18話 新たな服と街に事件
小鳥の鳴き声が朝の訪れを告げる
目を覚ましたアユミの傍にはジェニファーが寝ていた
「おはよう、アユミ」
「オ、オハヨウゴザイマス」
ジェニファーは微笑むがアユミはうわずった声で返事をしてしまう
アユミが固まっている間にジェニファーが櫛を取り出して
「おいで、髪をとかしてあげるから」
「は、はい…」
「…不思議ね…真っ白でおばあちゃんみたいなのにツヤがあって櫛もスルスル通るし
枝毛も無いわ…うらやましい」
「そ、そうですか…」
「でも伸び放題なのは良くないわね…前髪だけでも切りましょうか?」
「じゃあ…お願いします」
ジェニファーは手鏡をアユミに持たせ、慣れた手つきで前髪をハサミで切っていく
きっといつも自分で切っているのだろう、型はナチュラルなぱっつんで
思ったよりも可愛く仕上がったのでアユミは自然に笑みがこぼれる
***
身支度を済ませ、ギルドで朝食を摂った後、下水道掃除の報酬として1万ゴールドを受け取り
アユミが前に来たのとは別の服屋にやってきた。そこは…女の戦場であった
「どいて~! ちょうだい~!」
「私のよ! 割り込まないで!」
「店員さ~ん、次ま~だ~?」
多くの服を入れた籠を店員が持ってきて、一定時間ごとに広いテーブルの上に中身をぶちまけ
そこへ婦人達が殺到して服を取り合っている
「ジェニファーさん、これは…?」
「フフ…血沸き肉躍る、服のバーゲンセールよ。ここでなら一着大体2000ゴールド…
場合によっては1000で買えるのよ」
「安い!」
「落ち着きなさい、こういう時は手あたり次第じゃなく、自分が必要なものを狙って…」
「で、でも服何も持って無くて何選べばいいのか…」
アユミが迷っている間にも、店員は服をドンドン持ってくる
「はーい子供服入るよー子供服ー!」
「ハッ! い、いってきます!」
「気を付けてねー?」
とりあえず駆け寄ってはみたが、マダム達の分厚い肉の壁に阻まれて
どこから入れば良いかわからない
「ちょっと! 押さないでよ!」
「す、すみません」
気弱な10歳児が、パワフルな婦人達を突破できるわけもなく、しばし巡回していると
大人でも、テーブルの端から服に手が届かない故に、皆が避けているスペースを見つけた
アユミはそこに飛び乗ると、奥にあった紺のワンピースをひっつかんだ
「テーブルの上には乗らないで下さーい!」
「ごめんなさーい!」
アユミは1個だけで退避した。もう一度同じ手で奪取するのは難しそうだ
「ひいぃ…バーゲンつらいです…」
「あら、この位で音を上げてちゃダメよ? 今日はまだ人が少ないくらいだし」
「えぇ…」
女の底力を肌で感じつつ、掴んだワンピースの代金を支払う…3400ゴールドだった
バーゲンセールの中では高めの物を掴んでしまったようだ、それでも安いのだが
「本当は靴もあったほうが良いんだけど…このバーゲンセールでは無くてね…
エンゼでなら安い足袋とかが買えるかも、行ったら確認してね」
「わかりました」
「じゃ折角だし、それ着て戻りましょう。あの角に更衣室があるから」
「はい」
自分で女物を着るのは初めての事である。あの島で着せられていた鍼灸ワンピースは
自分で着たわけではない。ワイシャツを脱いで紺のワンピースを広げて見つめる
「そのまま被ればいいのかな…?」
他人が着ているワンピースなら見たことがある。想像しながら袖を通す
なんだか違和感が残るが…
「アユミー、着れたー?」
「はい、多分…」
そう言って姿を現したが、ジェニファーは呆れ顔をした
「前と後ろ、逆よ」
「あぁ…通りで…直してきます」
「手伝うわ、この際だから覚えてちょうだい」
「…はい」
一旦脱がされてから、正しく着なおされる。「記憶能力強化」があるから
もう二度と間違える事はないだろう。紺のワンピース自体は少し大きいサイズだったが
足首は出ているので、引きずって汚す事はなさそうだ
「あら可愛い…それじゃ、ギルドに行ってギュスターヴと合流しましょう」
「はい…可愛い? …ホントだ」
真っ白な髪と薄い肌色が、服の紺色で映えて良く見える
今までと違う可愛い姿になる事で、自分のうつ病も若干良くなっていく気がした
悲哀のこもったジト目だけはそのままだったが…
***
街角でアユミの姿を見てざわつく一団
「お、おい…誰なんだあの美少女は!?」
「お前ワザと言ってるだろ…あんな真っ白な髪を持つのはアイツしかいないだろ」
「あれが…「白い痴幼女」なのか…馬子にも衣装って事なのか…?」
彼らにアユミが気が付く事は無かった
***
アユミ達とギュスターヴは、ちょうどギルド前で出くわした
「おお、昼の馬車の席を確保できたぞ…っと、ずいぶん可愛くなったもんだなぁ?」
