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1話 死んで落とされ堕とされる

「何だここ…」


目を開けると、そこは白一面の世界だった。

床は白く、空も青くない。雨や雪が降っているわけでもなく

非常に無機質的な空間が広がっている。


視線を横に向けると、人々が一列に並んで歩いていて

自分が、その最後尾に立っているのが分かったと同時に

つられて自分も並んで歩きだした


前を行く人は、やさしそうな雰囲気のお婆さんだったので

勇気をもって話しかけた


「あの…すみません」

「はぁい?」


お婆さんは、歩きながらも顔をこちらに向けてくれた


「この列は…一体何のために並んでいるのですか?」

「はぁ、あたしも気づいたら並んでいてねぇ、

この前まで腰が痛かったはずなのに、もう1時間は歩き続けているよ」

「1時間!? それは…凄いですね」


顔を上げると、壁や地面の凹凸が一切無いせいで

この列が水平線のむこうまで続いていると分かった

自分もこれから1時間歩くのかと思うと気が滅入る


「おーい、さっさと歩いてくれ、後ろがつかえているぞ」

「ハッ!? す、すみません!」


いつのまにか自分の後ろに並んでいた大柄の白人男性に注意され

自分は極度なリアクションを取ってしまうも、なんとか再び歩き出した

…英語が堪能な訳ではないのだが、なぜ言葉が分かったのだろうか?


