踊り子(前半ティナ視点)
宴の当日━━━━。
料理に飲み物にと、城の階下では朝から慌ただしく使用人達が走り回っていた。
「果物の盛り付けは出来たのか!?」
料理人が料理人助手や、厨房メイド達に荒々しく声を張り上げていく中、大広間には次々と料理が並べられていた。
私は、シグルドに踊り子の格好をさせられた。
「……別にティナは留守番していていいんだが……」
「でも、無関係の踊り子達の劇団が巻き込まれたら大変ですよ。始まったら、私も一緒に逃げますからね!」
シグルドの復讐に、無関係の人達を巻き込むわけにはいかない。
シグルドは、私がいたらきっと巻き込まないようにしてくれるはず!
「……それにしても、踊り子の格好をする必要はありますかね? シグルドの趣味ですか?」
「別に趣味じゃないが……中に入るには一応検査するらしいから、踊り子の方が目立たないだろう」
そう言いながら、シグルドはじっと私を見ている。
その視線が恥ずかしくなるくらい目を離さない。
「シグルド……あんまり見ないで下さいね」
「別に見るくらいいいだろ。それより顔は隠しておけよ」
シグルドはそう言いながら、顔半分を隠すように口元にベールをつけてくれた。
「もしも私が、バレたらすぐに助けて下さいね」
「すぐに行ってやる」
今の私は、レティシア様の姿だからショーン王子は気付くかもしれないけど、きっと何かあればシグルドは来てくれるはず!
そして私は、クリストファー様の雇った踊り子の劇団に混じり、城へと行った。
城の大広間では、すでにショーン王子は沢山の料理と臣下達と宴をしていた。
ショーン王子は、ローソファーに偉そうに座り込み、ご機嫌だった。
私は踊り子の格好をしていても踊りなんて出来ない為に、お酌をして回っていた。
勿論顔がバレないように口元のベールはそのままだ。
ショーン王子のご機嫌が続く中、ショーン王子が隣に控えているロニーという人に合図した。
「ロニー、そろそろ始めてくれ!」
「畏まりました」
パンパンと、手を叩く音の合図で、踊り子達が一斉に現れ宴の踊りが始まった。
大広間の中央に、踊り子達は踊りながら集まりショーン王子を始めて大広間の人達は歓声を上げて見いっていた。
どこか官能的で、それでもいやらしくない踊りに男達だけでなく、誰もが楽しむだろうと目を奪われそうだった。
そして、ショーン王子は明らかに夢中になっていた。
♢♢♢
宴中の階下では––––––。
「よし、バリィ公爵様の許可証で間違いないな」
黒いローブのフードを目深に被り、ヴィルヘルムとヴィルヘルムが吸血した人間で、荷車を四台引いて、城の階下の出入口へと行った。
バリィ公爵の直筆のサインの効果はバツグンで、中身を確認されることなく、すんなり通ることができ、門番は今頃、宴の出し物ぐらいにしか思ってないだろう。
だが、階下に入るにも、バリィ公爵の直筆のサインの入った許可証を見せると、階下の使用人達は聞いてないと、不思議がっていた。
「今日は踊り子だけでは……?」
「バリィ公爵からの差し入れですよ」
ヴィルヘルムが悠長にそう言った。
しかし、バリィ公爵の名前を出すと使用人は断れない。
いても、いなくてもここまで入ることが出来れば、もう関係ない。
「ヴィルヘルム……さっそくやるぞ」
「畏まりました」
ローブを脱ぎ捨て、ヴィルヘルムと階下へと、我が家のように進入した。
階下の使用人はざわつき始めた。
「バリィ公爵様の使いが何のようですか!?」
「邪魔する気がないならすぐに下がれ。死にたい奴はいてもいいぞ」
そして、力を見せつけるように、階下の出入り口を吹き飛ばすように壊した。
出入口を吹き飛ばしたのは荷台の荷物を運びやすくする為もある。
「皆様、厨房、休憩室、使用人部屋などに今すぐに引っ込んで下さい。死にたい方はいても構いませんが、すぐに下がるのが賢明ですよ」
ヴィルヘルムは既に、人間に化けておらず、尖った耳に使用人達は皆それぞれの部屋へと悲鳴を上げ、逃げるように、閉じ籠った。
ヴィルヘルムは全ての部屋の扉を凍らせ、誰も出られないようにし、階下は氷の洞窟のように、冷気が広がっていった。




