17話 暗中飛躍
ギルドの1階では、受付カウンター横の円卓が一つ隅に片づけられ、空いた場所にチャラ男が
縛られた状態で座らされている。他のギルドメンバー達はその周囲で見ており
すぐそばにはリューツとヴァニアがいて、リューツは書記に徹し、
ヴァニアが杖片手に質問攻めをしている
「それで、間違いないのですか?」
「あぁ! 俺とトラ野郎がやったんだよ! いい金になったんだよ!」
周囲がザワつく、もう自白と多数の目撃証言で大勢は決し、あとは刑期を決めるだけという
雰囲気だった。ヴァニアの事を知らないはずがないのだが、チャラ男はなぜか喋らない
脅迫されているか洗脳されているか…いずれにせよ、喋ったところでゴキブリ退治の立役者を
疑うことなど考えもつかないだろうが…そこへギュスターヴが
左手で「看破の水晶」を背に隠し持ちながら近付く
「やれやれ…とんでもない事をしてくれたもんだ。ゴキブリ増殖の件もお前達の仕業だな?」
「へ、へぇ…えっとそれは…」
「ギルドマスター、それはおそらく別件で…後でちゃんと聞き出しますから」
チャラ男が急にどもるが、ギュスターヴはなおも続ける
「いや~ヴァニアがパーっとやってくれなきゃ危なかったんだからなぁ!
えーと…あのヴァニアが使った魔法何て言ったっけ?」
「ハァ…フリーズですよ、基本中の基本でしょう?」
ギュスターヴが急に真顔になり、隠し持っていた「看破の水晶」を目の前に出す
水晶は赤く光っている
「なっ…!?」
「ほーう、あれはフリーズじゃなかったのかーじゃあ…「魔族の魔法」アイスコフィンだな?」
「ち…違っ…」
「人間は人間の魔法だけ、魔族は魔族の魔法だけしか使えない…基本中の基本だろう?」
ギュスターヴが「看破の水晶」をヴァニアに向けながら核心部分を聞く
「ヴァニア、お前は人間か?」
「…ウオオォォォッ!!」
ヴァニアが豹変し、「看破の水晶」を素手で強打してギュスターヴの顔面に飛ばす
「くっ!」
ガシャーン
ギュスターヴは身構えていたので、右手で水晶を防ぐ
しかし衝撃で水晶は砕け、破片は目くらましとなってギュスターヴの動きを止める
その隙にヴァニアはジェニファーの居る出入り口に駆け寄り
「邪魔だ! ヘルファイア!!」
「キャアッ!?」
杖先から、直径50センチ程度の火球が、ジェニファーの方向へ撃ち出された
***
一連の成り行きを、透明になったアユミはしっかりと見ていた
ヴァニアが豹変したあたりから、出入り口に移動し、足止めをしようと考えていた
そしてヘルファイアが発射されるとともにジェニファーの前に立ちふさがり、体で受けた
「くうっ」
火傷は無効だが火だるまにはなり、命中した時の衝撃で壁に叩きつけられて気絶した
出入り口横の円卓と椅子にも飛び火して激しく燃え上がる
***
「なっ!?」
「今…私の前に誰かが…」
間違いなく吹き飛んでいるはずのジェニファーが健在なのを見てヴァニアの足が止まった
その一瞬を見逃さず、ギュスターヴは剣で背中から貫き通した
「が…はっ…こ…の…」
ヴァニアは擬態が解け、魔族本来の姿となり絶命した
「皆ボケっとすんな! 火を消せ! 早く!」
ギュスターヴは遠巻きに見ていたギルドメンバー達に指示を飛ばす
最初は驚いていたが、そこは歴戦のつわもの揃い
すぐさま消化活動を始め、瞬く間に水で鎮火させてみせた
被害は円卓1台と椅子4脚にとどめ、壁も少し黒くなる程度で済んだ
「よくやってくれた…皆、見ての通りヴァニアは魔族のスパイだった
俺も危うく騙される所だったが……そう、ゴキブリ退治の一件で奴は尻尾を出した
皆も、魔族を見破れるように観察眼を鍛えておくんだぞ!」
「「「はい!」」」
「リューツ、悪いが後始末と尋問は任せる」
「りょ、了解しました…」
ギュスターヴは何とか、士気を下げないような言葉選びをして場を収めた
そして腰を抜かしているジェニファーに近づき、手を取った
