【第6話】精霊のいたずら
「あれ? お父様たちは?」
「国王たちなら元の場所にいるよ」
アズは苦笑して言った。
「……どういうこと?」
突然、倒れそうになるぐらい強い風が吹いた。
「わっ!」
「ユーリャ! ……っと、大丈夫か?」
倒れそうになった私をアズが支えてくれた。
「う、うん。ありがとう」
アズは私をそっと立たせると、風が通った方向を向いた。
すると、空気が張り詰めた。
「風の精霊よ、姿を現しなさい」
静かな声だが、怒りの感情がこもっている。
こわい。自分に向けられた感情ではないのに、身体が震えている。……息が、できない。
「……ちょ、ちょっと、精霊王様⁈ あなたの契約者、今にも倒れそうよ⁈」
「っ! ユーリャーーーー」
薄れゆく意識の中、アズの慌てる声が聞こえた気がした。
「ーーリャ! ユーリャ! 目を覚まして!」
……アズ? 私、どうしたんだっけ? お父様がいないことに気づいて、突風が吹いて……そうだった!
「っ! ゴホッ! ゴホッ!」
「ユーリャ! よかった!」
アズは私を思い切り抱きしめた。……少し苦しい。
「ア、ズ。……くるし」
「す、すまない!」
そう言って腕から解放してくれた。
「……大丈夫か?」
「うん。でも、身体に力が入らない」
起き上がるのも難しそうだ。
「すまない。私の所為だ」
アズはとても悲しそうな顔をしている。
全く状況が把握できていない。
「……説明をお願いします」
「ああ。……あの時突風が吹いたのは、風の精霊のいたずらだ。風の精霊がユーリャを転ばせようとしたので、つい威圧を使ってしまった」
「質問! 威圧って何?」
「威圧は、その名の通り相手を恐れさせることだ。私は魔力を使って風の精霊を威圧した」
「な、なるほど」
「威圧はその対象だけでなく、周りのものまで巻き込んでしまう。私はそれを忘れていて、ユーリャを失神させてしまったんだ。力が入らないのも威圧を受けたからだと思う。しばらくすれば動けるようになるだろう。本当にすまない」
「……ちょっと失神しただけで、それ以外は大丈夫だから。……ふふ。でも、ただで許すとは言ってないよ?」
「どうしたら許してくれるか?」
「……アズ、そんなに悲しそうな顔をしないで。きちんと謝ってくれたでしょ? だから、笑って? そうしたら許す!」
私は笑顔で言った。
「そうか。ありがとう、ユーリャ」
アズも笑ってくれた。よかった。
「そういえば、風の精霊さんはどうなったの?」
「ああ、風の精霊ならば、あの木に隠れて私たちの様子を伺っている」
アズは木を指差しながら言った。
その木を見てみると、手に乗りそうなぐらいの大きさの、きらきらした羽を持つ空色に光る小人がいた。
「……かわいい」
「「え?」」
アズと風の精霊さんが呆気にとられている。
「風の精霊さん!」
「は、はい!」
私が呼びかけると、風の精霊さんは緊張した声で返事をしてくれた。
「近くへ来てくれませんか?」
風の精霊さんは一瞬迷っていたようだが、私の近くへ来てくれた。
「ご、ごめんなさい!」
そして、謝った。
「どうして謝るの?」
「……あたし、あなたを転ばそうとした。それに、あなたを国王たちから引き離し、ここまで連れて来た。だから、ごめんなさい!」
お父様たちがいなくなったのはそういうことだったんだ。あ、大事なこと聞かないと。
「あの、私はお父様たちのところへ戻れる?」
「もちろんよ! あたしが責任を持って国王たちのところへ戻すわよ!」
「そっか。私は結果的に転んでないし、お父様たちのところへ戻れるんだよね? それなら大丈夫!」
「……許してくれるの?」
「うん!」
「あ、ありがとう! っ! うわーん!」
風の精霊さんは安心したのか、泣いてしまった。
しばらくすると、風の精霊さんは泣き止んだ。
「な、情け無いところを見せたわねっ!」
「ユーリャ、起き上がれるか?」
アズ、風の精霊さんが話しているのを遮ってない?
「そうか、まだ起き上がれないか」
……何も言ってないですけど、確かに起き上がれないことは事実だ。
「うわっ」
アズは私を抱っこした。
「よし、国王たちのところへ行くか」
アズさん、怒っていらっしゃる?
「あたしが送るわよ!」
「……では行こうか」
風の精霊さんを華麗に無視して、アズは歩き出した。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
そんなこんなで歩いていたら、お父様が見えてきた。
「アズ! お父様が見えてきたよ!」
「そうだね」
「あれ? 風の精霊さんは?」
「住処へ戻ったみたいだよ。人がたくさんいるところが苦手と言っていたからね」
アズはとてもいい笑顔で答えた。
「そ、そうなんだ。……人がたくさん? お父様、お母様、ルティ兄様、セーズ兄様しかいないはずだよ?」
「国王たちの周りをよく見てごらん」
言われた通り見てみると、近衛兵や侍女が十人ぐらいいた。
「……確かに人がたくさんいるね」
これだと、風の精霊さんが帰ったのも納得だ。
「ユーリャ、国王たちに声をかけてみたら?」
「うん! そうする! ……お父様!」
声をかけてみると、お父様は勢いよくこちらを向いた。
そして周りにいた近衛兵に何かを言うと、私たちの方へ来た。
でも、なんだか様子がおかしい。何かを警戒しているような……?
「ユーリャ、私から離れないように」
アズも警戒している?
「わ、わかった」
「……フォーレ国王よ。私は空の精霊王、アズ。ここにいるユーリャは私の契約者だ」
アズはお父様たちに向けて言った。
「っ! 空の精霊王様でしたか。ご無礼をお許しください」
お父様はアズに跪いた。
うん? どういうこと⁈