、アユミが魔族の魔力があるのを隠してエンゼを訪れたのが悪かったのです
アグリー・バーンに謝罪は求めません。どうか包囲を解いていただけないでしょうか?
それと、過度に冒険者ギルドを貶めないことをお願いいたします
上記の願いを了承していただけたら、今後一切エンゼを訪れないと誓約いたします
アユミ
***
「お…おいおい…なんでアユミが譲歩する内容なんだよ…悔しくないのか…?」
「はい、ただギルドの事はちゃんと言わないと」
「はぁ…ったく、わかった、それは俺が届けてやる。ロータスもいいな?」
「えっ…は、はい」
「よろしくお願いします」
ギルドマスターを使い走りにするのは心苦しかったが、他に届けられそうな人はいない
ギュスターヴを見送った後、ロータスが話しかけてきた
「アユミ…私…いえ、教会はあなたに謝らなければなりません」
「…何故ですか?」
「我らの作り出した「魔看破の水晶」が不完全なものだったばかりに…このような事に…」
「…人間が魔族の魔力を持つなんて、史上初の事だったんじゃないですか?」
「ええ、そうだけれど…」
「なら、僕の魔力に反応しないようにすればいいだけですね、誰にも予想できない事で
責めるなんてできませんよ」
「アユミ…あなたって子は…」
アユミは、はたと思う
「…子? 子かぁ…」
「…どうしたの?」
「すみません、紙をもう1枚もらいます」
「ええ、いいけど…」
アユミは自分自身の事を紙に書き始めた
***
少し経った後、ギュスターヴが別の紙を握りしめて戻ってきた。憤怒の表情である
「あの野郎…! 俺が配達役をしてなかったら殴り飛ばしてるとこだぜ…!」
「ギュスターヴさん、アグリー・バーンは何て言ってきましたか?」
「これが…奴の返答だそうだ!」
紙を叩きつけながら、吐き捨てるように言った
***
バーン家の名誉を傷つけた魔族の提案は受け入れられない
冒険者ギルドが魔族を雇用した事実に変わりはない
汚名をそそぎたくば「決闘裁判」をもって己が矜持を示せ
アグリー・バーン
***
「これ…ひょっとしてヴァニアの事と混同されてませんか?」
「奴にとっては貶められればどうでもいいのだろう…クソッ!」
「うーん…決闘…裁判? 何ですかこれ?」
アユミの疑問にロータスが答える
「決闘裁判とは…犯人の目星が立ってはいるけど証拠が足りずに迷宮入りになりそうな事件などで
被害者が犯人とされる者に決闘を挑む、神の祝福を受けている正しい者なら勝てるはずだ
…という考えの元、行われる合法的な…殺し合いのことです」
「だが近年ではただのブラフだ…決闘を受けなかった者に臆病者の悪評をつけられるからな
実力差がある相手なら遠慮なく決闘を持ち掛け、自身の名誉を高められるって寸法だ
だがアユミ…受けることはねぇからな!」
アユミはしばし考え、紙に書いた自分の事を見ながら決断した
「この決闘裁判…受けます」
「なっ、正気かアユミ!?」
「駄目です! 殺されてしまいます!」
アユミは紙を見せた
「これは僕の…勇者としての能力の一覧です」
「いつのまにこんなものを…ん? 不老不死だとぉ!?」
「絶対死なないから負けることは無いという単純な話です、しかしアグリー・バーンを
殺してまで勝利を得たいとは思いません。勝ち方をどうするかは
お二人の知恵をお借りしたいです、どうかよろしくお願いします」
アユミの熱意に圧され、決闘裁判受諾をギュスターヴが伝えに行く
そして流動食を食べながら、明後日と決まった決闘裁判の策を練るのであった
***
アユミ
体は10歳女 精神は25歳男
不老不死 健康な肉体 記憶能力強化 透明化 骨折無効 呼吸省略可 空気摂取 火傷凍傷無効
魔族の魔法ヘルファイアとアイスコフィンを使えるが、手で直接触れていないと効果が出ない
天使によって自殺することと自殺幇助を要求することが禁止されている
卵子が全て流出しており妊娠は永遠に不可能
空気摂取を使ったら屁が沢山出る




