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…驚きましたね

エンディスの城から脱出し、街から離れた森に来ていた。

日はまだ昇りきっておらずに薄暗い。


この森には勇者であった頃の隠れ家がある。

小さな森の小屋を前に立ち止まると、なんだか懐かしく思えた。

何故か遥か昔のように思えたのだ。

身体が変わってしまったからだろうか。


「あのぅ……勇者様……そろそろ降ろして下さい……」


横抱きに抱えたまま、ティナがおずおずと言った。


「シグルドでいい、勇者様は止めてくれ」

「はい……シグルド」


ティナを抱えたまま小屋に入り、ソファーに降ろすと、ティナは礼を言ってきた。


「あの……助かりました。ありがとうございます」

「……ショーンの仲間じゃないならかまわない」


ティナからレティシアの話は聞きたいが、土まみれに汚れ、血の付いた身体が汚ならしく思える。

先に身体を洗わないと臭くて堪らない。


無言で近くの川から水を汲みに行こうとすると、ティナは置いて行かれると思ったのか慌てていた。


「ま、待ってシグルド! どこかに行かれるんですか!?」

「川に水汲みに行くだけだ」

「わ、私も!」

「この隠れ家は誰も知らないから大丈夫だ。お前も着替えろ」


といっても女物の服なんてない。

仕方なく、俺の服を出してやることにした。


「あ、ありがとうございます……」


渡した服を両手で抱き締めるようにティナは礼を言うと、やはりレティシアには見えなかった。


レティシアは聖女の中でも力が強く、上級聖女だったせいか、もっと堂々としていて品があった。

それに比べ、レティシアの姿をしたティナは可愛い小動物のように小さく見える。

やはり、レティシアとティナは入れ替わっているとどこか納得してしまう。

元のティナの外見がわからないのが残念だとさえも思う。


川で水汲みに行くと、何故こんなことになったのかとずっと頭にあったことが湧き出るように思った。


魔族には心臓が2つある者もいるがまるで自分はそれのようだった。

それに不死身の身体だ……。


「……心臓が2つ……? まさか……」


確かに心臓は貫かれて絶命した。

貫かれる瞬間を、目を離さずに見ていた。でも、身体の鼓動すら感じる。


手から腕を見ると自分の血なのか、殺した衛兵達の血なのかわからない渇いた血が赤黒くなっており、早く洗い落とそうと、ただただ必死に身体をこすっていた。


水浴びをした後、汚れを落とした身体でティナと話すためにソファーに座った。

目の前の木の机には、俺が水浴びをしていた間にティナがお茶を準備してくれていた。


「レティシアの行方に心当たりはないのか?」

「さぁ、私は1ヶ月だけの世話係に雇われただけですから……それがたった2晩で今ここにいますからね」

「1ヶ月?」

「はい、レティシア様と親密になると世話係が逃がすことを懸念していたらしいですよ」

「……あのショーンはクズだぞ……何でそんな仕事をするんだ」


ティナはすいませんというように肩をすぼめて小さくなった。


「そうですね……実はですね……大金に目がくらんでですね……」


頭が痛くなりそうな発言に思わず眉間に指を立てた。


「金の為か……借金でもあるのか?」

「借金はありませんよ。お金もありませんけど」


調子が狂いそうなテンションに今度は気が抜けそうだった。


「なら、何故レティシアの世話係をした? 借金がないなら、普通に働けばいいだろう」

「……驚きませんか?」

「今さら驚くことはない」

「なら、言います!」


元気な声なのに、気まずそうにティナは言い出した。


「実はですね……私は後3ヶ月の命と言われているんです。ですから、今度こそは最後に美味しいものを沢山食べてやろうと思って」


……ティナは何を言っているんだろうか?


「………………」

「驚きましたね……?」

「……今度こそとは何だ? あと3ヶ月とは病気か何かか?」

「病気ですね。薬は高いので買えませんし、美味しいものをたくさん食べたらもういいかなぁと思って……」

「まさかそれで大金を?」

「その通りです! 1ヶ月だけの世話で大金が貰えるので、その金で残り2ヶ月を食い倒れに使おうと思っていました!」


こいつの頭は大丈夫なのだろうか。

残り2ヶ月でベッドから起きられなかったらどうする気だったんだろうか……。

そして……


「こ、今度こそとはどういうことだ?」


変な女だと思う気持ちはふつふつと沸いている。

そして、聞かない方がいい気もするが一応聞いておこう。


「実は……私は転生者というものなんです」


全く! わからん!

聞くんじゃなかった!





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