10話 川沿いのゲリラ
南へ歩いて森を出たアユミはオゲートに戻ることなく
森の外側に沿って東へ進んだ
魔族が居たら交戦もやむなしと覚悟していたが、出会うこともなく
日の入り直前、グルーの真北まで来たと判断したので、近くの木に登って荷物を隠し
透明のまま南下して様子を見ることにした
***
グルーは城塞都市になっていた。高い石壁と堀に囲まれ、門番も配置
さらに普段から跳ね橋を上げているという徹底ぶりだった
それは都市の四方を見ても変わらず、魔族軍の練度の高さが窺い知れる
この状態では、もし何かに便乗して入れたとしても閉じ込められるかもしれない
「何か得られるかと思ったけど…無理は禁物」
アユミは北へ戻り野宿をし、荷物を持ってさらに東へ進んだ
***
食糧を食べながら歩き続けて二度目の日の入り、ようやく大きな川が見えてきた
流れている水部分の幅は約1キロ…これがヒュージリバーで間違いないだろう
川を眺めていると、南の方から爆発音が響いてきた
…そういえば島で、人間のゲリラ活動が活発で川岸の拠点は
捨てるかどうかの瀬戸際に立たされていると聞いていた
様子を見ていると、漆黒の外套を纏う5人の人影が川岸を走ってきた…人間だ
「…っ」
咄嗟に木の陰に隠れた。ゲリラ任務中なら誰かを助ける余裕はないはず
一旦やりすごし、走る集団の後を追うことにした
***
20分北へ走った所で、川の水面から数々の大きな岩の頭が出ている個所に着いた
ゼログニから聞いた、上流に岩を投げ入れて流れを弱めた名残だろう
前を走る5人はそれを足場に跳んで、川を渡っていった
アユミも後に続こうとした…その時
「誰だ!?」
突然最後尾の1人が振り返り、石弓を構えたのでアユミはとっさに伏せた
「誰も居ない…小さな気配があったんだが」
「タヌキとかだろう、対岸にも見張りはいる。私達は早く撤収するぞ」
「…了解」
アユミはそのまま渡っていった5人を見送る、これで自分は
ここを渡れなくなったと悟り、さらに上流へ10分歩いた時
「川を凍らせて足場にできないかな?」
と、思った。できなくても自分のコールドハンドの威力を
正確に把握しておくのは有意義だと判断し、手を川の中に入れた
結論としては、全く凍らなかった。流水は凍りにくいのだと思い知った
過去に川を凍らせたと歴史に残っているが、「氷塊を生成した」
という表現が正しいのだろう。アユミにはできない行為だ
凍らせるのは諦めて野宿し、さらに上流へ歩く
***
日の出からまた歩き続けて正午を回ったころ、水深が浅く渡れる箇所を見つけ
アユミは渡っていった。これでようやく人間領に入ることができた
しかし、食料は残り半分を切った。もう引き返すことはできない
脳内地図を見ながら慎重に考える。魔族領で見た世界地図には
人間の町の正確な位置は記されていなかった
このまま適当に進むのは危険
しばし考えた結果、魔族の川岸の拠点があるのなら人間の川岸の拠点も
あるのではないか? 戦争中なのだから十分ありうる
そう考え、今度は川岸を南下することにした
***
夕方、そろそろあの5人が渡った地点に近づく、背負い袋を腕に抱えて姿勢を低くし
慎重に近づくが…対岸の見張りとやらは見当たらない。見張りが撤収される事など
考えにくいから、あの発言はブラフだったのかもしれない
「騙されたかなぁ…いや、僕は確実な逃走を望んでいるんだ」
臆病なのは悪いことじゃないと自分に言い聞かせ、さらに南下すると
ボコボコと人為的に掘られた穴や溝が点在する場所を見つけた
「あの中かな…?」
一旦引き返し、木の上に荷物を隠してから近づく
中を覗き込むと、石弓や杖で武装した人間の兵士が溝の中…塹壕に沢山いた
ここが拠点で間違いない。アユミの予想は正しかった
「透明化」は人間に対しても効果を発揮していて、気付く者はいない
(地図…司令部っぽい所は…)
人間にぶつからないように進み、さらに深く掘られ、地下室になっている場所で
例の5人が話し合いをしている場面にでくわした。机には地図が広げられている
川で、気配だけで察知されたかもしれないので、息を殺して慎重に地図に近づく
漆黒の外套を脱いでいたので、男3人女2人だとハッキリ分かる
「…そういうわけで魔族の武器庫を爆破せぬ限り、戦果とは認めぬそうだ」
「ふざけんじゃねぇ! こっちには怪我人が出たんだぞ! ちったぁ評価を…」
「上の者には戦場の苦労などわからん…いつものことだ」
「もう爆弾の材料も残り少ないし…どうするの?」
組織の下っ端というのは、どこの世界も変わらないなぁと思いながら
人間領の詳しい地図情報取得完了。慎重に塹壕から出て、荷物を取りに戻った




