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20話 天使がやったこと

「う…ん…」


再び目を開けると、アユミは法廷に似た、机の多い重厚な雰囲気の部屋の中央に立っていた

紺のワンピースはボロボロだったが、アユミの体には血も傷も無く

ここが現実の空間ではないと分かる

正面には、黒い翼を持ち、紋付き袴姿で眼帯をし、「片わな」という髪型の男が一人

左右には、筆を取って何かを記している…天使がいた


「歩見さん! 証言をお願いします!」


何事かと振り返ると、前にアユミを10歳に成長させた権天使がいた

何やら必死な形相で「証言」とやらを求めてくる


「ええっと…何が何やら…」


すると、紋付き袴姿の男が言葉を発した


「被告人には、現在までの審理内容を説明することを許可する」

「はい! 説明させていただきます!」

「ただし、その最中の会話内容も記録するので、そのつもりで」

「はい…歩見さん、よく聞いて下さい」


また天使の咎とやらで巻き込まれるのかと思うと、アユミの顔が渋くなった


「まず、あなたは死にました」

「…またですか、今度こそ転生させられるんですか?」

「いえ…まだわかりませんが…その前に、「願いポイント」の使い方に疑問を抱かれまして」


「願いポイントとは何ですか?」

「…前任の大天使に「自殺禁止」と「自殺幇助要求禁止」の天罰を受けて

「健康な肉体」、「記憶能力強化」、「透明化」の能力を与えられたのは覚えていますね?

