【第7話】心配
「許す。私も突然こちらに来たのだから警戒して当然だ。それと、楽にして良い」
「ありがとうございます」
えっと? どういう状況なの? お父様にならってお母様やお兄様たち、近衛兵や侍女まで、この場にいる私とアズ以外全員が跪いていた。……そんな中、私はアズに抱っこされています。
あっ、そうか! アズは空の精霊王だった!
「ユーリャは私を何だと思っていたの?」
アズは呆れたように言った。
なんだろう? 正直、精霊王としてというより、新しいお兄様みたいな存在として接していたかも。
「……新しいお兄様?」
「……そうか、お兄様か」
アズは少し衝撃をうけたようだった。
「兄上、どういうことでしょうか⁈ ユーリャは……?」
「私もわからないが、後でゆっくりとユーリャに聞く必要がありそうだね」
「そ、そうですね」
ルティ兄様とセーズ兄様がこそこそと話している。全部聞こえていますよ! それに、ルティ兄様から冷気が漏れ出しているような気がする……。
思わず身体を震わせると、いつの間にか普段通りになっていたアズがよしよししてくれた。おかげで少し落ち着くことができた。
「アズ、ありがとう」
「ふふ、お安い御用だよ」
「……空の精霊王様」
和やかな雰囲気になっていると、お父様がアズに声をかけた。
お父様方、ごめんなさい! 今の状況が一瞬頭から抜けていました!
頭の中で謝罪しながらお父様の方へ視線を向けると、にっこりと笑い、冷気を漏れ出させているお父様と目があった気がした。さすが父息子だ……。
「何か?」
「状況の説明をお願いしたく思います」
「……ああ、説明がまだだったな」
アズは今の状況の説明を始めた。
私が空色の精霊を呼んだと同時に風の精霊さんがいたずらをし、私を別の場所に移動させた。空色の精霊、つまり空の精霊王に私がアズという名前をつけ、契約が成立。その後、とあることで怒ったアズが風の精霊さんに威圧を使い、それに巻き込まれた私が倒れ、なんだかんだでお父様のところへ行こうという話になり、今にいたる。
という説明だった。
「ユーリャ、大丈夫なのかい?」
「はい! 大丈夫です! ちょっと身体に力が入らないだけで……」
お父様に聞かれて私は苦笑して答えた。
うん? お父様がなんともいえない表情をしている? お母様やお兄様たちまで、どうしたの?
アズに助けを求めようとすると、こちらもなんともいえない表情をしていた。
……もしかして、どういうことかわかってないの私だけ? よし、聞いてみよう。
「あの、お父様。どうしてなんともいえない表情をしているのですか?」
「ああ、それはな……。ユーリャが話した『ちょっと身体に力が入らない』というのは全く大丈夫な状態ではないからだよ」
「そうですか? これぐらいならしばらくすれば治ると思いますが……?」
本当に治ると思うんだけどな。倒れるなんてよくあることなのに……。
あれ? ユーリャ、倒れたのは初めてだよね? うーん?
「ーー? ユーリャ? 聞いている?」
「……あ、はい」
ルティ兄様に疑いの目で見られてしまった。
「父上のお話に付け加えると、父上や母上、セーズ、もちろん私も、みんなユーリャのことを心配しているんだよ」
「そうなのですか?」
「「「当たり前(だ)(です)!」」」
お父様、お母様、セーズ兄様が食い気味に言った。
「私も心配しているよ」
アズも心配してくれている。
なんだか心があたたかくなったのはなぜだろう?
「お父様、お母様、ルティ兄様、セーズ兄様、そしてアズ、ご心配おかけしました」
私がそう言うと、各々うなずいてくれた。
「国王よ、これからのユーリャや私のことについて話したい」
「はい、もちろんです。ラノソーヴァ、手配を頼む」
「かしこまりました」
どこからか現れたラソノーヴァさんが返事をしてどこかに消えた。ラソノーヴァさん、何者……?
これからアズとお父様とで話し合いが行われるらしい。私はお兄様たち……主にルティ兄様にいろいろと聞かれるだろうな。
なんて楽に予想していた時もありました!
あれからみんなで王城に帰り、お父様とアズと別れた後、私はお母様とルティ兄様に連れていかれた。ちなみにセーズ兄様はいつの間にかどこかに行っていた。そして今、お母様のお部屋にいます!
私の正面にはとても美しい笑顔を湛え、冷気を隠そうともしていないお母様とルティ兄様がいる。圧がすごい。
「……ユーリャ」
「ひゃ、はい」
「何か、言いたいことはあるかしら?」
お、お母様、言いたいことですか? 言いたいこと、言いたいこと……?
「と、特にありません……」
「そうですか、私はありますよ」
「……何でしょうか?」
なんだろう? お、怒られるのかな?
でも、怒られるようなこと、したかな?
「……私が、私たちがどれだけ心配したか、わかりますか? 突然大切な家族が目の前からいなくなって……。本当に無事に帰って来てくれてよかった……!」
そう言って、お母様は私を抱きしめた。
……お母様、泣いている? そこまで心配をかけてしまっていたなんて……、どれだけ申し訳のないことをしてしまったのだろうか。
「ご、ごめんなさい」
「あら、どうして謝るの? あなたは何か悪いことをしたのかしら?」
今までのしんみりとした空気はどこかにいき、お母様はあっけらかんとして言った。
その変わり身の早さにルティ兄様と顔を見合わせて驚いて、どちらからでもなく笑顔になった。
「ふふ」
「あはは」
「二人ともどうしたの? 何か面白いことでもあった?」
「いえ、ただいつも通りだなと思っただけです」
「私もです!」
「そう? そうね、二人が笑顔になってくれて私も嬉しいわ」
お母様も笑顔になった。
ーーお母様、先ほど私に聞いたことですが、確かに私は悪いことはしていませんね。心配してくださって、ありがとうございます!