髪はピンクで!
子供の時から怪力というのか、他の子供に比べて力が強かった。
父親は誰かも分からず母親は何も教えてくれなかった。
裕福な暮らしではないが、小さな村で慎ましく母と暮らしていたが、他の大人たちは、父親は流れの冒険者かな、とか噂していた。
母親に聞いても、「そうかもね」といつもはぐらかしていた。
そんなものかと思い、何となく俺も冒険者になり、どんどん有名になって行った。
そして、エンディス国より勇者の称号を賜った━━━━。
「……ルド! シグルド! 起きて下さいよ!」
下顎がフワフワと柔らかいものが当たりくすぐったい。
目を開けると金髪の柔らかい髪の上に下顎が乗っていた。
「シグルド! 起きて下さい!」
大きな声で目が覚め、腕の中にいたティナを離すと、サッと逃げるようにティナは離れた。
レティシアの姿だが思いの他ティナが温かくよく眠れたとティナを見ると、ティナの顔は赤くなっている。レティシアのこんな赤面した顔を見たことがなく、本当にレティシアに見えない。
「……今何時だ?」
「もう、夕方ですよ。シグルド、お腹が空きました」
そういえば、腹がグゥと鳴る。
「……保存食の干し肉があったはずだ。それを食べるか」
「干し肉だけ!? ほ、他には?」
「腹が満たされればいいだろう」
「干し肉じゃ満たされません!」
死ぬ前に食い倒れしようとしていたし、食事にはこだわりがあるのだろうか。
ベッドに連れ込んだ時と同じくらい必死に、何か買いに行きましょう! と懇願してきた。
「変装して行けばきっとバレません! 何か買いに行きましょう!」
食い倒れにこだわるおかしなティナでもさすがに城の塔から逃げてきたことに対して、手配書が出回っているとは思っているようだった。
「別にバレてもいいだろう。民衆だって俺が処刑されているのを興奮して見ていたじゃないか。バレてショーンに突き出すような奴は全員敵だ」
民衆なんかが俺に敵うわけないし、邪魔するなら容赦はしないだけだ。
「……確かにそういう人達は多かったですね……凄く怖かったです……」
「ティナは処刑を見なかったのか?」
「……処刑の理由が何となく納得出来なかったというか、よくわからなかったですし、私は処刑に賛成していたわけではありませんでしたから……署名もしませんでした。すごく急いで集めていました」
「署名まで出回っていたのか……」
「お金を貰って署名した人もいました……でもシグルドが生きていて良かったです」
ティナもあの処刑場にいたのかとも微かに思ったが、ティナはいなかったどころか処刑にも賛成をしてなかったらしい。
生きていて良かった、と胸を撫で下ろすティナに処刑の時からの渇いた心に水が一滴落ちるようだった。
「……何か買いに行くか?」
「お願いします。出来ればお菓子も欲しいです。焼き菓子なら長持ちしますから」
さりげなく菓子を要求されてしまった。潜伏生活をする気はあるのだろうか……。
「とりあえずその長い髪を切って色を変えるか……」
「そうですね。お願いします」
ティナは髪を切ることに抵抗はなくあっさりと了承した。
元のティナの髪は短いのだろうか。
「ティナの元の身体の髪の長さはどのくらいだ?」
「肩ぐらいですけど……」
「では、それくらいに切ろう」
バサリとレティシアの長い髪を切り、次は色を変化させる魔法で髪の色を変える。
「ピンク色にして下さい! 一度ピンクにしてみたかったんです!」
「目立つだろ!?」
「大丈夫です! ピンク色の髪の人は他にもいます!」
レティシアの青い瞳にピンクの髪は似合うのか!?
「シグルドは何色にします? お揃いでピンクにしますか? ……でもシグルドには似合いませんねぇ」
「絶対ピンクにはしない!」
どこまで本気で言っているのかわからないが、とりあえずティナの髪を魔法でピンクに変えた。
こんな状況で髪の色なんてどうでもいいが、髪の色を要求するティナはやはり変な女だと思えた。
そして、エンディスの城のあった街とは違う街にティナを連れて買い物に行った。