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14話 息をするように酷い事を

次の日の朝、明るくなったことで周囲に生えている

食べられる草花とキノコが目に映ったので、採取し

弱めのヒートハンドを使い熱を通してから食べてみた


「うーん…草は苦い、キノコは…薄味だけど良いね」


キノコを堪能したアユミの目は少し生き返った

薬草は見つからなかった。街に近いから既に取られていても不思議ではない

「透明化」を解除し、ワイシャツを着て木の札を持って

北門へ向かい、そこにいる守衛に木の札を見せながら門に近づいてみた

少し怪訝な表情に見えたが止められることなく、そのまま通ることができた


***


再び冒険者ギルドにやってきた。何とかお金が稼げれば良いのだが…

期待と不安を抱きつつ、スイングドアを押した


「あ、彼女がそうですよ」

「は…? 子供…? ちょっとリューツ、本当に前科持ち?」

「間違いなく前科持ちですよ」

「子供だなんて聞いてないんだけど!?」


何やら2人が言い争っている。連絡が正しく伝わらなかったとかだろうか?


「聞かれませんでしたからね、子供であるはずがないという先入観があったのでは?」

「はぁ…もういいわ」


そう言うと、ロングウェーブヘアの女性職員はアユミに向き直り挨拶した


「初めましてアユミ、私はジェニファー、しばらくの間

あなたの依頼遂行を監視させていただきます。よろしく」

「はい…よろしくお願いします」


ちょっと怖そうな印象を抱いたアユミだが、態度には出さないように努力する

そこにリューツが話を切り出す


「では昨日言われた様に、薬草採取に向かわれますか?」

「はい」

「ジェニファーもいることですし、この鞄を1日貸し出します

採取が終わったら返してください」

「わかりました、いってきます」


「待ちなさい、具体的な計画をここで言いなさい。適当なのはダメよ」

「…地図によると、ここから北西に森が広がっているのがわかります

結構深いようですから、まだ取られていない薬草もあると考えます」

「…無難な所ね、昼ご飯はどうするのかしら?」

「道中に生えているキノコを食べます」

「キノコ…って毒あるのが殆どじゃない…そんな不確かなこと…」

「今朝の朝食もキノコを食べました」

「…そこまで自信があるなら、勝手にすればいいわ」

「…はい」


別に自信があるとかではなく「記憶能力強化」により間違えようがないだけなのだが

それを説明することは委縮したアユミにはできなかった。鞄を背負い

不機嫌そうなジェニファーを連れて出発した


***


昨日寝た位置からさらに北西まで歩いた、ジェニファーは黙ってついてくる

…子供の足に大人が合わせているのかと思うと申し訳無く、自然に早歩きになる


「あ…あった」


予想通り、この辺りにはまだ薬草が残っていた。言われた通り

根っこは取らずに地上に出ている部分だけ…と、ここで

自分が刃物を持っていない事に気付く。ジェニファーは何も言わずじっと見ている

アユミはどうするか少し考え、コールドハンドで茎をつまんだ

次の瞬間、つまんでいる茎の中の水分だけが凍り、ペキンと折れた


「よしっ」

「え…? 貴方魔法使えたの?」

「はい、少し…」


さすがに魔族の魔法と言うのはやめておいた。この後もジェニファーが見ている中

ペキペキ手折っていき、鞄の中が溜まり始めた頃、下品な笑い声が聞こえてきた


「ゲヒッヒッヒ…」

「む…?」


見るとそこには、緑色の肌をし、ボロ布で辛うじて股間を隠し、太い木の棒を持った

アユミより少し背の高い、口が裂けてて醜悪な顔の男が2体居た


「ゴブリン!」

「ゴブリン…?」


ジェニファーが叫び臨戦態勢を取る。アユミは一瞬反応が遅れ

その隙を2体のゴブリンに突かれる。1体目の攻撃は避けられたが

2体目のは避け切れず、太い木の棒を手で受け止め、倒れこむ


「くぅ…っ」

「ゲッヒッヒッヒ!」


単純な力では負ける。しかし棒を持つ指先目掛けて

