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魔道士と聖女のその後

英検が近いので滅茶苦茶頻度落ちてます(進行形)


……時は少し遡る。

地龍に敗北し、なんとか逃げ出すことに成功した2人は、まず最初に【赤い不死鳥】を去ることにした。

それは当然、私たちがマイルスが悪事に手を染めていたことを黙認していたからだ。

マイルス無き今、そのしわ寄せが自分達に向いてくることは、火を見るより明らかだった。



「これから、どうしましょう……」



「そんなに重く考えなくても、私達の力なら、他のギルドが欲しがってくれるはずよ」



「そう、ですよね」



「決まってるでしょ。私たちは【赤い不死鳥】唯一のSランクパーティーの主力なんだから」



2人はまず、手始めに【蒼い彗星】へと目をつけた。

自分達ならば、より良い条件で移籍できる。

そう信じて疑わなかった2人だったが、【蒼い彗星】のギルドマスターは、ミリーとサナの受け入れを拒否した。


……2人は知らなかった。

いち早くアイラに目をつけたことも然り、ギルドマスターが欲する情報を誰よりも早く入手してくる、優秀なスカウトの存在を。


ヨーグ。

今でこそ足を洗っているが、彼は元暗殺者。

人脈、ターゲットの情報を引き出す会話スキル、隠密行動においては、彼の右に出る者などそう居ない。

ヨーグは、このとき既に【赤い不死鳥】の内部崩壊の予兆と、その原因を把握していた。



「ふざけないでよ! 移籍はともかく、登録すらさせて貰えないなんて!」



「これはきっと、神様からの試練ですよ。乗り越えれば、明るい未来が待っています。……多分」



荒ぶるミリーと、表情が浮かないサナ。

この時点で、彼女達の行く末は限られていた。


大手ギルドに移籍しようにも、同じく三原色である【碧の息吹】に移籍することはできない。

【碧の息吹】はかなり異質なギルドで、他のギルドのように営利目的ではなく、魔法学園や冒険者学校の卒業生の中から見込みのある人材だけをスカウトし、少数精鋭で未来の勇者パーティーや王国騎士団の主軸として育て上げる育成施設のような役割を担っている。

国が欲しがるほどの実績がなければ、その敷居を跨ぐことはできない。



2人に残された選択肢は、冒険者家業から足を洗うか、受け入れてくれるさほど有名ではないギルドに移籍するか。

冒険者以外の生き方を知らなかった彼女達は、後者を選んだ。


当然、そこでの給与は【赤い不死鳥】に在籍していた時よりずっと低いものだった。

また、マイルスに代わる前衛を探すことも、アイラに代わる荷物持ちを探すことも、全てが難航した。

それは当然、彼女達の基準があくまで「マイルス」と「アイラ」だったからだ。

マイルスは平均的に見ればかなり優秀な剣士で、アイラに至っては他と比較しようもない。

2人は現状に納得が行かず、様々なギルドを転々としたが、状況は好転するどころか、悪化して行った。



「はぁ!? 私にこんなはした金で契約しろと!? これなら一つ前のギルドの方がまだ良かったわ!」



「残念ですが、このギルドの財源にそんな余裕は無いんです。あなた達ほどの冒険者なら、ウチじゃなくてももっと良いギルドに行けるはずでは?」



「……ミリーさん、行きましょう」



「そうね。時間の無駄だったわ」



2人は元の生活を求めた。

美味しいものを食べ、好きなものを買い、気が向いた時にダンジョンへ潜る。

それがアイラの犠牲の上に成り立っていたものとは知らず、毎日のようにダンジョンへ潜らなければ生計が立てられない現状に不満を抱いていた。


そして、金に目が眩んだ2人はついに【魔人討伐】という依頼に手を伸ばした。

それはディフォンに化けた魔人が2人を人目のない場所へ誘き寄せるために出した依頼だったのだが、2人は全く疑いもせず、魔人が出没したという路地へと足を運んだ。


そして、ネフィルがその魔人を討伐し、現在に至る。



「さっさと出しなさいよ! このクソ精霊が!」



「あぁ、神よ。貴方はまだ、私達を試しているのですか?」



「祈ってないでアンタも声出しなさいよ!」



「……聞こえているのでしょうか?」



「当たり前でしょ。謝罪したら出すって言ったんだから、今も私達の言動を見てるに決まってるわ!」



ミリーは声をあげ続ける。

しかし、ネフィルはそんな彼女の悲痛な訴えを聞いていなかった。

……否、聞き流していた。



数十分が経つと、ミリーの声は掠れ、サナは神に祈るばかりで、お互い一言も声を発さなくなっていた。

しばらく、2人にとっては気まずい沈黙が続く。



「サナ、アンタが謝りなさいよ」



「どうしてですか? いつもアイラさんの悪口を言っていたのはミリーさんじゃありませんか」



「……チッ」



ミリーは忌々しげにサナを睨むと、意を決したように頭上に向けて声を発する。



「……アイラに謝ればいいんでしょ。悪かったわ。これでいいわよね?」



『え、やだ』



「……は?」



『どう見ても本気で謝ってないし、貴女達の声を聞くたびに腹が立ってきたわ。もう出してあーげない』



「そんな! 理不尽すぎますよ!」



『あれ、知らなかったの? 精霊は元から理不尽な存在なのよ。自分の都合で簡単に人も殺すし、気分次第で地形や天候すら変えるし。最初に会った上級精霊が私で良かったわね。命を奪われないだけマシだと思いなさい。それじゃ、またね』



それっきり、2人がいくら懺悔しても、もう二度とネフィルの声が聞こえて来ることはなかった。

精霊は気分屋な性分だ。

そしてそれは、ネフィルとて例外ではない。


ネフィルの機嫌を損ねる前に、2人が真っ先に土下座でもしていたら、或いは結末は変わっていたのかもしれない。

だが、2人はネフィルの慈悲をプライドの高さで無下

にした。

それどころか、ミリーはさらに油を注ぐような発言を繰り返した。


空間魔法によって生み出された空間では、時間が限りなく遅く流れる。

ブラックホールの縁にある空間、とでも言おうか。


ネフィル、或いはアイラがこの空間に意識を向けている間は、元の世界と同期した時間が流れる。

そして、意識を切り離した時、この空間の時間は「正常」なものとして動き出す。

この空間にとって、正常な流れ方に。



一日。


一週間。


一ヶ月。


一年。



彼女達がどれだけ長い歳月を体感しようと、元の世界ではほんの一瞬の時間。



「あは、は、あははははははははは!」



最初に壊れたのはミリーだった。

そんなミリーを横目に、サナは聖女らしくひたすら祈り続けた。

……ある時を境に、彼女は祈る以外の行動を忘れた。



肉体が老いることは無いため、死は訪れない。

しかし、死が訪れないことが可哀想に思えて来るほどに、2人は狂い続けた。



「……同情はしないけど、解放してあげるわ。今の貴女達に何が出来るかは定かではないけれどね」



解放されても尚、ミリーは笑い続け、サナは祈り続けた。

やがてミリーは奴隷に堕ち、何をしても笑い続ける滑稽さから、趣味の悪い貴族の玩具として遊ばれた。


サナは教会に引き取られ、面倒な神への口上を代行してくれる人物として神官達に愛用された。



それが、精霊に愛された者を見限り、あまつさえ精霊に楯突いた哀れな魔道士と聖女の最後だった。


結局採用した時間云々の設定(笑)

二章、あと1話(?)

二章はGW中に気合で終わらせます。多分。


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