クッキー詰め放題
「シグルド! クッキーの詰め放題ですよ! 急いでしましょう!」
ティナは街に着くなり良い匂いにつられて菓子屋に行くと目を輝かせて興奮していた。
「クッキーより服が先だろ!?」
こいつはずっと俺のサイズの合わない服を着ている気か!?
「クッキーが先です! 美味しいのがなくなったらどうするんですか!?」
何か嫌だ!
これから、どうやってショーン達を殺ろうかと思っているのに、クッキーの詰め放題に燃えたくない!
「では、二人分お願いします」
「俺もするのか!?」
ティナは俺の分までクッキーの詰め放題に申し込んだ。
「シグルド、頑張って元を取りましょう!」
あぁ……どうして俺は紙袋片手にクッキーを詰めているんだろうか。
人生初のクッキー詰め放題が復讐で頭が一杯の時とは………おかしいだろ!?
「シグルド! もっと頑張って詰めて下さい! 隙間なく詰めるんですよ!」
ティナは必死でクッキーを詰めている。
本当におかしな女としか思えない。
クッキーの紙袋が一杯になり、満面の笑みのティナは、嬉しそうに「やりましたね!」と言った。
「では、次は服屋に行きましょうか。本当に服も買ってくれるんですか?」
「お前は無一文だろ!」
城の塔から逃げて来て今に至るから、ティナは金を持ってない。
クッキー詰め放題も俺が払った。
隠れ家に金を置いておいて良かった。
「シグルドって優しいですね。ありがとうございます」
「動きやすい服にしろよ」
「はい!」
お菓子がよほど嬉しいのか、元気に返事される。
そのまま、冒険者がよく購入する服屋に行くと、ティナは真剣に服を選んでいた。
そして、悩んだ末に特殊な布の防魔布で作られた冒険者らしい服に決めた。
「シグルド、ありがとうございます」
ピンクの髪に聖女のローブと違い、聖女レティシアとは印象が全く違っていた。
ティナのおかしな明るい雰囲気のせいかもしれない。
「次はお野菜も買って帰りましょう! パンもいります!」
レティシアと雰囲気が違うのは食べ物に燃えているからかもしれない。
パンを購入し、荷物片手に八百屋へ行くと、買い物をしながらおかしな噂を聞いた。
「……ランティスの村にエンディスの兵が向かって行ったそうですよ」
背筋がゾッとした。
ランティスの村は俺の生まれ故郷だ。
エンディスの城から、早い馬なら半日もあれば着く。
「シグルド……ランティスの村に何かあるんでしょうか?」
「……ティナ……ランティスに行くぞ」
「えっ……? きゃあぁ!?」
買った野菜やパンを放り出し、ティナを抱えてランティスに一目散に走り始めた。
ショーンは俺がランティス村の出身だと知っている!
ランティスの村にはもう何年も帰ってなかったのに、まさか俺が逃げ帰ると思うのか!?
とても、俺の捜索だけで済むとは思えなかった。