全力のコールドハンドを押し当てる


「ギャヒィィィ!?」


ゴブリンは凍傷により指先がボロボロに砕けひるんだ。そこを見逃さず

今度は顔面にコールドハンドを押し当てる


「ガ…ブァッ」


顔がむくみ血液が吹き出し、やがてゴブリンは動かなくなった

もう1体はジェニファーが剣で難なく仕留めていた


「ふぅん…ただのお子様じゃないのね」

「はぁっ…はぁっ…思わず殺してしまいましたが…よかったのですか?」

「…知らないの? ゴブリンはあまりの低知能と凶暴性の為

見つけ次第殺して良い事になっているわ」

「そうなんですか」


確かにあれは魔族とかと違って会話もできないように見えた

次に会ったときは容赦しないようにしようと考え

手についたゴブリンの血を凍らせて払った


「こういう場合はゴブリンが近くに巣穴を作っているものだけど…

2人だけじゃ危険ね、今日は引き上げてギルドにゴブリン出没情報を提供すべきよ」

「わかりました」


まだ正午を回ったばかりだが、引き返すことにした

小腹がすいたので、道中でキノコを拾って食べる


「…生のまま…?」

「いえ、火は通してます。1本食べますか?」

「遠慮するわ…」


ヒートハンドで湯気が出て焦げ目も付いているのだが、傍からは生に見える

微妙に気まずい雰囲気のまま北門にたどり着いた


「じゃ、私は早速出没情報を元にゴブリン討伐依頼を出すから…ここで解散としましょう

アユミは薬草を換金すると良いわ」

「わかりました、ありがとうございました」


ジェニファーはギルドへと駆けていった。やはり速い

改めて、アユミもギルドへ向かおうとした時であった


「おい、そこの娘、その薬草は俺らの縄張りで採ったものだな? 証拠は上がってんぞ」

「…へ?」


突如、トラの頭の獣人が行く手を遮り話しかけてきた


「あそこの薬草が欲しければ…みかじめ料として1本50ゴールド払ってもらおう

払わないなら俺の仲間が…放っておかないだろう」


まさかそんな仕組みがあったとは…先のゴブリンの事といい

この世界は知らないことだらけ…今は一文無しなので払えない

アユミは渋い顔をしながら、仕方なく鞄を開けてひっくりかえした


「お…おい、何を!?」

「これで僕は薬草を採っていないことになりますね、さよならっ」


驚くトラ男と薬草を放置してギルド内へ入った


***


「リューツさん、鞄を返しにきました」

「おや、早いですね…何かトラブルでも?」

「ゴブリンが出たので今日は引き上げてギルドに出没情報を提供すべきと言われました」

「そうですか、先ほどジェニファーが討伐依頼を出すために動いてましたが…

他に情報はありますか?」

「いえ…ジェニファーさんが言ったのが全てだと思います」

「新たな巣の位置でも割り出せれば若干の報奨金が出るのですが…仕方ありませんね」


言いながらリューツは鞄の中身を見る


「これはひどい、あれだけ大言壮語を吐いておきながら薬草収穫ゼロとは」

「薬草にみかじめ料が発生するなんて初めて知りました

一文無しでは払えないので、今はあきらめるしかないですね」

「…は? 何を言って…」


少し拗ね気味に話を切った。アユミの頭の中には、ゴブリンの巣穴を探すことしかなかった

ギルドを出て再び北門から森の中に入り、ワイシャツを脱いで木の札と共に木の上に隠して

周囲を見回しながら「透明化」を使った


「さて…まずは襲われた地点に戻ろう」


***


襲われた地点には、キョロキョロと周囲とゴブリンの死骸とを交互に見ている

ゴブリンが1体いた。低知能といっても戻ってこない同族を気にする程度の

知能はあるらしい、しばらく様子を見ていたが、動く気配がないので

アユミはゴブリンの死角から石を拾って投げつけた


「ゲヒッ!?」


さらに違う方向から連続して石を投げると、ゴブリンはたまらず逃げ出した

その後をつけると、洞穴が見えてきてそこに入ろうとしたので

入る前にコールドハンドで殺し、持っていた太い木の棒を奪って火をつけて

透明のまま洞窟の中に入っていった