「大丈夫かジェニファー…すまなかった」
「い、いえ…誰かに庇われた気がしたのですが…」
「…そいつは…多分…」
ギュスターヴは燃えた跡を手探りで探し始めた。そして見えない何かに触れ
その見えない何かを肩に担いで立ち上がった
「あの…ギュスターヴ? 何を…」
「あぁ…ジェニファーには分かっちまうだろうな…ついて来てくれ」
***
ギルドマスター部屋に来たギュスターヴは、見えない何かをソファーに下した
担いでいた感触で、前後を間違えるなんてことはなかった
「おーい、アユミ、生きてるかー?」
「えっ…アユミ!?」
頬のあたりを軽くはたく
「う~ん……」
「アユミー、聞こえていたら透明を解けー」
「ふぁーい」
アユミは寝ぼけながら透明化を解く。火傷の跡は当然無く、むしろ火と水で
髪の垢や汚れも全部吹き飛んで綺麗になっていた
「アユミ…あなただったの!?」
「ふぇ…!? ギュスターヴさん! 他の人には教えないようにって!」
「あんな近くで体を張って! バレないわけないだろ! なぁジェニファー?」
「あそこにいた影…あれはアユミだったのね…」
ジェニファーはアユミを抱きしめた
「ありがとう…あなたがいなければ私は今頃…」
「あ…はい…」
***
アユミにワイシャツを着せながら話を続けた
「それで…怪我は無いのか?」
「はい、僕は…火傷と凍傷が無効みたいで…「健康な肉体」というのを授かっているので
打ち身…とかもないみたいです」
魔族は魔族の魔法だけ…と言われたので、自分が魔族の魔法を使えるとは言えなかった
***
「そうか、勇者の力があるから死にはしてないとは思っていたが…ヒヤっとしたぜ」
「アユミが勇者!? あの「異世界召喚」の…?」
「はい…召喚されてきたのは…間違いありません」
「魔族に召喚されたようだがな…高度な変装技術といい…今までとは別種の脅威が
差し迫っているのは間違いないだろう」
アユミは「強化兵士量産計画」について話し、ギュスターヴが書類に纏めていった
「では…エンゼの城へ報告に上がるのですか?」
「あぁ、新しい「看破の水晶」も調達せにゃならんし…明日には出発したい
急な予定になっちまうが頼む、アユミも証人として連れてかないとダメなんでな…」
「アユミもですか…ううん…今のままで登城するのは…いかがなものかと…」
アユミとギュスターヴは首をかしげる。ジェニファーはキレ気味に
「どこの世界にワイシャツ1枚だけで城に行く人がいるんですか!」
「「…あぁ!」」
ギュスターヴは、アユミが服すら持っていない事をすっかり忘れていた
アユミは、全裸でいる時間が長すぎて、服への執着心が消え失せていた
「明日は服を買いに行くわよ! ギュスターヴは馬車の手配でもして下さい!」
「「あ、はい…」」
***
それからアユミはジェニファーが単身生活を送っている部屋に連れてこられた
間借りに近く、没個性的な家具が目立つ
「お、お邪魔します…」
「遠慮しなくていいのよ、アユミは命の恩人なんだから
服を買う前の日に野宿させるのもどうかと思ったしね」
人のプライベートスペースに立ち入る事自体ハードルが高いのに
これからここで一緒に寝るのだ。緊張で体かこわばる…全くの他人でないのが救いだが
本当は男であると言い出せない。気絶してる間にギュスターヴが言ったかもわからない
そんなことをぐるぐる考えながらベッドに腰かけた
「明日は私も通ってる服屋にいくから、そこでなら安くても良い品が…アユミ?」
アユミはベッドに横になって寝ていた。今日だけで下水道掃除、ゴキブリ大発生に対処
捕らわれて脱出、からの追跡、洗濯もしたし、尋問もされた後にヘルファイアも食らった
先ほど気絶状態から叩き起こされたのも相まって、眠気は限界に達し
久方ぶりのベッドの柔らかさに、なすすべなくノックダウンされたのであった
「ふふ…不思議な子…」
ジェニファーはアユミの頭を優しく撫でた