「大丈夫よ、悪いことをしたわけじゃないわ」

「はい…ありがとうございます」


お婆さんに諭され、落ち着きを取り戻したところで列に加わり

歩きながら一旦自分の考えをまとめてみることにした


***


僕の名前は秋田歩見あきたあゆみ25歳日本人

取り立てて秀でた特技や特徴は無いショートヘア独身男性

職場での人間関係がうまくいかず、うつ病になり退職

今日は薬局でいつもの抗うつ薬を出してもらって

帰途についていたはずだが…


ふと、お婆さんの頭を見ると、死者が着けるような

三角頭巾があり、後ろの白人男性の首には

ロザリオがかけられているのが見える


おそるおそる自分の頭に手をやると

自分自身にも三角頭巾が着けられているのが

感触でわかった


ここは死後の世界なのだろうか? だとしたらなぜ死んでしまったのか

最近ようやく自殺願望が無くなってきたのに

結局死んでしまったら抗うつ薬の意味が無いではないか


白人男性の言葉がわかったのも、声ではなく

死者同士特有のテレパシーでも使われたからかもしれない

…考えられるのは、ここまでだろう


「今は…歩くしかないのかな」


***


しばらく歩き続けていたが、5分もしないうちに

気分が悪くなってきてしまった。そんな歩見を

お婆さんが心配そうに見つめる


「あら…大丈夫かい?」

「すみません…僕は少し休んでいきますので

かまわず先へ進んで下さい」


歩見は列から離れ、膝に手をついて深呼吸した


「ハァーッ、ハァーッ…やっぱり人ごみはダメだ…」


相変わらずお婆さんが見つめていたので

笑顔を作り、手を振って応えた。よく見ると

白人男性もこちらを向いていたので


「どうぞ、かまわずお進みください」


と、手でジェスチャーをしながら伝えた

もう列に戻る気にはなれなかったし、自分自身の姿を

晒しているのも申し訳なく思ったので、列に背を向け

さらに歩いていった


***


列が彼方に見えるくらいまで離れた

やはり、誰にも気を使わなくて良いのは楽だ

人は一人では生きられない。そんなことは分かっている

しかし自分自身の気持ちはどうにもならなかった

生前も、死後も…


そんな自虐的な気持ちになっていると、小さな黒い点が一つ

水平線上に在るのが見えてきた


「何だろう…?」


白一面の世界の中において、とても異質な点

歩見は興味を持って近づいていった


***


それは3メートル四方の跳ね上げ式の黒い扉だった

今は閉じた状態である


「うーん…」


四方を見てまわっても、取っ手らしき部位は見つけられなかった

開けようとしても、重くてビクともしない。近くに鍵もバールも無い

代わりに、よく見てみると光を反射しない素材でできているのが分かった

その特徴は不気味さを覚えさせ、来たことを歩見は少し後悔した


「これは…恐怖の大王でも封じてあるの…かな?」


何かあったときに責任でも取らされたらたまらない

今は開いていないのだからゆっくりと立ち去ればいい

ここまで歩いて気もだいぶ紛れたし列に戻ろう


そう考え、扉から後ずさり始めた時であった


「コラーッ! そこの霊! 何をやっている!」


彼方から男がすっ飛んで来た。彼は黒髪七三分けにビジネススーツ

という格好で、背中から白鳥の翼が生えていて

文字通り、飛んで来たのである


「ここは立ち入り禁止区域に指定されている!」


そんな看板はどこにも無かったし、ガイド役も居なかった

と指摘したいところだが、歩見にはできなかった


「す、すみません…つ…連れて行ってください」


彼にむかってそう言うだけで精一杯である


「全く面倒だ…が、ここで見捨てたと知れたら査定に響く…」


その時、音も無く黒い扉が開いた事に二人とも気づかなかった


***


扉の中から、黒色の巨大な手が現れて、歩見の体を丸ごと掴んできた


「へぇッ!?」

「なっ! こんな時に発動だとぉ!?」


そのまま扉の中へ引きずり込まれてしまった


「ヒィヤァアアアァァ!!」


最初に見えたのは宇宙、限りなく広がる黒地に白い粒が点在する空間

歩見を掴んだ黒い手は溶けるように消えるが、同時に

さらなる勢いを歩見の体に与え、三角頭巾もちぎれ飛んだ


体がバラバラになるような速度、恐怖により視角が一点に集まる

一つの星がこちらへ急速接近している…否

自分があの星にむかって落ちている


瞬きした瞬間に、落ちる対象が星から島へ、島から石造りの建物へと移る

もう限界だ。歩見は歯を食いしばり、目をぎゅっとつぶる


***


次の瞬間、水中に落ちる音とともに激痛が襲う

緑色の液体で満たされた水槽内にある歩見の肉体は

自動車に轢かれた直後のように損傷がひどく

むき出しになった神経を直接刺激されていたのだ


「ガブブブ…」


しばし力なく佇んでいると、肉体が急速に修復されていき

それとともに痛みも和らいでいった、培養槽の一種だろうか

今の歩見に考える余裕は無いが


「はぁっ、はぁっ…一体どうなって…」


培養槽は壁に半分埋まっていて蓋はついておらず

幅1メートル高さ3メートル程の四角柱状で

水族館のように片面から中の様子が分かる構造になっていた


痛みの取れた歩見は、何とか自力で這い上がることができた

…人の足が見える。誰かが待ち構えていたようだ


「ハァ~イ♪ 気分はどうかしら?」

「はい…大丈夫です…っ!?」

「うふふ♪ 翻訳機能はバッチリね」


見上げると、布面積が少ない水着のような服を着た女性が

口元に妖しい笑みをうかべたまま歩見を見下ろしているのが分かった

豊満な胸、綺麗なボディライン、整った顔立ち、ピンク色のロングヘアー

歩見が今まで見た女性の誰よりも美しく、目が離せない

松明に照らされた薄暗い室内で、余計扇情的に映った


頭部に小さな2本の角、長く尖った耳、背中からコウモリの翼

おまけに細長い尻尾までついているが、もはやどうでもよかった


彼女は、笑みを崩さずにゆっくりと屈み、顔を覗き込んできた

歩見は驚いて尻もちをついてしまい

全裸だったので股間が丸見えになってしまう


「あっ…あのっ…僕っ…」

「カワイイ…♪ 私に身をゆだねて…」


童貞の歩見には、股間にあてがわれた彼女の手のひらに抗う術は無かった

当然、彼女が反対の手に何を持っていたかを見る余裕も無く

自慰行為をはるかに上回る快感に身を震わせ

間を置かず体液を放出し、あたりを白く汚してしまう…はずであった


「んうっ!?」

「さぁ出して出してぇ…♪」


股間にホース状の装置が取り付けられ、吸引を開始した

出る、出る、まだ出る、1分…いや10分経っても出る!

