15話 下水道清掃作業
次の日、例によってキノコで朝食を済ませて冒険者ギルドにやってきた
今日は朝から多くの冒険者がギルド内に集まっていた
多くは耐水性の装備やマスクで身を固めていた
ジェニファーも受付カウンターでの業務をしていたため
並んで順番を待って話しかけた
「ジェニファーさん、おはようございます」
「あら、アユミも下水道掃除に参加する?」
「それは…どんな依頼ですか?」
「国からの定期的な依頼で、ワンダラ地下に張り巡らされている下水道内に行って
詰まっている箇所を見つけたら破砕して流す作業よ」
「破砕したらそのままで良いんですか?」
「破砕できたら高低差によって自然に流され、一箇所の沈殿槽に集められ
細かいゴミは、南の城塞都市ジスにある下水処理場まで流れていく仕組みよ」
「なるほど…」
「基本給は2万ゴールドで昼飯付き風呂あり、自前の耐水装備が無い場合はレンタル料で1万
ベテラン達は、沈殿槽を通り過ぎて城塞都市ジスまで続く下水道も掃除して
さらに2万の報酬が支払われるけど…」
「僕は初めてなので1万の方でいいです」
「賢明ね、装備はあっちで借りられるから着て…受付が終わったら一緒に行きましょう」
「わかりました」
指さした所にいた人から、耐水性の装備とマスクとシャベルが貸し出され、その場でワイシャツの上から着る
長靴にツナギに手袋…例によってブカブカだが、縛って調整できる構造にはなっていた
***
街中に複数あるマンホールの内の一つから侵入することになった
ジェニファーが先にマンホールから下水道内に入る
照明魔法を使ったらしく、底が照らされる
「いいわよー降りてきてー」
アユミも梯子を降りていく、思ったより暗くない。自然に発光する石が
壁に埋め込まれているのだ…照明が要らないわけではないが
卵形直管の構造で人が歩くような箇所はなく、どうしても汚水に足を付けなければならない
アユミの膝下まで溜まっている個所もあるのでなるべく壁際を歩く、とても臭い
「確認するけど…火を出す魔法は絶対厳禁、ゴキブリかネズミあたりが出たら
1匹…2匹程度ならその場で処理、無理そうなら迷わず引き返して応援を呼べばいいわ」
「はい」
「それにしても…深いわね…何か詰まっているかも…」
そのまますり足気味にゆっくり南下していく。下水道は石造りで、思ったよりも丈夫だ
「何か見えて…うわ」
「ハァ…これが詰まりの原因ね」
そこには、下水をせき止める巨大な脂肪の塊があり
体長1メートル程に巨大化したゴキブリ1匹がそれを貪っていた
料理とかで油脂が一度に大量に捨てられたのだろうか
「1匹だけみたいだし…アユミ、やってみなさい」
「…はい」
ジェニファーは驚いていない、この体長がゴキブリの標準なのだろう
アユミは手袋を仕舞い、シャベルを両手で持ち、刃先をゴキブリに向けてゆっくり近づいた
ゴキブリはそのまま動かない…届く間合いになり、アユミはまっすくシャベルを突き出した
「ギュイィィィ!!」
浅い当たりだったがコールドハンドも併用、シャベルを介して冷気がゴキブリを襲い
動きを鈍らせる。そのまま連続して頭を突き、シャーベット状にした
「ふぅ…やりましたよ」
「そうね…でも一つ忘れている事があるわ」
そういうとジェニファーはゴキブリの死骸に近づき
足で尻の部分を思いっきり踏みつぶした。体液が派手にまき散らされる
「卵も処理しないとね」
「…わかりました」
気乗りしないが、これも下水道掃除の一環として慣れるしかないだろう
その後、こびりついた脂肪の塊をシャベルで剥がすと、ゆっくりと汚水が
流れ始めたので、死骸ともどもシャベルで押していった
***
脂肪の塊を転がし続けて約20分、他には詰まっている所もなく、直管の終わりが見えてきた
だが何か様子がおかしい、この先から多くのカサカサという音が聞こえてくる
「ちょっと止まって…ライト!」
ジェニファーが光る玉を前方に放つ、それは先にある沈殿槽の様子を短時間照らし出し
おびただしい数のゴキブリを目の当たりにする。見える範囲だけで大概なのに
直管の端にある死角に何匹いるか…もはや考えたくもない
ゴキブリ達はこちらを向くと、一斉に突っ込んできた
「逃げるわよ! …ちょっと何してんの!?」
「…はああぁぁぁっ!!」
ジェニファーはその場を離れたが、アユミは飛び上がり
今まで転がしてきた脂肪の塊にシャベルを突き立てて
全力のコールドハンドを使った
パキ…パキ…ピシッ
脂肪の塊と周囲の汚水ごとゴキブリが凍っていく
それを乗り越えようと足を付けたゴキブリも凍り
直管内はゴキブリの氷漬けで埋まった、まんべんなく凍ったのを確認してから
シャベルを抜き、ジェニファーに向き直る
「これで少しは時間が稼げます、行きましょう!」
「え…ええ!」
2人はマンホールまで戻り、登って行った。その隙を突かれることはなかった
梯子を上り切り、重い蓋を閉めて一安心…とはいかなかった
「うわあああ! 助けてくれぇ!」
「こんな大発生するなんて聞いてない!」
「冒険者!? 何とかしなさいよ!」
命からがら下水道から逃げ出した冒険者達…蓋を閉める間もなく
ゴキブリの侵入を許した者もいたようで街中は大混乱となっていた
「ううっ…どうすれば…」
「私はギルドに戻って沈殿槽の様子を報告してくるわ
アユミは凍らせる力で遊撃を行ってちょうだい!
あなたの実力ならできるはずよ。でも危なくなったらギルドまで下がって
くれぐれも命は大切にね」
「…! はい!」
こんな時に不謹慎だが、自分を必要としてくれる人がいる
とても幸せだ!
「よし…いくぞー!!」
***
地上に出てきたゴキブリ達は、先程のよりも体長は小さめだった
大きい個体がマンホールから出てこられないのは不幸中の幸いか
アユミはコールドハンドを使いながらシャベルを突き立てて次々に仕留めていった
勿論卵の処理も忘れない
ジェニファーの場合は踏み付けで、派手に体液をまき散らせていたが
アユミの場合は、その場でシャーベット状になるだけだった
「はあっ…はあっ…キリがない…」
他の冒険者達も善戦していたが、その手をすり抜けたゴキブリ達は
家をかじったり、卵を産み付けたり、フンをしたりとやりたい放題であった
アユミも疲労の色が濃くなってきた時
「待たせたな! 応援を連れてきたぞ! 負傷者はこっちに退去しな!」
ギュスターヴが職員と守衛と冒険者をつれて来た。とりあえずは一安心か
気付けば正午になっていた
「あー疲れた…ん?」
ふと見た路地裏の先に、ギルド職員の姿が見えた。辺りを見回した後
小さい建物の中に入っていく…街がゴキブリで大変な時に何をしているのか?
気になったのでアユミも路地裏に入っていく
***
その小さい建物は、小さい机と椅子と絨毯しか置いてない簡素なワンルームだった
何故か絨毯は捲れていて、下に蓋の無いマンホールがあるのが見える
もっとよく見ようとアユミがマンホールに近付いた瞬間
ゴッ
部屋に潜んでいた男に横から殴られ、転倒した
その際に相手の顔が見えた…なんと、ギルドの「資料室」にいた男性職員だった
反撃する事は叶わず、アユミは気絶した