「臭っ…」


中には糞尿の臭いが充満していた。「健康な肉体」が無ければ病気になっている所だ

奥に進むにつれ、臭いが強烈になり、ゴブリンの声と水の流れる音が洞窟内に響いてくる

アユミは岩の影に差し掛かった時、火のついた棒を広い箇所に放り投げて隠れた


「ギャヒイィィ…イイッ?」


別の個所からゴブリンが複数体出てきて火を見ている。火があるのに人間の姿が

見えないので混乱しているようだ。アユミはそんなゴブリン達に背後から

ヒートハンドで襲い掛かった


「ギャアァァァ!?」

「ヒッ…ヒィィィ!?」


何の前触れもなく同族が燃え上がったのを見てさらに混乱を深めたようだが

かまわず燃やし続けた。出てきたゴブリン全員焼いた頃には、火でかなり明るくなっていた


「フゴッ…フゴゴッ!?」


さらに奥から大きめのゴブリンが2体やってきた。今まで見た奴らと違い

棒の代わりに斧で武装している、ゴブリンの中でも身分が上なのかもしれない

しかし「透明化」の効き目は変わらず、同じようにヒートハンドで顔面を焼いた


「フゴーッ!? フゴゴーッ」

「うわっ」


大きめのゴブリンは悶え苦しみ暴れて、あやうく斧の刃が当たる所だった

何とか倒せたが、こういうタフな相手には最初に腕を狙って武器を落とさせたほうが

安全だとアユミは思った


もう1体の方はあたりを見回し続けている。今度は斧を持つ腕を最初に重点的に焼く


「フギャァァァ!?」


思惑通り斧を落としたので、今度は顔を重点的に焼く


「フ…ガ…」


安全に倒せた。戦闘経験の少ないアユミだが、「記憶能力強化」で

どんどん動きが最適化されていくようだ。そのままさらに奥へ進むと

今度は杖を持って汚いローブを着て骨の首飾りをしたゴブリンが待ち構えていた

魔法使いだろうか? だが魔法の力等でアユミに勘付くようなことはなかった


「ギャアア…ァ…」


装備が高価そうだったので、コールドハンドで倒した。身なりから

こいつがボスだったのだろうと見当をつける。もっとよく見ようと

先程の部屋から火のついた棒を持ってきてあたりを見回す


「まだ声がする…この奥かな…?」


狭くなっている通路をかがんで進むと、小さいゴブリンと人間の裸の女性がいた

とりあえず小さいゴブリンをコールドハンドで倒す


「ヒッ…ガァ…ッ」


倒した後、女性に近づき頬をはたいてみるが反応がない、脈も心音もない

どうやらずいぶん前に死んでいたようだ。アユミは自然に手を合わせ冥福を祈る


***


アユミはゴブリンの杖とローブと首飾り、そして2本の斧を拾い集めた

既に火が消えかけていたが、道は覚えているので帰るのには大した影響はない

集めた物をゴブリンのボロ布でまとめて縛り、巣穴から出ようとした時

入口の方から松明の明かりが見えたので、とっさに隠れた


「ここかぁ、依頼にあった巣穴ってのは」

「何か焦げ臭くないか? 先客でもいるのか…?」


チャラ男とトラ男だった。トラは夜行性なのでこちらに気付くかと思ったが

そのまま通り過ぎた…2人が奥へ行ったのを確認してから、アユミは巣穴を出た

外は日が陰ってきていた


「ゴブリンからの戦利品…換金できるか試してみよう」


「透明化」を解除し、ワイシャツを着て木の札を持って

昨日も行った古物商を訪ねた


「いらっしゃ…またか、今日はどんな宝石だ?」

「いえ、ゴブリンが落とした物です」

「ゴブリンか…? 冒険者ギルドに入ったってんなら、ゴブリン討伐依頼の証として

買い取ってもらえるはずだが…?」

「その…依頼の出てないゴブリンをその場で倒したので…」

「ふぅん…って、おいおいこりゃゴブリンシャーマンの杖じゃねぇか…どうやって倒した?」

「こっそり近づいてガバっと」

「ホントかよ…そいつはよほどの間抜けか、お前の運が良かったか…まぁいい

杖は1400、首飾り300、ローブ…も300、斧は1本…150だな」


「え? 斧…柄も鉄なのにずいぶん安い…」

「よく見ろ…錆まみれでボロボロだ…これを使ったのは…ホブゴブリンだな?

