あの日の事故の真相を夏祭りのポスターは知っていた
今年も夏祭りは8月9日に行われる。
僕の田舎の神社の夏祭りは数年前から曜日関係なく日にち指定で行われるようになっていた。だから、僕はここ数年は祭りに参加出来ている。この日は僕の幼馴染である徳子の命日なのであるから。
徳子は5年前のあの18歳の夏に神社の階段から転落して亡くなった。不審な点も無く、クラスメート証言もあり事故死として片付けられた。僕も彼女との別れは悲しかったが、自己自体には何の疑問も抱いていなかった。
「今年のポスターケイ君がモデルなのね」
「ええ、迫田さんが手配してくれたの」
実行委員のおばさま方が夏祭りのポスターを張りながら、大人気配信者ケイのイケメンを堪能していた。
今年のポスターには仕掛けがあった。全12か所の町の掲示板毎に違うアルファベットが1文字書かれている。それを掲示板の順番ごとに繋げると、夏祭りのホームページからアクセス出来るケイの特別配信を見る為のパスワードになるというものである。
『tadanоyоkоku』それがパスワードだった。そんな事もあり、町は大いに盛り上がっていたのだったが、それ以上に悪い意味で盛り上がってしまったのだった。
切っ掛けは僕だった。何となくパスワードを眺めていると別の言葉が作れてしまったのだ。戸惑いながらも、気付けば僕はそれを入力してしまっていた。
「そりゃそうだよな」
当然特別配信は開かなかった。
しかし、画面は暗転して『はい』とだけ表示されていて僕は戦慄した。パスワードは『tоkukоdayоna』と入力したのだ。
『迫田! 徳子を突き落とした事を言ったら、お前も殺すからな』
『それは』
『バチン!』
『は、はい。言いません、安岡君、もうぶたないで』
そんな音声データが流れたのだった。警察の調べでそのデータが5年前の物である事が分かって、同級生数名が逮捕された。主犯は安岡という元不良だった。美香という可愛くて人気のあった女が依頼をしたらしい。彼女の彼氏だった三谷が彼女と別れて徳子に告白した事を恨んでの事だった。
「徳子、何も気付いてやれずにごめんな」
僕はその理由の理不尽さに腹立たしくなったが、犯人が捕まった事でまだ救いがあった。
事件発覚の切っ掛けを作った迫田に連絡をとった。携帯などは知らなかったので実家へと電話したのだった。なぜあんな手の込んだの事をしたのかを聞きたかったのだ。
しかし、僕が聞けたのは3年前に迫田が亡くなっていた事だけであった。