選択肢はない
「ヴィルヘルム! 我が邸……と言ったな、邸があるのか?」
「ありますよ。この村の近所です。霧の森にありますから人間では見つけられませんね」
「邸と言うからにはデカいんだろうな?」
「勿論です。貴族の邸ほどありますよ」
「なら、この村の生き残りを匿え」
本当に俺がヴィルヘルムの主なら、言うことを聞くはずだ。
「構いませんよ」
考えることなくヴィルヘルムは快諾した。
他にも色々聞きたいが、村人もこのままには出来ないし、ティナはこの惨状にそろそろ喚きそうだ。
そして、ヴィルヘルムはティナを美味しそうに見ている。
「ヴィルヘルム、匿ってもらうが村人達にもティナにも決して手を出すなよ!」
「わかっていますよ。ティナは甘い匂いがして美味しそうですがね……」
「それはクッキーのせいです!」
ティナは力一杯否定して、胸に手を突っ込んでクッキーの紙袋を取り出した。
一体いつの間に!?
野菜とかは放り出して来た。だが、クッキーの紙袋を持ったティナをそのまま抱えて来たから、ティナはクッキーを離さずに胸に突っ込んでいたみたいだった。
何か嫌だ。
ちょっと引く。
「と、とにかく、手を出すな!」
ヴィルヘルムはわかっていますよと言って、立ち上がった。
山に行ったダリルのところに行こうと、村の入り口の反対の側に三人で歩こうとしたが、ヴィルヘルムは一歩ほど下がってついてきた。
やはり俺が主と思っているのだろう。
しかし、父親という不死王が死んだからといって会ったことのない息子を次の主だと素直に仕えるものなのか。
そしてティナは周りを直視出来ず、小さく呻きながらしがみついていた。
「シグルド!」
山に入ろうとすると、ダリルが一人で近付いて来た。
「ダリル、他のやつらはどうした?」
「……エマや子供達にあの惨状を見せたくない。」
ダリルの言葉にハッとした。
ティナもそうだが、引き裂かれたような死体の山を誰が見たいのか。
女子供に見せるわけにはいかなかったのに、感情がマヒしていたのだろうかとさえ思った。
そう思うと、ティナは必死で耐えているのだろうと震えている身体を支えた。
「……ティナ……大丈夫か?」
「大丈夫じゃありません。怖いです……」
「もう少しだ。我慢しろよ」
「巻きでお願いしますね」
また変な言葉を使われたが、まだ余裕がありそうだとわかった。
「ダリル、生き残った村人達でこのヴィルヘルムの邸に行ってくれ。またエンディス兵に狙われては不味いだろう。だから、ヴィルヘルムの邸で匿ってもらう」
「大丈夫なのか? ……大体その男は信用出来るのか? 魔族じゃないのか?」
ダリルの返答はもっともで、いきなりは信用出来ないだろう。
だがこの村にはもういられないだろうし、俺が大所帯でいるわけにはいかない。
「この村にいるよりはマシだろう。それにこの村は焼く。二度とエンディスの兵が来ないように全て焼くぞ」
「……選択肢はないのか?」
「ない。嫌ならダリル達だけでどこかに行くか?」
「生き残りには子供達の方が多い……もしランティス村の生き残りだと知られればエンディスの兵に殺されるかもしれない。連れて逃げるのは無理だ……」
ダリルは悩むが生き残りを連れて、特に子供達を連れての逃亡は無理だとわかっている。
結局選択肢など今はないのだ。
「ヴィルヘルム、生き残り全員を客人として丁重に扱え。ダリルを筆頭に連れて行けるか?」
「勿論です」
ヴィルヘルムは俺に逆らう気は全く無さそうにニコリとした。
ダリルと僅かながらに残った村の男達で必要なものを血臭の漂う村から取り、「では、行きましょう」とヴィルヘルムが連れて行った。
「後で迎えに行くから、ティナも一緒に行くんだ」
「シグルドはどうするんですか?」
「……村を焼く。それにやることがある」
「……一人で大丈夫?」
「死にはしない」
「そういうことじゃないんだけど……」
ティナは変な女だが優しい。
俺がランティス村を助ける為とはいえ、エンディスの兵達を引き裂いたのを見ていたはずなのに、逃げもせず心配してくれる。
ティナがいれば、どこか癒される気がしていた。