天罰でポイントが増え、能力付与でポイントが消費されると思っていただければ良いです」

「なるほど…そういえば受けられたペナルティと見合っていないとかで

願いを叶えようって話をしましたね」


「そう! 今回そこが問題になったのです! 証言して欲しいのは…

私が願いポイントを横領していないという事です」

「そうですか…正しく証言できるか分かりませんが、やってみましょう」


そう言うとアユミは振り返り紋付き袴姿の男の方を向く


「では審理を再開する、証人は余計な話は慎み、簡潔に事実を述べよ」

「はい」

「まずは、被告人である権天使が証人に対して行ったことを証言せよ」


「…まず、僕は現実世界の洞窟内で眠りに落ち、その夢に干渉する形で権天使さんが現れました

彼女はまず、前任の大天使が公文書偽造と天使の力乱用、

「黒い扉」発動に伴う報告義務を怠った咎により

何の力も持たない精霊へと格下げされた事を僕に告げました」


「そして…僕の母の死因を語り、母が大天使の告発に多大な貢献を果たした事

受けられたペナルティと見合っていない事も鑑み…願いを1つ叶えてくれることになりました

今思えば、その時点で「願いポイント」とやらが余っていたのでしょうね」

「証人、今は推論は求めていない、実際に起きた事だけを話すように」


「はい…僕の願いは「この体を、18歳位の大人に成長させる」ことでした

しかし、10歳で成長は止まってしまいました…卵子も卵胞も無く、既に閉経していて

第二次性徴に必要なホルモンを生成できないと言われたのです

まぁ5歳児よりはマシだったので、そのまま妥協する事にしました」


「後は…寝てる傍で盗人が近づく音が聞こえたので、命の危険を感じ

「まだ不完全」とか言ってましたが、話を適当に終わらせて飛び起きた…

大体こんな感じです」


***


「ふむ、18歳に成長させる事を願ったが10歳で成長は止まった…つまり

願いが完全に成就していないから、「願いポイント」はまだ余っているはずだ

しかし、先程も確認したがポイントは全て使い切っている

ポイントを横領した咎に問われるのも無理からぬことだ」


権天使は必死の形相で手を挙げた


「発言を許可する」

「サリエル様! 余ったポイントは全部寿命に振らせていただきました!」

「えっ、そんなの聞いてない…」

「歩見さん! 「適当にやって」と言われたではないですか!」

「…はい、確かに」


「寿命に全部…それが本当であるならば、そもそも死んでこの場に居るはずがない

あまりにも早すぎる」

「僕は磔で処刑されました」

「磔か…ギロチンでもない限り、寿命を削って復活できるはずなのだが

処刑の前に何をされた?」

「…剣で腹を貫通させたまま30分ほど短鞭で叩かれ続けました」


聞いた途端、サリエルと呼ばれた男は頭を抱え、彼以外の天使の顔が真っ青になった


「成程…そんな拷問を受けたら10回は死んでいる…寿命千年分だ

書記官、今からまとめに入る。筆を止めないように」


左右の天使が慌てて書記に戻り、サリエルが続ける


「被告人の主張する通り、「願いポイント」は全部寿命に振り、横領した事実はない

しかし、証人の意を汲まずに実行した事は問題である。よって

減給3ヶ月の懲戒処分とする。被告人、異議はあるか?」

「ありません…充分…です!」

「よろしい、審理を終了する。被告人は退廷せよ」


権天使は頭を下げてからその場を後にした


「さて…秋田歩見、そなたにはまだ話がある。この室内にいれば

現実世界では1秒しか経過しないので、じっくり話そう」

「はい…」


サリエルが席を立ち、アユミの元へ寄る


「先に説明された通り、そなたは死んだ。しかしまだ心臓が止まっただけだ

復活させようと思えばさせられる…だが、このまま転生を選んでもよい

その場合は地球で生まれ変わり、新たな人生が始まる事になる。さぁ、どうする?」

「では…復活で」

「それはどうしてだ? かの世界では死にたくなるほど苦しい思いを

してきたのではないか?」


あの大天使に向かって「死にたい」と叫んだ事を思い返した


「確かに…僕が誰とも関わらずに生活していたら転生を選んだでしょう

でも僕は…変われたんです、冒険者ギルドの皆とはもちろん、魔族と関わった時間も

僕の血肉となっています。僕は自分を必要としてくれる方の元へ行きたい…それに

冒険者ギルドの名誉が僕のせいで不当に下げられたままで転生なんてできませんよ」


サリエルが口元を手で覆い、一瞬考える


「そなたの体は今、両方の肺が潰れ、出血多量に全身打撲…たとえ復活しても

1秒につき寿命が100年縮み、すぐにまた死んでしまう状態だ…よって

「不老不死」を付与する以外にない」

「では…それで」

「まぁ待て、「不老長寿」は最高峰の能力付与だが

「不老不死」というのは…重い天罰に属している」

「えっ…何故ですか? 地球では…人類の夢とか言われていたのですが」


「例えば…四肢切断されても首を刎ねられても死なない、誰かに元の位置に戻してもらわないと

