対価
「変態さん、シグルドが帰って来ませんが大丈夫でしょうか?」
「誰が変態さん、ですか……何度も言いますが俺はヴィルヘルムですよ。勝手におかしなニックネームをつけないで下さい」
変態さん、もといヴィルヘルムさんの邸に来て一晩たった。
ヴィルヘルムさんの邸は貴族のお城のような邸でかなり大きい。
人間の使用人もいるけど、魔族らしい使用人もいる。
そして、主にメイドが人間だ。
使用人に人間がいるからか、ランティスの村人は少し安心したようだったが、子供達はやはり慣れない邸とあの村でのことで、泣いている子供たちばかりだった。
子供たちは夜遅くまで眠れず、私も抱っこしたり、添い寝したりしてやっと眠ってくれた。
朝になってもまだ起きないが、起こす気はなくて、ゆっくり眠らせてやりたかった。
そして、シグルドが心配で、邸に庭でヴィルヘルムさんと一緒に待っていた。
「シグルドは帰って来ないのでしょうか? 心配です……変態さ……ではなくヴィルヘルムさん、シグルドを見に行けませんか?」
「俺の主はシグルド様です。ティナの命令は聞く理由がありませんが……」
そうですよね。
私が見に行こうかしら?
でもシグルドたちみたいに早く走れない。
どうしようかしら、と悩んでいると、ヴィルヘルムさんは、私に近付いて来た。
「ティナが対価を出すなら行きますよ」
「対価……ですか?」
顔を近づけられると、怖い!
そして、近すぎて逃げたい!
「俺にティナの血を少し下さい」
嫌すぎる! やっぱり変態!
「死んじゃうじゃないですか!?」
「少しですよ、ほんの少しです。死にません。メイド達も生きているでしょう?」
どうやら、ヴィルヘルムさんのメイド達はヴィルヘルムさんから血を頂かれていたらしい。
この人はきっと吸血鬼だわ!
そう思うと、牙が見えてきた。
「わ、私の血を上げたらシグルドの様子を見に行ってくれますか?」
「勿論です」
嫌すぎるけど、シグルドが心配で堪らない。
シグルドは血の匂いを纏っていた。
死なないからと言って、理性が飛びそうになっているように見えた。
それがどこか悲しい。
私が役立たずじゃなければシグルドも一人で行くことはなかったかもしれない。
レティシア様の聖女の身体だけど、私には聖女の力はない。
どうせなら、聖女の力が身体にあれば良かったのに。
「ほ、本当に少しだけですよ!」
「では頂きます……」
意を決して、祈るように両手を握りしめた。
そして、ニヤリとしたヴィルヘルムさんが私の首筋に牙を立てようとした時に、シグルドの声がした。
「何をしている!」
ヴィルヘルムさんとシグルドの声のする方に顔を向けると、シグルドが怒りの顔で立っていた。