その間も彼女によって快感は持続させられ、止めることができない

頬がこけ、あばら骨が浮き出てきて不安になるとともに頭が冴えてきた


彼女の身体特徴は、ゲームやフィクションで表現されていた悪魔

サキュバスそのものであった。大抵は作品内で男の精を吸い取り糧とし

時に死に至らしめる恐るべき存在として描かれていた事を思い出す


「はあっ…はあっ…ま、待って…し、死んじゃう…」

「そろそろね…じゃあ次はこれっ♪」

「んぐっ!?」


サキュバスは歩見の顎を持ち上げ、別のホースを取り出して喉の奥へ突っ込んだ

ホースの先は生きているかのようにうねり、胃まで到達した後

ぬるいゼリー状の物体を放出し始めた


変化はすぐに訪れた。体の奥…へそのあたりから熱がこみ上げてくるとともに

節々から鈍い痛みが走り始め、歩見の体は骨格から作り替えられていった


全体的に丸みを帯び、背が少し縮み、尻と胸が膨らみ始めた

髪の質も変化し、艶を出しながら背中まで伸び

こけた頬も再び膨らみ、骨が浮き出る状態もなくなった


変化中も、股間からは体液が吸われ続けていたが、ついに勢いよく外れた

股間がちぎれ飛んでしまったのか…いや違う。歩見の人生で見たことのない

女性特有の股間に変わっていたのである


「はんはほへぇー!?(なんだこれぇー!?)」

「はーいおとなしくしてねー?」


サキュバスは慣れた手つきで、外れたホースを片付け

歩見のそれぞれの足首に一つずつ、ロープ付きの枷をはめて

背中が少し浮く程度まで吊り上げ、足が開くように固定した


そして間髪入れずに白濁液の入った三角フラスコを手に取り

歩見の新しい股間にねじ込んだ


「んぐっ!? ンウゥー!!」


フラスコと股間の間から垂れる赤い血

痛みと共に歩見の目からあふれ出る涙

ゆっくりと落ちていく白濁液は、とても冷えていた


喉に突っ込まれたホースのせいで喋れない歩見は

懇願するようにサキュバスをじっと見つめた

しかし、彼女は何をしてくれるわけでもなく

その状態のまま30分放置されるのであった


***


30分後、三角フラスコと足枷は外してもらえたが

喉のホースはそのままであった。自分で引き抜こうとしても

先端が胃の内部で膨らんでいるのか、抜くことができない


ホースをいじっていると、腹部が急激に膨らんできた

何やら蠢いていて中に別の生命体が潜んでいるのがわかり

歩見は恐怖におののく


「ンッ、ンーー!!」

「ギャアーッ! ギャアーッ!」


今までに経験したことのない激痛が走り

直後、腹の中から股間を通って赤子が飛び出してきた

その肌は青く、長く尖った耳に、非常に小さいが

頭部に小さな2本の角まである。あまりに現実離れした出来事の連続で

本当に自分が産み落としたのか実感がわかない


これで終わりではなかった。突如喉のホースからの

ゼリーの放出量が増し、付いたままのへその緒が

激しく脈動し始めたのである


「ングッ、ングッ…」

「ギャ…ギャハ…」


青い赤子が急速成長し、筋骨隆々の男に変貌を遂げていったのである

それとともに歩見の肉体は年齢退行を始め、倦怠感と脱力感を伴いながら収縮

あらゆる力、養分がへその緒を通して奪われていっているのだ


やがて、肌と髪の色素すらも奪われて真っ白になり

5歳児程度の大きさの体にされたところで、へその緒が切れ

喉のホースの先端が細くなり、自然に抜けた


「ゲェーッ、ゲフッ、ゲフッ…」


咳込んだ衝撃で、もう一つの生命体が腹から飛び出てきた

どうやら双子だったらしい。しかし、先ほどと違い

こちらは力なく未熟児の状態で、辛うじて息がある状態だ


それを見た筋骨隆々の男は、突如未熟児を掴み

勢いよくへその緒を引きちぎる

反動で歩見の下腹部からおびただしい出血が始まった


「ウアアァ!!」


男はそんな歩見には目もくれず、未熟児の胸部を切り裂いて

心臓を取り出し喰らって殺してしまった


「グワァッハッハッハ!!」

「あ…あ…」


男は四つん這いの状態で満足気に吠えていた。まるで極上のデザートを与えられた

無邪気な子供のようだ。そして一部始終を見ていたサキュバスに

手を引かれ、どこかへ連れられていった


後には、未熟児の無残な死体と、出産直後の鮮血まみれになった

5歳女児だけが残された


「どうして…こんな…ことに…死にたい…」


そこで歩見の意識は途切れた


***


「ベロ博士、被検体が生き残ったわ。双子の片割れを身代わりにしてね」

「何ィー!? 新発見だぁ…現状の確保も頼んだぞ!」

「了解…あなたの新しい玩具ね…」


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