第2王位継承者
クリストファーの邸に行くと、意外と歓迎してくれてサロンに俺達三人を案内してくれた。
「こんなに早く来てくれるなんて嬉しいですよ」
「はい、クリストファー様、私も楽しみにしていました!」
「ティナは菓子を楽しみにしていたんだろ」
絶対このティナの笑顔は菓子のせいだ!
食い倒れの話しをしている時と同じ笑顔だ!
「お菓子も沢山ありますからね」
サロンのラウンドテーブルには、真っ白なクロスにアフタヌーンティーが並べられていた。
「シグルド、凄いですよ! 美味しそうです!」
ティナは明らかに、菓子に頬を染めている。
クリストファーにではなくてどこかホッとした。
「クリストファー、聞きたいことがある」
「シグルド、クリストファー様! ですよ」
「クリストファーと呼び捨てで構いませんよ」
穏やかな表情のクリストファーに敵意はないのだろうが、貴族でもない俺達を招き入れることに不思議ではあった。
「ティナ、アフタヌーンティーは下の段から食べるんですよ。上の段に上がれば、それより下の段の物に戻ってはいけませんよ」
「食べる順番があるんですか。知りませんでした」
ケーキから食べようとしていたティナに、クリストファーはマイペースでティナにアフタヌーンティーのマナーを説明している。
ティナは言われた通り、下の段のサンドウィッチから食べ始めた。
「それでシグルドさんは何が聞きたいのでしょうか?」
「シグルドでいい……聞きたいのは王位継承者の順番だ。ショーンの次は誰だ?」
「……聞いてどうしますか? 勇者シグルド、そして聖女レティシア」
その言葉に、思わず立ち上がってしまった。
ティナも食べていた手が止まってしまった。
「俺達を知っていたのか?」
「聖女レティシアは以前見たことがあります。ティナとは偽名ですか? 以前より雰囲気が随分違いますが……聖女といるシグルドという男なら、勇者シグルドと思いました」
一体どういうつもりで俺達とテーブルを囲んでいるのか……。
「クリストファー様……大正解ですよ。シグルドは勇者様です」
「やはり間違いはありませんでしたか……座りなさい。シグルド」
クリストファーは、威厳のある声のトーンで言った。
敵意がないのはわかるが、意図はわからない。
だから座ることにした。
クリストファーと話をしたくなったのだ。
「次の王位継承者を聞きたいそうですね。理由は?」
「……クリストファーは何故俺達を招いた?」
「興味があるからです。シグルドと恐らく意見は合うと思いますよ。今の王に不満があります。あのショーンにも……」
「処刑はどうだった?」
「反対でした……私の家は王都ではありませんから、処刑を知って急いでこちらに来たのです」
俺達に敵意がないのは、クリストファーの雰囲気からわかる。
しかし、どこか威厳はあるが、穏やかな笑顔は崩さない。
「シグルド、王位継承者に何の用ですか? 説明をして下さい」
「……城を落とすつもりだ。ショーンを殺せば気は済むが、その後のことが少し気になる。俺は国を乗っ取るつもりはないから、国を治める者を探している……」
そう話すと、ティナとヴィルヘルムは静かにクリストファーの返答を待っていた。
お茶の音も立てず、聞き逃さないように……。
「ショーンの次の継承者は私です。私はショーンの従兄弟に当たります。今は王候公爵になりますが……」
クリストファーが、ショーンの従兄弟というのに驚きはあるが、どこか落ち着いていることに、器がショーンと違っているように見えた。
「お、王子様!?」
ティナが一番驚いていた。
ヴィルヘルムは、そうでしたか。といつもと変わらない。
「本当か……? ショーンとはどんな仲良だ?」
そう聞くと、クリストファーは片肘をついて、にこりとした。
「私がどう見えますか?」
「意味がわからん」
「中々の外見でしょう?」
「すっごく素敵ですよ。お菓子も美味しいです」
「ありがとうございます。ティナ」
ティナがクリストファーに素敵と言ったことに、イラッと来たが菓子のことしか頭になさそうで、少し黙っていて欲しいと思った。
「ティナは菓子を食べていてくれ。俺のもやるから……」
「シグルド……美味しいのに食べないと損ですよ」
「いいから、食べてなさい」
思わず、親のように言ってしまった。
「シグルド、私はこの外見で人気もあります。おまけに頭もほどよく、剣術に馬術、弓術も得意です」
クリストファーはどうやら、何をやらせても完璧と言わんばかりに自信ありげに話し出した。
「ですから、ショーンは私を妬んでいまして、私を辺境に追いやったのですよ。この邸は王都に来た時に滞在する別邸です。王はショーンを甘やかし、私と比べられることが可哀想だったみたいですよ」
クリストファーが王都に来たのは、勇者を処刑したことを知り、何かあると思ったらしい。
王は伏せっており、ショーンの我が儘が独裁政治になることを恐れ、そして取り巻きにいいように使われることを防ぎたかったと話した。
「ショーンは、勇者シグルドが来ることに怯えているのか、今は誰とも会いません。私も困っていまして……悪い膿を出したいのですがね」
そして、一呼吸置くようにクリストファーは紅茶を飲んだ。
「シグルド様……チャンスです。クリストファーに後を任せましょう」
ヴィルヘルムは、クリストファーに警戒はなくそう言った。
「クリストファー、俺は城を落とすぞ。いいのか? 協力できるのか?」
「どこまで協力できるかは、話次第です。しかし、邪魔はしません」
「邪魔をしなければそれでいい」
「では、シグルドの話を教えて下さい」
クリストファーはショーンではなく、いつか自分が王位につこうと考えていたようだ。
今のショーンでは国を任せられないと考えており、機会をずっと狙っていたように見える。
そして、ショーンとは違う非情さもある。
悪い膿を出すなら、俺を咎めることもしないだろう。
ヴィルヘルムは、クリストファーが使えないなら吸血して、言うことを聞かせると考えている。
そして、このアフタヌーンティーの並べられている穏やかなサロンで計画を説明した。