糞尿を塗って使うもんだから傷みが早い、溶かして作り直さんとダメさ」

「そうですか…うーん」


このままクズ鉄同然の値段で処分するのは気が進まなかった

ヒートハンドで溶かす事は…おそらくできる。後は鍛冶のハンマーと

金床を借りることができれば…と思ったが、今の自分にそんな余裕は無い


「では、その値段でいいので買い取って下さい」

「フッ…まいどあり」


意味深な笑みを浮かべたのは気になるが、無事2300ゴールドを受け取れた

先程みかじめ料代わりに渡した薬草位にはなった。胸ポケットに入れておき

ウキウキしながら服屋へ向かった


「たっか…」


ショーケースに展示されている服の値段は1万から2万程だった

それらは大人用の服だったが、子供用のでも5000はかかるだろうと予想できる

まだまだワイシャツ1枚生活は続きそうだ…これでは気が済まないので

代わりに冒険者ギルド内にある定食屋で何か頼むことにした


***


「800…700…う~ん…」


カウンターでメニューを見るが、微妙に高い値段表示を見て二の足を踏む


「おっ、400…あっ…ふふっ、すみません「肉野菜炒め」を一つ」

「はいよ…ここじゃ前払い式だから、金は出しておいてくれ」

「わかりました」


500ゴールド硬貨を出しておき、できるのを待つ。一番安い料理を選んだだけなのだが

不思議な巡り合わせを感じた。程なく肉野菜炒めと釣りの100ゴールドが

カウンターに出されたので、部屋の隅のほうへ運んで食べ始めた


「…おいし」


豚肉と雑多な青野菜を塩で炒めたあっさり味、青野菜の種類は少し違うが

ほとんどあの島…オグホープで食べたものと変わらなかった

一口噛みしめるごとに、島での出来事を思い返す


リークル、ベロ博士、ドール、ロザ、ゼログニ…

曲者ぞろいで痛い事もされたが、完全な悪党はいなかったように思えた

皆人間との戦争に勝とうと…生き延びようと力を尽くしていただけなのかもしれない

人間の歴史書は見てないから、まだどちらが正しいかは分からないが…


「はぁ…公開羞恥プレイのおかげで…いろいろ吹っ切れちゃったなぁ…」


運動場での事を思い出してアユミは苦笑した。人間関係でうつ病になったはずが

自分から知らない人に話しかけ、食事の注文をするなど

少し前までは考えられなかった事だ。荒療治だったが感謝せねばなるまい


とはいえ、まだまだ他人とのコミュニケーションは厳しい

今アユミが使っている円卓以外では、他の冒険者達が寄り合って食事をしているが

アユミから近寄ろうとはしないし、相手もアユミを呼んだりはしない

…こんな10歳児を仲間にしたところで戦闘の役に立つはずもないし

夜の役にも立たないと思われているだろう…と、アユミは予想していた


そんな時だった


「いよう! ゴブリン退治完了したぜぇ!」


あのチャラ男とトラ男がギルド内に入ってきたのだ。大きな袋から何かの肉片を

自慢げに取り出して受付カウンターに置く、よく見るとゴブリンの右耳だった


「はい確かに、お疲れさまでした…しかし随分と早く終わったのですね?」

「そりゃあもう倒れてて…」


チャラ男の言葉をトラ男が遮る


「ウォッホン!! …火炎瓶を景気よくブチ撒けただけだ」

「そうそうそれそれ!」

「…なるほど、少し焦げています。間違いないでしょう…報酬を用意します」


ゴブリンの右耳を切り取って持っていけば報酬が貰えるとは知らなかった

しかし、あの時も刃物は持っていないから、どの道耳を切り取る事はできなかったし

「本当は自分が倒した」と、今主張する事もできないだろう


「刃物…どうしようかなぁ…」


…いつのまにか肉野菜炒めを食べ終えていた

食器を持ってカウンターへ行く


「ごちそうさまでした。食器はどこに…」

「お、片してくれるか、ならこっちに置いてくれ」

「わかりました」


食器を置いてギルドを出た後、鍛冶屋に立ち寄って値段を見てみたが

一番安いナイフで5000ゴールド…服も欲しい今、かなり厳しい

いざという時は耳を引きちぎらなければならないのだろうか…


「まだまだ前途多難だ…」


アユミはそう呟き、また野宿しに北西の森へ向かうのであった


***


アユミが冒険者ギルドで食事中、他の冒険者達は当然気にかけていた

アユミ自身が思う以上に、長くて白い髪は目立つ


「あの娘…可愛いな、声かけてみるか…?」

「やめとけ…彼女は受付の目の前で全裸になった「白い痴幼女」だぞ?」

「マジかよ…全然そんな雰囲気じゃないぞ」

「コッテリ絞られて大人しくなっただけだろ…現に今もワイシャツ1枚だけで…

誘ってるじゃねぇか、欲情はしねぇけど…」

「そうだなぁ…なんていうか真っ白で、ガラス細工を見てるような感覚だな」

「まさにそれだ、触ったらいろいろ壊れそうでうかつに近寄れん」


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