【第3話】ご挨拶
ーーーー城下のとある小さな家にて。
「かあさん、どうしてみんなお城に行っているの?」
「ああ、レイは知らなかったよね。今日はこの国のお姫様のお誕生日なんだよ」
「そうなんだ! おひめさまってどんな方なんだろうね?」
「気になるなら行ってみる?」
「うん! 行ってみる!」
「「「わあー!」」」
「「「ひめさまー!」」」
今、王城内の広場には、たくさんの人々がいる。なぜかって? それは、フォーレ王国の第一王女、つまり私を一目見るためだ。
あの後、着替えさせられ髪をかわいくアレンジされた。何事かと思う暇もなく、かわいくて素敵なお姫様が完成した。……私のことだけど。そして言われた。
『ユーリャ、今から君のお披露目だ。民の前でご挨拶、できるよね?』
そして今になった。
……お父様にはああ言われたけど、私が数千、いや数万? の人々の前で挨拶できるかな? ちょっと不安だ。
「……ユーリャなら大丈夫。ユーリャも僕たちの家族。自信を持って。きっと民たちも祝福してくれるよ」
「セーズの言う通り、あなたも私たちの家族よ」
「っ……! セーズ兄様、お母様……! ありがとうございます! おかげさまで自信を持って挨拶できそうです!」
「そう、よかった」
あたたかな感情がこもった瞳でセーズ兄様とお母様が笑った。つられて私も笑顔になった。ああ、暗い表情をしていたのだなと、その時気づいた。
「四人とも、準備はいいかい?」
「ええ、もちろん」
慣れた様子でお母様が答えた。
「はい、大丈夫です」
と、私の背中にそっと手を置いたルティ兄様。
「僕も大丈夫です」
自信をくれたセーズ兄様が言った。
「……私も、大丈夫です!」
私には、認めてくれて、受け入れてくれて、自信をくれる大切な家族がいるんだ! だからきっと大丈夫! そんな気持ちを込めて言った。
「そうか」
満足げに笑ったお父様はラソノーヴァさんに合図した。そしてラソノーヴァさんが合図した近衛兵が叫んだ。
『王家のみなさまがお出でになります!』
ゆっくりと外への扉が開き、身体中に響くような歓声が聞こえてきた。
「では、行こうか」
「はい!」
一歩踏み出した先に見えたのは、数えられないほどの人だった。
「「「わぁー! こくおうさまー! ひめさまー!」」」
私たちが外に出ると、歓声はより大きくなった。
お父様が慈愛に満ちた国王スマイルで人々を見回し、すっと片手を上げる。
歓声は一瞬で止んだ。
『ーーフォーレ王国の民よ。今日は私の娘、ユーリャ・フォーレのために集まってくれたことを感謝する。エルフ・ユーリャにとって重要な一歳の誕生日という日を皆と共に迎えられたこと、とても嬉しく思う。そして、ユーリャがギフト保有者であることをここに発表する。一歳になったエルフ・ユーリャに精霊の祝福を!』
お父様がそう言い、私を抱っこした。
「「「エルフ・ユーリャに精霊の祝福を!」」」
人々それを復唱した。すると、色とりどりの光が空中に集まってきた。幻想的でとても綺麗だ。その中でも一際大きな空色の光が私の前に現れ、私に近づいてきた。思わず手を伸ばすと、光は触れやすいようにさらに近づいてくる。光に触れたその瞬間、声が頭の中に響いた。
『精霊の森で待っている』
慈しむような声だった。
気づいたら、光は全ていなくなっていた。
「…………ひめさまー! おめでとうございます!」
その声を引き金に、大きな歓声が巻き起こった。
「わあー! おめでとうございますー!」
「めでたい! めでたいぞー!」
「おめでとうー!」
お父様が私に話しかけた。
「さあユーリャ、民にご挨拶を」
「わかりました!」
私が前に出ると、歓声が止んだ。
『こ、この国のみなさん! 初めまして、ユーリャ・フォーレと申します! たくさんのお祝いありがとうございます! とても嬉しいです!』
突然、ルティ兄様が耳打ちしてきた。私はそれに頷いた。
『みなさんに、精霊の祝福あれ!』
「「「わぁー!」」」
それから、手を振りながら外に出る前にいた部屋へ戻った。
お披露目式(勝手にそう呼んでいるだけ)に参加して、気になることができた。エルフにとってどうして一歳が重要なのか、精霊の祝福とは何なのか、色とりどりの光と大きな空色の光は何だったのか。気になるけど、まあ、そのうちわかるでしょう!
それより今は、とにかく疲れた。眠りたい。
「あら、ユーリャ。お疲れね。少し休憩しましょうか」
「そうしたいです」
ありがとうございます、お母様。その後、レノアとアルーツィが来てくれ、休憩ができる服に着替えさせてもらった。さっきまで着ていた服では落ち着いて休憩できそうになかったからね。
自分の部屋のベッドにたどり着いた途端。
あ、もう、ねむ、い……。
私は夢の世界に飛び立った。
「ユーリャは眠ってしまいましたか?」
「ええ、午前中だけでもさまざまなことがあったもの。あれだけ疲れるのも無理はないわ。あなたは大丈夫なの? ルティーノ?」
「はは、大丈夫ですよ。もう慣れましたから」
そう言ったルティーノの顔は曇っていた。