首だけで動けないまま永遠を過ごすことになる」


想像して背筋が凍る


「例えば…広い海の中央に置き去りにされたとしても、溺死も餓死もできず

サメのような大型生物に食われても、腹の中で生き続ける」


いやな汗が出始める


「例えば…天変地異で地割れに巻き込まれ生き埋めにされたとしても

圧死することもなく生き続ける」


涙目になる、不老不死という能力は、元から強大な力を持つ英雄…勇者でないと

マイナスにしかならないかもしれない、ヒート、コールドハンドくらいしかない10歳児には…


「後は…友や知り合いが死のうが、世界が滅ぼうが、ずっと一人で

生き続けなければならない…孤独に耐えられるのか?」


脅され続けて、一周回ってアユミは冷静になった


「ギルドにとって今が正念場、僕のせいで危機が訪れたのに躊躇している場合じゃありません

大切な人達を守り、世界が…滅ばなければ良いんでしょう? ならば不老不死になります」

「よく言った…」


サリエルがアユミの頭に手を乗せる


「一度不老不死になったら取り消すことはできんぞ…本当に良いのだな?」

「……」


しばし目を閉じ


「…はい!」


言うや否や、アユミの体に雷が落ちた。別に痛くはない

そしてサリエルはアユミの頭から手を放し、頭を下げた


「ありがとう、よくぞ決意してくれた。私の追い求めた存在よ」


そう言うとサリエルは頭を上げまっすぐアユミを見つめる


***


「改めて…私の名はサリエル、「世界運用株式会社」の代表取締役であり

そなたが落ちた「黒い扉」の制作者でもある」

「か…株式会社…? しかも黒い扉って…」

「株主は神様であり、委託を受けて適時…天候の操作、奇跡の発現などを代行し

世界の極端な興亡を防いできた。黒い扉での「異世界召喚」も奇跡の一環で実装されたのだ」

「…その扉のせいで多くの人間達が魔族の実験の犠牲になったのですが」


「その犠牲は私の責任だ…そなたに限らず…ここへ来る犠牲者達皆の恨み言も沢山聞いてきた

その度に充分な安らぎを与えてから転生を行ってきた。そうしてでも、魔族にも黒い扉を

使わせなければならない理由があるのだよ


黒い扉の計画は人間と魔族の戦争が始まるより千年以上前に決まっていたことだ

なぜか天使達の間で、魔族による召喚の事を「魂の不正受給」などと

呼んでいるようだが不正でも何でもない

ただ魔族の使う召喚、利用方法が非効率的なだけだ」

「せ、千年…」


行き当たりばったりな計画と思いきや、想像以上に壮大な話をされ

憤りどころかめまいを覚えた


「戦争が始まり、人間が劣勢になった時に「異世界召喚」の方法を教え、巻き返しを図らせた

その結果、魔族はオグホープまで撤退。後に「異世界召喚」の方法を魔族にも独自に開発させ

徐々に戦力を拮抗させていき、ヒュージリバーで綺麗に分かれた…ここまでは計画通りだ

人間と魔族、双方の未来の為にはどちらも滅んではならないのだ」


「しかし、人間も魔族も互いに傷つき、恨みも積み重なっています。今更双方の為なんて…」

「その恨みとやらは、まだ200年程しか積み重なっていない。だが真の敵の企みは

千年以上前から既に始まっている。人間と魔族が憎みあうのも、その者らの計算の内だ」

「真の敵…!? それは一体…」


「それは私の口から直接教える事はできない。そなたと人間と魔族が自ら気付き、暴かなければ

他者に言われるままに相手を滅ぼす…奴隷種族に成り下がってしまうだろう」

「はぁ…」


神の考えることは人間には及びもつかない…そう地球で誰かが言っていた気がする


「だが、何の手掛かりも無しに真の敵を暴けというのも無理な話。そこで

秋田歩見…たった今「真の敵」がいることを知ったそなたを、かの世界に投じるのだ」

「それは…僕に預言者とか新興宗教の教祖になれとかおっしゃるので?」


アユミの顔が渋くなる


「そこまでは言っていない。そなたはまだ世界の1割も踏破しておらず、真の敵種族を

見た事も聞いた事もない。まずは世界を見て回り、その上で何をするか決めれば良い

その為に必要な能力の付与も「願いポイント」を再計算して行う。天使からのサービスだ」

「はぁ…」


天使のサービスとやらには良い思い出が無く、顔がさらに渋くなる


「「不老不死」の件では…そなたの決意を見る為とはいえ、驚かせてすまなかった

四肢切断されないように「骨折無効」と、呼吸できなくとも良いように「呼吸省略可」

を付与しよう…ふむ、あと一つ…直接戦闘に結びつかないような能力なら付与できるぞ」

「え…急に言われても…」

「先程も言ったが、この室内にいれば現実世界で1秒しか経過しない…じっくり考えればいい

書記官、過去に付与した能力の一覧表をここへ」

「はっ」


その言葉を聞いた書記官はすぐにサリエルに紙を手渡した、サリエルはそれを見て頷くと

アユミにその紙を渡してきた。今回は本気なのだと感じられて、アユミの顔が渋くなくなる


「それは過去に付与した直接戦闘に結びつかないような能力の一覧表だ。それを参考に

しても良いし、全く新しい能力を提案しても良い」

