ショーン視点
あの日━━━━。
ランティスの村に送った兵達からの知らせを今か今かと待っていた。
英雄になろうとしていたシグルドが、私の人気より上になろうとしていたことが腹立たしくて、黒い巨大な狼のような魔族を退け、もう用はなくなり処刑したはずだった。
それが、どうやったのかシグルドが生きていて、レティシアを拐いに来たのだ。
あの日は、レティシアを手に入れるはずだったのに、シグルドが来たせいでレティシアが手に入らないどころか、何もかもがメチャクチャだ。
そういえば、あの日はどうしてレティシアは縛られていたのだろうか。
不思議とは思うが、私は細かいことは気にしない大きな器の持ち主だ。
王になるのだからそうでないといかんだろう。
「ロニー、知らせはまだか?」
城の中の天窓のある一室で、知らせを今か今かと待ちきれず、側近のロニーを問い質した。
「まだです」
「朝になってしまうじゃないか」
「寝てお待ちになればよろしいのでは?」
シグルドが関わっているのに、悠長に寝られるか!
決してシグルドが怖いわけではないぞ。
しかし、知らせを聞かないと安心できない。
シグルドが村に潜んでいる可能性が高いんだから!
「皆が戦っているのに私だけ寝ることは出来ん!」
「シグルドを見つけないと、安心できないだけではないのではないですか?」
「決して違う!」
せっかくいいことを言ったのに突っ込むんじゃない!
「ショーン様……冤罪だと認めて、シグルドに謝罪をされた方がよろしいのでは? 片棒を担がせたトラヴィスに罪を擦り付けて、ショーン様は誠心誠意シグルドに罪を償った方が助かるかもしれませんよ?」
「そんなことしたら私の行いがバレるじゃないか!? 王がシグルドに謝罪なんてあり得ないぞ!」
王が頭を垂れるなんて無理だ!
「まだ、王じゃないですよ。それにこのまま怯えて過ごすよりは……」
「う、うるさい! 怯えてなんかない!」
ロニーは昔からうるさい!
父上がつけた側近だから、解雇できないのに!
王になったらすぐに解雇してやる!
━━━ガシャンッ!!
部屋を落ち着きなくウロウロとしながら、ロニーと話していると急に天窓が割れ、ガラスの破片と大きな音と共に、ゴトンと何が落ちてきた。
血の染みた紙袋から、落ちた拍子に中身がはみ出し、私は全身の血の気が引いた。
「ひっぃぃぃぃ………!?」
紙袋には男の首が見えたのだ。
無様にも私は腰を抜かし、尻餅をつくように、ジリジリ後ろに下がろうとしたが、怖くて思うように動かなかった。
━━━土産 エンディス兵━━━━
「……紙袋に血文字でそう書いてあります……ランティス村に送った兵が失敗したんでしょう……やはりシグルドに詫びるべきです……」
「ダ、ダメだ! シグルドはもう許してくれないだろ!」
ロニーは冷ややかな目で見ながら、ため息をついていた。
この首が怖くないのか?
シグルドが、お前も同じ目に合わせてやる! と言っているように見えるぞ!?
「とりあえず、ランティス村は失敗したみたいなので、もう寝ますか?」
「そ、そうだなっ、ロニー! 部屋までついて参れ!」
「はい、はい」
こうなったらもう部屋から出ないぞ!!
そして、寝室に帰りしっかりと施錠した。
それからずっと部屋に籠っているが、全く生活には困らん。
何故なら、俺には世話をする者達が大勢いるからだ。
今日も自分の寝室で、豪華な食事をしていた。
「ショーン様……引きこもりは楽しいですか? 優雅な引きこもりを止めて、そろそろ部屋から出ませんか?」
「ロニー……邪魔をしないでくれ。今は大事な食後のコーヒータイムだ」
せっかくの優雅な気持ちが台無しだ。
「どうでもいいですが、クリストファー様がお越しですよ」
どうしてクリストファーが?
あいつは嫌いだ!
ちょっと顔が良くて、文武両道だからと鼻につく!
「大した用じゃないだろ、俺には考えねばならんことが山ほどあるんだ。病気だから帰れと追い返せ!」
ロニーは仕方ありませんね……とあっさり諦めた。
それからも、クリストファーは何度となくやって来た。
一体何故来るのだ!?
「ロニー! クリストファーは毎日何故来るのだ!? 辺境にさっさと帰してくれ!」
「クリストファー様は王候公爵様ですからねぇ。そうそう、追い返せません。ショーン様を心配なさっていますし……」
「我慢比べということか!」
「違いますよ。……それから、バリィ公爵がこの3日ほど登城していません。邸も、もぬけの殻です」
「……旅行とか?」
頼む!
旅行であってくれ!
シグルドに襲われたと考えたくなくて、望みをかけるようにそういった。
「旅行の届けは出ていますけど……」
「やっぱりか! こんな時に旅行にいくなんて何を考えているんだ!?」
「ショーン様も行きますか?」
「シグルドに見つかったらどうするんだ?」
「……謝るとか?」
「それは出来ない。私は王だ!」
「だから、まだ王ではないと……」
バリィの奴、一人でお楽しみとは気に食わん!
私だって楽しみたいのを、我慢しているのだ!
本当なら今頃はレティシアと一緒にいたはずなのに!
「それと、地下のものですがまだ買い手がつきません」
「あれだけ、皆欲しがっていたのにか?」
「あれを地下に入れてから、魔物がやって来ましたし、今はシグルドを気にして、誰も城に来たがらないのですよ」
俺だって城にいたくない!
いつシグルドが来るかわからないのだから!
まさか!? だから、バリィは旅行に行ったのか!?
俺を置いて逃げるとは!? 全くもって許せん!
バリィに苛ついていると、またクリストファーがやって来た。
ロニーも俺の部屋にいた為に、私に会う前に追い返せなかった。
「ショーン、調子はどうですか?」
「ま、まだまだだな」
「そうですか……元気を出して貰おうとささやかながら宴をしようと思いましたが……ショーンが不調ならやめましょうか……」
宴?
ずっと部屋で引きこもりをしていたから、ぜひしたい!
「……してやってもかまわんぞ。無下に断るのは悪かろう」
「本当ですか? いやぁ、踊り子達も喜びますよ。ショーン王子に会えるといって、皆、期待しているんです」
踊り子!?
益々宴をしたい!
だが、クリストファーは邪魔だ!
踊り子達が、私よりもクリストファーにいくのは気に入らない!
「……クリストファーは辺境の仕事があるだろう。しばらく私の元に通っていたみたいだし、早く辺境に帰り仕事に戻ってくれ。民が待っているだろ」
「えぇ、早く帰らなければと思っているんですよ」
「では、すぐに帰れ。宴は有り難く受けよう」
「しかし、宴に不備があれば申し訳ない」
「大丈夫だ。しっかりと身体検査するからな!」
「ハハッ、ショーンに任せれば問題はないかな」
「当然だ」
クリストファーは、私を信頼しているのか素直に帰ることになった。
踊り子は女だから、シグルドが混ざる訳がない!
男を入れなければいいんだ!
そして、ロニーにクリストファーを見送らせ、やっと息抜きが出来ると、踊り子達の宴を楽しみに待つことにした。




