ティナ視点
昔からよく風邪を引いたりして熱を出したりと身体が病弱だった。
ここ最近は特に身体が倦怠感で一杯だったが、仕事を休むことは出来ない。
私は孤児で身内はいないし、頼る人はいないからだ。
もう働いているから孤児院には頼れないし。
そして、夜には酒場になるような食堂でウエイトレスをして生活をしていた。
決して高い給料ではないけど、一人ならなんとか過ごすことができた。
それでも、最近は身体に異変を感じ顔色も悪く店主から病院に行けと言われて診察代をくれた。
顔色が悪く客から苦情や心配の声が出ていたらしい。
診察代があるなら賄いを豪勢にして欲しい、と思ったけど店主が心配してくれたから素直に病院に行くことにした。
そして、薬を飲まないと長く生きられないと言われた。
でも、ただの孤児のウエイトレスが高い薬なんて買い続けるのは絶対に無理だ。
そして、頭から何かが降って来たように生まれ変わる前のことを思い出した。
日本の病室で白いベッドに白いシーツで余命が長くないからと既に個室で、一人で毎日をベッドで過ごしていた。
病室のベッドのテレビをつけると、色鮮やかなパフェやケーキが特集されており、美味しそうだった。
「おぉ、美味しそう……、食べたかったなぁ……」
栄養管理された病院食では物足りなくて、おやつが欲しいといつも思っていた。
ある日、何でも食べていいと言われてケーキとイチゴのスムージーが食べたいと言ったら、親が哀しい顔のまま買いに行った。
もうあまり食べられないと思ったけど欲しかった。
そして、もう長くないから最後に好きなものを食べさせたいということなのだろう。
医者も好きなものを食べていいよ、と言ってくれていた。
食べ歩きも出来ず、買って来たものも段々と食べられなくなっており、私はそのまま病死した。
それを思い出した私は、もう高い薬なんかに頼って寿命を伸ばすより美味しいものを食べて太く短く生きよう! と決意した。
そして、勇者シグルドが処刑される前日に、城から急に使者が来た。
病院で私が残り短い命だと聞いたらしい。
話を聞くと、余命の少ない人間を探して病院を訪ねていたようだった。
「金になる仕事だ」
訪ねてきた使者は傲慢で、孤児のウエイトレスの私を見下しているタイプだった。
「でも、私は体力がありませんし、身体を差し出すのは無理だと思います。いくら胸が大きいからと言っても……」
お金には心が揺らぐが、娼婦は体力のない私には無理だと思った。けれど、そうではなかった。
「誰が身体を出せと言ったーーーー!?」
「えっ、お金になると……」
城の使者は呆れたように焦り、怒鳴った。
「世話係だ! 世 話 係 ! 1ヶ月の世話係で大金をやる!」
只の世話係で大金なんて聞いたことない。
怪しい! 怪しすぎる!
「身体を使っての世話係ですか? ……ハッ! まさか専属の……世話!?」
「ちっがーーう!! 身体から離れろ!」
じゃあ何なんですか?
何もしなくてもいいんですかね!
急に来て叫ぶなんてうるさいですからね!
「あのぉ、何の世話ですか? きちんと言って下さいませ」
「貴様が話をおかしくしたんだろ! そして世話係だと言っているだろう!! ある女性の世話を1ヶ月だけしろ! それで大金をやる!」
「……女性の?」
「そうだ! 女性に情を移すなよ! 口外もするな! だからお前みたいな余命の短い女を探していたんだ!!」
「身の回りの世話ですか?」
「そ う だ !」
城の使者は疲れながら噛み締めるように一字一字ハッキリと言った。
きっと病院を周り余命僅かな女性を探していたんだろうと思った。
お城の使者はお金の半金は前払いで、残りは仕事が終わればくれると言った。
「やります。すぐに行きますわ!」
身の回りの世話に大金は美味しい!
これで最後に美味しいものが沢山食べられるわ!
流行りの食い倒れツアーにも行けるかも!
私は即答で世話係になり、すぐに前金を貰った。
行ける! これで食い倒れツアーに行けるわ!
そう思いすぐにお高い値段の食い倒れツアーのチケットを買ったのに、聖女レティシア様のせいで身体が入れ替わってしまった!
来月の食い倒れツアーのチケットを買ったのにどうすんのよ!
高かったのよ!
街から街へ移動する護衛つきの食い倒れツアーだったのにーー!
しかも、転生者で身体の入れ替わりなんてどんな設定!?
それなら最初から聖女に転生させてよ!
結構身体がダルかったのよ!
余命を宣告された時は結構ショックもあったのよ!
そして、私を縛って行くな! 聖女レティシア様!
そして、縛られた私の元にいやらしい顔でショーン王子がやって来た。
嫌すぎる!
怖すぎます!
しかし、何か騒ぎが起きたようでショーン王子は逃げるように、すぐにどこかへと行ってしまった。
せめて、縛られた私をほどいてからどっかに行って欲しかった!
入れ替わりのように勇者シグルドが扉を壊して部屋にやって来た。
はっきり言って、ビックリした。
シグルドの身体は血にまみれ、血臭を纏っていた。
それでも、あんなショーン王子に手込めにされるよりシグルドの方がずっと良かった。
そして、私は何とかシグルドと城の塔を脱出し今に至る。
ハァー、どうせ転生するならイケメンが一杯いて溺愛されるルートのある異世界が良かった。
いや、こんな異世界ならゾンビが一杯いてイケメンに守られて脱出する異世界の方が良かったかしら!?
だってゾンビも怖いけど殺人も怖い!
しかし、それだと食い倒れがない。
「ハァー……」
「ティナ、どうした?」
「ゾンビも嫌だなぁ……と、イケメンルートが良かったです……」
「ゾンビ? イケメンルート? ……何の話だ?」
「独り言に入ってこないで下さい……シグルドも顔はいいんですけどね……」
「わけがわからんぞ。誉めたいのか?」
「違いますよ」
シグルドの横顔を見ると、確かに顔は良い。
凱旋した勇者に、街の女性たちが黄色い声を上げていたのも納得する。
でも、いきなりベッドに連れ込むなんて、レティシア様とは恋人だったのかしら?
シグルドは違うと言っていたけど、レティシア様は…………。
そして、一時間以上も歩き、やっと買い物をする街に着いた。