「はい」


よく見てみるが、1ページに収まる位に少ない。考えてみれば、折角勇者として

召喚されるのだから、戦闘に関係ない能力は選ばないのが普通なのだろう


「う~ん…」


暗視能力…隠密や暗殺任務で併用する人が多いらしい…が

暗い道は「記憶能力強化」で難なく歩けるので優先度は低い


指揮能力…自分が従えている部下とかの力を底上げするらしい…が

軍隊長…奴隷購入…洗脳…どれもやりたくない事ばかり


農耕補助…異世界に行っても農業で暮らしたい勇者が一定数いたらしい

水脈感知、疲れずに田畑を耕す、土壌改良、品種改良、作物成長促進、何でも種にする

全部セットになった魅力的な能力ではあるが、アユミには土地が無い

戦争中だから新しい農地を得られる可能性も低い


だが…「疲れずに」というヒントなら見つかった


「あの…「健康な肉体」の中で、持久力を発揮する代わりに空腹になる

という欠点だけを打ち消すことはできますか?」

「基本的に、付与された物はそのままで、打ち消すことはできない。だが…そうだな

「空気摂取」という能力を付与しよう」

「それは一体…?」

「そなたは霞を食べて生きる者の話を聞いたことはあるかね? 殆どがただの噂だが

10人程はこの能力で本当に食べていたのだ。これなら空腹に悩まされる事はないだろう」

「なるほど…いいですね!」

「ただし、空気摂取したら屁が沢山出る」

「…」


また渋い顔になるが、あまりの空腹感でハイハイ移動しかできなくなるよりは

マシと考えた


「…もういいです、それで」

「では、付与するぞ」


サリエルがアユミの頭に手を乗せると、まばゆい光に包まれた


「これでよし…後はそなたの行動次第だ。だが、いきなり人間と魔族を仲良くさせろ

などとは言わん。当面は冒険者ギルドとやらに貢献することを考えれば良い。そうすれば

ギルドでの行動範囲が広がり、真の敵についての情報も集まりやすくなるだろう」

「わかりました…一つ質問をしてもいいでしょうか?」

「…なんだろうか?」

「なぜ僕を選んだのですか? 僕以外にも勇者はいるのですよね?」


サリエルはアユミの頭から手を放し、微笑みながら言った


「一言で言えば…そなたがとても優しいからだ」

「そんな事ないですよ、僕なんて…」

「たとえ魔族に凌辱されても、人間から拷問を受けても、そなたは全く恨んでいない…

かといって被虐嗜好でもなく、ギルド…仲間の為になら義憤に駆られる…そうだろう?」

「まぁ……そう、ですね。自信ないですけど」


「そんな性格の者は、勇者として召喚される中にはまずいない。いつの日か真の敵が

現れた時に恨みつらみを超えて、人間とも魔族とも手を組める…そんな人材が私の理想だ

そなたは記憶力に自信が無くて、まともに人間関係構築できずにうつ病になった

それ以外はとても理想的な性格なのだよ。幸運なことに、冒険者ギルドではうまくやれているようだし

私も安心して能力付与できた」

「はぁ…」


「納得できなそうな顔をしているな…それならば

アユミが私にとって都合の良い女になった、と思えばよろしい」

「…ソーデスカ」


思わず棒読みになる…実は腹黒なのだろうか?


「さて、他に質問が無いなら復活させるぞ」

「ハイ」


アユミの足元が床から柱状に光りだす


「いくぞ! 胸…肺から激痛が走るが、「呼吸省略可」により酸欠で気絶することはない

なんとか縫合などを頼んで出血を止めるのだ! よき旅を!」

「…はい!」


言い終わると光の中へとアユミは消えていった


***


「サリエル様…もう発言してもよいですか?」

「許す、なんだ?」

「秋田歩見の願いポイントですが…サリエル様が再計算なされましたが、ほんの僅かに

足りません…どうしますか?」

「ならば私の給料を半額にして補填し、埋め終わるまで続けよう。私の格下げも厭わない」

「どうしてそこまで…歩見に言えばそんなことには…」

「先も言っただろう、稀有な存在に対しては力を惜しまない。それに言ったら歩見のことだ

遠慮してしまい必要な能力まで辞退されかねん…それでは困るのだ」


***


(カメラで撮影中、暗転、文字のみ、カチンコが鳴らされる)

あなた達は、安らぎをご存じだろうか?


(弁当正面、カメラワーク上から下)

食べるという行為は単純にして神聖不可侵


(具材調理風景をバックに)

甘味 (栗きんとん)、

酸味 (きゅうりとわかめの酢の物)、

塩味 (焼き鮭)、

苦味 (ビーフカレー)、

そして、うま味 (白米)


(横から箸)

5つを兼ね備え、至福へと至る!


(権天使「おいし~♪♪」)


安らぎ弁当1人前、700円!


我らは、あなた達に届ける事ができる…


(ロゴ表示:安らぎ食品グループ)


「カーット! 映像チェック入りまーす!!」

「お疲れ様です、サリエル様」

「フフ…埋め合わせの為に参加したコマーシャルだが、中々楽しいものだな」

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