夜会 3
バリィ公爵夫妻の死体をバリィ公爵の邸に持って帰る為に、後始末をヴィルヘルムとした。
ヴィルヘルムの能力は便利で吸血すれば、人に命令ができる為に、騒ぎになることなく夜会から会場裏に控えさせていた荷馬車に持ち運べた。
「こんなに秘密裏にしなくても……」
「騒ぎが起きるとティナがスイーツを食べられないだろ」
「夜会にお菓子目的で来る方はいませんよ」
食い倒れが出来ず落ち込んでいたから、貴族のスイーツでも食べさせてやろうと思って連れて来たが、ティナは大人しく食べているだろうか。
ビュッフェの一角を見ると、ティナは皿に果物やケーキを乗せて持っていたが、隣には知らない男がいた。
しかも、食べさせてもらっている!
「おや、シグルド様。あれはどなたでしょうか? あーんしてもらっていますよ」
「うるさいぞ、ヴィルヘルム 」
食べさせてもらっている姿に苛立ちを覚え、俺のものだという独占欲が湧いている。
「……魔族は欲が深いですからねえ……」
見透かされたように言うヴィルヘルムをほって、足早にティナの元へ行った。
「ティナ!」
ティナは口に菓子を食べさせてもらってすぐに、俺に呼ばれた為に菓子をくわえたまま振り向いた。
そして、そのままティナに唇を重ねてくわえた菓子ごと奪ってやった。
「……っん!」
唇が離れると、ティナは真っ赤で口を隠すように恥ずかしがった。
「シ……シグルドっ!」
ティナの唇から奪った菓子で口の中は甘い。
「俺の連れを餌付けしないでくれ」
「本当に連れがおられるとは……これは失礼しました」
「シグルド……餌付けって……クリストファー様は私が一人でいたから、声をかけてくれただけですよ」
「ナンパされるんじゃない!」
ティナがいないと、ショーンへの復讐で頭がいっぱいになりそうなのに、知らない男に餌付けされないで欲しい。
「本当に申し訳ない。ずっとビュッフェで食べていたから連れがいるとは思わなくて……夜会でビュッフェに一人でいる女性なんて初めてですから、つい声をかけてしまいました。美味しそうに食べますし……」
クスクスっと品よく笑う男は、顔も良く上級貴族のように身なりが良かった。
「……ティナ、顔に釣られたのか? 菓子に釣られたのか?」
「へ、変なこと言わないで下さい! そして、変なことをしないで!」
慌てふためくティナに今度はヴィルヘルムが近付いた。
「ティナ……シグルド様はティナに、あーんして欲しいんですよ」
「えぇ!? お菓子を狙っていたんですか!?」
ティナは仕方ありませんね、と皿のケーキを食べさせてくれた。
貴族の夜会の菓子は高級だけあって旨い。
「……お連れ様、いちゃつきたいなら、ひとけのない庭へどうぞ。」
「そうする」
クスクスっと笑いながらクリストファーはそう言った。
「ティナ……お連れ様もご一緒で大丈夫ですよ」
「は、はい、ではまた……」
恥ずかしがるティナの腰に手を回して、クリストファーと引き離すように連れて行くが、ティナはまたクリストファーと会う気なのか、後ろを向きながらそう言った。
庭の外通路の壁側にティナを連れ迫っていると、必死で抵抗されてしまった。
「シ、シグルド! 待って……!」
「……美味しい物を食べさせてくれるなら誰でもいいのか?」
「違います! シグルドが私を置いて行ったんですよ!」
「なら、いいだろ。ティナがいないと理性が飛びそうになるんだ」
「今! 今、理性が飛んでますよ!」
ティナは必死で顔を背け、押しやろうとしたが無駄だった。
「シグルド……やっぱりレティシア様と恋人だったんですか?」
「違う。レティシアのことをそんな風に思ったことはない」
「じゃあ何でキスするんですか? て言うか……、は、離れてーー!」
「ティナ……うるさい」
ティナの顔を支えて唇を重ねるがひたすら、逃げようとされている。
「ティナ……俺が嫌か?」
「っ、無理ですよ!」
「何が嫌なんだ?」
「この身体はレティシア様のですよ!?」
「だから?」
「私の身体は探してくれないんですか?」
「……色々考えてはいるが……元に戻ったらティナはすぐに死ぬだろ?」
「早く探さないとレティシア様が死んじゃうかもしれませんよ? 大体レティシア様の身体と付き合えるんですか?」
確かに身体は戻してやりたいが、別にもういいかなと、思っている。
ティナの本当の身体はどんな姿か知りたいが、会ったこともないから、あまり気にならない。
今のレティシアの身体ももうレティシアに見えなくなっているし。
レティシアの行方は気にはなるから探しはするが、正直ティナが死ぬくらいなら戻したくない。
「……まぁ、もう少し胸が大きいのが好みだが……」
「これはレティシア様の胸です! 私の胸はもっと出てました! 大体レティシア様の胸だって普通くらいですよ!」
そう言えば、換金所でも店主が、胸がデカかったと言っていたと思い出した。
「ティナ……自分の身体に戻りたいのか?」
「レティシア様はどうするんですか?」
「……よくわからん。レティシアに話は聞きたいが……」
「シグルド……早くレティシア様を探しましょう」
「俺は先にエンディスの城を落とすぞ」
「あまり人を殺めないで下さい。血の匂いは嫌です」
「……少しだけ考える」
「そうして下さい」
今さら止まることは出来ないが、ティナの言葉に城を落とした後のことが脳裏をかすった。
城を落としたら、もう国もどうでもいいと思ったが、ティナも、あの礼を言ってきた庭師にランティスの村人もいる。
落とすだけではいけないと、思い始めていた。




