動き出す勇者
1.動き出す
深夜━━━━
月明かりの綺麗な満月の夜に、小国エンディスの城から数十キロ行った先の山に死体となった俺は棄てられる。
ゴトゴトと馬車の荷台に乗せられ運ばれたであろう。
そして、ゴミを棄てるように掘られた穴に投げ込まれると、自分の体が動き始めるのを感じた。
心臓を槍で貫かれたはずなのに、体のどこかで心臓が動いているのだ。
瞼を開き、自分の手を月にかざすと動いていることを理解するように思った。
身体が動く––––––と。
土の匂いを感じながら、ズリズリと鈍い音をたてて這いずりながら穴から出ると、俺を運んで来たフードをすっぽり被った男たちはおののいていた。
暗くてハッキリ見えなくてもわかる。
フードを被った男たちは恐怖しているのだ。
まるで亡霊を見るように……。
「し、死んでたはずだっ……!?」
「心臓に穴が開いているんだぞっ!?」
フードを被った男たちは怯えるように叫んだ。
男たちのランタンの灯りを向けられた先には心臓を貫かれた死体が這いずり、その紅い瞳は怒りに満ちていたのだ。
それは、俺で間違いはない。
そして、今までのものとは違う力を感じていた。
俺は怒りのままに目の前のフードを被った男達をそのまま引き裂くように亡き者にした。
足元に転がったその血塗れの肉塊は俺の代わりのように棄てられた穴に放り込んだ。
手を見ると、血の付いた爪が尖っている。
今までの自分のものとは違っていた。
だが、今はそんなことをゆっくりと考えている暇はない。
仲間の聖女レティシアはどうなった?
エンディスの王子はレティシアを妻にと狙っていた。
レティシアも何をされるかわからない。
早くレティシアの元にいかなくては━━━━!!
そして、俺は土まみれの体のままエンディスの城へと向かった。