【第4話】すごい夢
気がついたら、暖かな色の部屋というには広すぎるところにいた。
「ーーは上手くやっているだろうか?」
「きっと大丈夫ですよ。あの子は強いから」
「……そうだな」
すみません、気づいてくれませんか? 私、ここにいて良いんですかね?
そう言いたいが、神々しい方と人間離れした方の話に口を挟むのは気が引ける。どうしよう?
「おや⁈ 君は、もしかしなくても……?」
あ! 気づいてくれた!
「ああ、私が呼んだ」
「……なるほど」
人間離れした方は納得したように言った。全く話が見えない。
「あの、私はなぜここにいるんですか?」
おそるおそる話しかけてみた。
「「っ!」」
え? なんで驚いているの?
「フルール神! これはどういうことですか⁈」
「す、すまない。私もはっきりとした理由は分からない」
「はい? あなたがやったことではないのですか?」
「いや、確かに私がやったことだ。おそらく、自ら記憶を封印したのだろう……」
「……そうですか」
内緒話のつもりかもしれませんが、丸聞こえですよ。そう思いながら神々しい方と人間離れした方を見つめる。
「あっ。フルール神、全て聞こえていたかもしれません」
人間離れした方は私を見てそう言った。
「こほん。ユーリャよ、聞こえていたか?」
「は、はい。全て聞こえていました」
「そ、そうだよな。まあいいか」
……ところで、ここはどこだろう? なんでここにいるんだろう?
「ああ、説明がまだだったな。私はユーリャたちが住んでいる世界フルールの神である。ここは君の夢の世界だ。ひとつ聞きたいことがあってな。君の夢に入らせてもらった」
この世界の名前は『フルール』っていうんだ。……初めて知った。この神々しい方は神様なんだ。へー。
「…………神様⁈」
「そうだが?」
「そ、そうなんですね? ところで、私に聞きたいこととはなんですか?」
「空の精霊王よ、説明を頼む」
「はい、わかりました」
人間離れした方が空の精霊王? 精霊ってそもそも何?
「聞きたいことというのは……。おっと、自己紹介がまだだったね。私は空の精霊王。名前は無いよ。……うん? 精霊について何も知らない?」
え? なんで分かったんですか?
「それはね、顔に書いてあるからだよ。精霊って何? ってね」
「な、なるほど」
「話を戻すよ。一言で言うと、精霊とは自然と共に在るもの。だから、自然が無くなったら精霊もいなくなる。自然を壊したら精霊の怒りを買って、野菜や果物などを収穫できなくなる。そんな存在が精霊だ。その精霊たちを統べるものが精霊王。精霊王は三人いるよ。そのうちの一人が私だ。分かったかな?」
「なんとなく分かりました。ご説明ありがとうございます」
「ああ。それで、君に聞きたいことなんだが、そこにいるフルール神が君が楽しく生きているかどうか心配していてな。ユーリャは今楽しく生きているか?」
「そ、空の精霊王よ、それは言わない約束では?」
「約束はしていませんが?」
「……そうだったな」
そんな会話が聞こえるが、まあいい。私が今楽しく生きているか、それはもちろん……。
「私は今、楽しく生きています!」
「っ! そうか。それはよかった」
神様が心底安堵したように言った。
「ふふ」
神様って意外と表情豊かなんだな。そう思ったらなんだか笑顔になった。
「……? 私はそんなに表情豊かか?」
「そうだと思いますよ。……ふふ」
「そ、そうか……?」
神様と空の精霊王さんが話しているのが遠くに聞こえた。
「ーーユーリャ。起きる時間だよ」
「うーん? ルティ兄様?」
「うん、起きて」
「はーい」
私は伸びをして起きた。すごい夢を見ていた気がする。思い出せないけど。
「どうしたの?」
「いえ、なんでもないです」
「それならいいか。レノア、アルーツィ、準備をよろしく」
「「かしこまりました」」
「え? 何の準備ですか⁈」
「ふふ、それは秘密だよ」
そう言ってルティ兄様は部屋から出て行った。
「ではユーリャ様、準備を致しましょう」
いつも通りあっという間に着替えさせてもらい、髪もかわいくしてもらっている。
それにしても、今着ている服はいつもと系統が違う。いつもはふりふりしたドレスなんだけど、今は白地に空色の刺繍が入った和服みたいなものと紺地に白い刺繍が入った上着を着ている。どこか神秘的な服だ。っていうか、和服って何だろう?
「できました! とてもお似合いです!」
アルーツィが言った。あ、そういえば、聞いておきたいことがあったんだ。
「ありがとう! あの……」
「どうかなさいましたか?」
「私が普通に話していて驚かないの?」
勇気を出して聞いてみた。
「初めて聞いた時は驚きましたけど、なんだか納得しました」
レノアも頷いている。
「納得?」
「はい。ユーリャ様は好き嫌いもしませんし、夜泣きも全くありませんでした。だから、ユーリャ様がギフト保有者だと聞いて、納得しました」
「そうなんだ」
そういうふうに思われていたんだな。
「それと、私のこと不気味だとか思わない?」
「「全く思いません!」」
二人とも勢いよく言った。
「っ! そっか! よかった!」
私は周りの人に恵まれている、心底そう思った。
「さあ、行きましょうか」
「どこに行くの?」
「ご家族のところですよ」