夜会 1
バリィ公爵不在の邸を掌握して、ティナを連れて来るとティナは怪しいと言って不審がっていた。
なにをしたかは、言うつもりもないし、必要もない。
そのことは気にせずに、ティナに似合いそうなドレスをバリィ公爵夫人のクローゼットから探し出し、ティナにすぐに支度させた。
若い娘が着るようなドレスだから、バリィ公爵夫人の若い頃のドレスだろう。
貴族は同じドレスは着ない。
金持ちならなおさらだ。
新品同様のドレスに、ティナはちょっと嬉しそうだった。
「シグルド……このお邸の方たちはどこに行ったんですか?」
「旅行だろう」
「メイド数人だけ残して、他の使用人も含めて家族全員で旅行ですか?」
ティナは、この邸の人気の無さを不審に思っていた。
そして、不審に思うのも無理はない。
実際もうメイド数人と俺達三人しかいない、しんと静まり返った屋敷なのだから。
「シグルド様、馬車の準備が整いました」
ヴィルヘルムが部屋にやって来て、ティナを一瞥した。
「ティナ、お綺麗ですよ」
「ヴィルヘルムさんのタキシードも素敵ですよ。耳はどうしました?」
「魔族だとバレないように、魔法で隠しました」
ヴィルヘルムの尖った耳は、魔法で普通の人間のようになっていた。
俺のタキシード姿は素敵だと言わないのに、何故ヴィルヘルムには素敵だとサラリと言うのか。
ちょっとモヤってしまい、少しだけ苛立つように言った。
「では、行くぞ」
ヴィルヘルムに御者をさせて、夜会へと向かう。
ティナとヴィルヘルムの三人で着飾り、バリィの出席している夜会に行くと、きらびやかな夜会に平民とは全くの無縁の世界だった。
ティナは、目を輝かせている。
「シグルド、某映画のお姫様みたいです」
「そうか、では早速行くぞ」
「どこに?」
「ティナは、ビュッフェで食べていろ」
「えぇ!? 一緒じゃないんですか!?」
「用が済めば迎えに来る。どこにも行くなよ」
「こんなところで一人にしないで下さいよ!」
ティナは、腕にしがみつき必死で言うが、美味しいスイーツがあればティナは絶対一人でも大丈夫だ!
「ティナなら大丈夫だ。ビュッフェが待っているぞ」
「私は乙女ですよ!」
「何が乙女だ! ティナならビュッフェがあれば大丈夫だ!」
ティナはダンスをしたり、夜会を楽しむタイプじゃない!
ビュッフェの前に連れて来ると、スイーツを気にはしているし。
「早く戻って下さいね? 淋しいですよ」
「用が済めば、すぐに戻る」
すがりつくティナをビュッフェに置いて、俺はヴィルヘルムと控室に向かった。
バリィ公爵夫妻の為の控室へ行くために。