「そ…そんなことないですよ」
「はいはい…それじゃ、昼食にしましょう」
肯定するような言葉を聞きなれていないせいか。アユミは急に恥ずかしくなり
目を逸らしてもじもじする。その後、ワイシャツは返し、少し早めの昼食を摂り
馬車乗り場まできた。朝、昼、夕に定期的に出て、大体徒歩の
2倍から3倍の速さでたどり着けるらしい
アユミとギュスターヴが馬車に乗り、ジェニファーが見送る
「本当は私も行きたい所だけど…ギルド職員が一度に3人も居なくなったら
業務に支障をきたすから…」
「まぁ、上申したい事は書類にまとめたから大丈夫だろう…留守の間は頼む」
「ええ、アユミも気を付けて」
「はい、行ってきます」
馬車の中にはすでに一組の老夫婦が座っていた
「あら可愛らしい…お父さんとお出かけかい?」
「いえ…この人は冒険者ギルドマスターで、父親ではないです」
「おお、それは頼もしいですな」
「ハハ…追い剥ぎくらいなら、追い払ってみせますよ」
「時間です、忘れ物はありませんね? …エンゼ行き出発しまーす!」
「ヒヒーン!」
御者が馬をゆっくり走らせ始める。ジェニファーが胸元で手を振る中
「ワンダラ」の街を出発した
***
しばらく走ると周囲には平地が広がり、所々に農家が見える。道は一応は舗装されていたが
粘土と砂利を混ぜたような物を薄く伸ばしているだけ、土が出ている部分もあり
結構揺れるので、舌を噛まないよう皆口数は少ない
「どーうどーう!!」
「ブルルルッ」
大岩と木が点在している窪地に差し掛かったところで御者が馬を止めた
「どうした!?」
「前方に岩が並べて置かれています!」
「くそっ…追い剥ぎの常套手段だ! 皆気をつけろ!」
「まぁ怖い…どうしましょう…」
「大丈夫、落ち着いて…」
御者は叫ぶとともに短めの剣を取り出す
ギュスターヴも抜剣すると、アユミにも予備の剣を手渡して指示を出す
「ご老体は床に伏せてじっとしていろ! アユミは馬車に寄って来る奴らを
剣で叩き落せ! 俺が外に打って出る!」
「わかりました!」
ギュスターヴは馬車を出ていき、アユミは馬車の乗り口で正眼の構えをとって
コールドハンドを使い、敵を待ち構える。剣は結構重い
***
獣人の盗賊団が向かってきた
「へっへっへ、命が惜しけりゃ…グヘェ!?」
「うるさい失せろ!」
「な、なんだこいつ…グギャッ!」
ギュスターヴは、相手が何か言い終わる前に的確に剣を振るう。動きは止めない
「は、速く荷を奪え!」
「な、なんだこのガキ…ンガッ!」
「へっへっ、つかまえ…ちべてえぇぇぇ!?」
コールドハンドのお陰で何とか戦えているが、いつかはちゃんとした剣術くらい
身に着けなければと思った
「ガキくらい早く落とせ!」
「いや! 御者だ! 御者を狙え!」
「ど、どっちを…ギャアッ!」
おもわぬ反撃で盗賊達は混乱しているようだ
まさか冒険者ギルドマスターが乗り合わせているとは夢にも思うまい
ギュスターヴは御者を狙う奴を優先して切り払い、馬車前方の岩を
最低限通れる位に足でどかした
「今だ! 走れー!」
「は、は、ハイヨー!!」
「ブヒヒヒィイン!!」
馬車を急発進させ、ギュスターヴは馬車横のフレームに飛び乗る。幸運なことに
追い剥ぎを振り切り、そのまま横転せずに、進行方向の平地まで駆け抜ける事ができた
***
しばらくして、エンゼの街の外壁らしき構造物が見えてきた辺りで
「ブルッ…ブルルッ…」
馬車の速度が落ちてきて、やがて完全に止まってしまった
「今度はどうした?」
「あちゃあ…飛ばしすぎてもうヘトヘトみたいですね…」
「仕方ねぇなぁ…アユミ、エンゼの街はすぐそこだ
守衛がいるはずだから助けを呼んできてくれ。俺は少しでも押していくから」
「わかりました、呼んできます」
御者が平謝りする中、アユミは馬車を降りる
老婦人が呼び止めて言った
「アユミちゃんっ、ありがとうね」
「…お礼ならギルドマスターにお願いします、僕は大した事はしてないですよ」
「あら~…そう?」
気恥ずかしくなったアユミは頭を下げると、そのまま街門まで駆けだした
時刻は夕方になる前になっていた
***
街門の手前で、守衛詰所はすぐに見つかった。初めて行く場所は苦手だが
頼まれた手前、そうも言っていられない。深呼吸してから声をかける
「あの~すみません…門の近くで馬車が止まってしまいまして…すぐに助けを…」
「なっ…貴様魔族だな!?」
「…へ?」
突然守衛の男はアユミを押し倒す
「がっ…な、何を…」
「うるさい魔族め!」
そのままアユミが気絶するまで殴られ続けた
何が起こったのか全く分からない…唯一分かることといえば
「自分の体がうっすらと赤い光を出していた」事だけであった




