冤罪
小国エンディスは魔物の脅威に昔から晒されていた。
ここ1年は魔物の動きも活発になっていたが、魔物の集団を潰したのは、エンディス国の勇者シグルドである俺と、聖女レティシアだった。
魔物の親玉は巨大な狼のような黒い犬だった。
そして、戦いの末の勝利に民衆は歓喜に震えた。
民衆は勇者達を称えエンディス国では誰もが知る英雄となるはずだったが、エンディス国の王族は違っていた。
その時の俺とレティシアは何も知らなかった。
民衆の中には俺を次期王に、などと軽口を叩く者がいたなんてことを。
その噂にエンディスの王子ショーンが真に受けて、俺を脅威に思っていたことを。
その人気に、自分たちの地位を脅かされると恐れ、王城に凱旋した俺とレティシアを捕らえた。
凱旋の晩餐で、薬を盛られていたのだ。
そして、目が覚めた時には柱に縛り付けられて処刑される寸前だった。
ほどくことも、魔法も発動しないから壊せない。
鉄の手かせは魔封じの紋が施されているのだろう。
「国家反逆を企てた愚かな勇者だ!」
「何を馬鹿な……!?」
ショーンは柱に縛られた俺に近付いて来て、一つの小瓶を見せた。
見覚えのない小瓶だが、ショーンはニヤリと口角を上げ、下卑た口は俺の不快感を煽った。
「私に毒を盛る気だったな。だが残念だったな! 私には忠実な臣下ばかりだ! 私を裏切るものなどいない!」
どうやら、俺がショーンの臣下を懐柔して毒を盛るつもりだった計画になっていた。
全く覚えのないことにわけがわからない。
そして、処刑は執行され俺は槍で心臓を貫かれた。
……目が覚めたのは、あの土にまみれた穴の中だった。
心臓を貫かれたのに何故か俺は動いている。
胸を見ると、段々と貫かれたところがふさがり、心臓の音が聞こえる。
まるで不死身の身体を実感するようだった。
「……ハハッ……笑えるな……」
自分が何者かわからないが、このまま済ます気はない。
俺には処刑される理由はなかったはずだ。
必ずあの男の首を取らないと気が済まない。
理性が以前よりなくなっている気がしてきていた。
そして、エンディスの城につくと、隠れる気もないために、堂々と正面から入ることにした。
深夜だから、ひとけもなく静かだが門番はいる。
二人の門番は俺の姿に驚き怯え始めた。
「まさかっ……!? ゆ、勇者シグルド!?」
「しょ、処刑されたはずだ!? ち、近づくな!!」
そして、怯える門番たちが持っている槍を向けられるが恐怖はない。
何故か死なないと確信がある。
今生きて動いているし。
ジリジリと近づくと、槍が身体をズブリと突き刺すが全く死なない。
「レティシアはどこだ?」
門番にそう一言聞いた。
槍に突き刺されたまま、恐怖の表情の門番の首を乱暴に掴み上げ壁に叩きつけると、殺されたくないのかあっさり口を割った。
「レ、レティシア様はっ……東の塔に……幽閉されてっ……」
何が忠実な臣下だ。
あっさり口を割るじゃないか。
バカバカしい。
自分の命惜しさに、あっさり口を割る門番に、そう思わずにはいられなかった。
そのままサクッと止めをさして東の塔に向かうと、昼に比べて少ないが、深夜にも関わらず衛兵はいた。
しかし、衛兵ごとき敵ではない。
向かって来なければ多少は寿命が伸びただろうに、叫びながら向かって来る。
だが、斬られても死ぬことはない。
死なないからか、恐怖さえなくなっている気がしていた。
この身体は不死身なのか、斬られてもすぐに再生する。
おかしな身体だ。
まるで魔王のようだった。
屍を越えて、東の塔につくと見張りもいたが関係無い。
向かってきた衛兵と同じ末路だった。