圧倒的な実力差
体調を崩していました(過去形)
あと花粉症ツライ……
「なんだ、随分早く追いついたな。まさかお前が、このレベルのダンジョンのモンスターを相手に尻尾を巻いて逃げてくるとは思わなかったよ」
「……何で、マイルスがここに居るんだ」
「言っただろう、アイラを迎えに来てやったとな。さっき、お前はギルドに自分の居場所が無いことを懸念して俺の誘いを断った。違うか?」
「違う」
「正直になろうぜ。お前もそろそろ俺たち【紅き閃光】の最前線が恋しくなってきたんだろう? お前は優秀な部類の荷物持ちだからな。そんな低レベルのパーティーじゃ、満足がいかないに決まっているさ」
僕を持ち上げているつもりなのだろうか。
僕自身がリーダーとなって創設したパーティーを馬鹿にされて、僕が良い気分になるわけがないのに。
「悪いけど、はっきり言わせてもらう。今のこのメンバー……【透明な空】は、僕が居た頃の【紅き閃光】より個々の力で既に勝っている。連携はまだまだだけど、決して低レベルなパーティーなんかじゃない」
【紅き閃光】はこれまで、素材収集の圧倒的な効率を武器に躍進してきたパーティーだ。
その強みがあったからこそSランクまで到達することができたが、実力的に見ればAランクのパーティーと大差は無い。
今のマイルスは、自分達が強いからSランクになれた、とでも思っていそうだが……
「はは、【紅き閃光】が、そこに居る女どもより劣っている、だと?」
マイルスが引き攣った笑いを浮かべるときは、いつも決まってあいつの逆鱗に触れた時。
ひょっとすると、僕は心が狭いのかもしれない。
マイルスに仲間を侮辱されたとき、僕の中から黙ってやりすごすという選択肢は消えていたのだから。
「そんなに言うなら、俺とお前ら【透明な空】で模擬戦をしようじゃねぇか。 なに、3対1で構わねぇ。俺が勝ったら、お前は【赤い不死鳥】に戻れ!」
「勝負を受けるメリットが無いじゃないか。一方的な賭けに身を投じろと?」
「折角戻る機会を与えてるのに、まだ強情を貫くかよ。なら、お前が勝ったら二度とお前に関わらないでやる。そのまま仲良しごっこを続けるなり、好きにすればいい」
「二言はないな。なら……マイルス、お前との縁は、ここで断ち切らせて貰う」
気乗りはしないが、執着心の強いマイルス本人の口からそれを言わせることができる。
今後しつこく付き纏われるリスクが無くなるというなら、十分なメリットだ。
いや、デメリットが無くなるだけで、僕にメリットがあるわけでは無いか?
やっぱり、気乗りはしない……
「あいつはどうやら僕ではなく【透明な空】との模擬戦を希望しているらしい。だから、惜しみなく力を借りるよ。二人とも、いける?」
「畏まりました」
「大丈夫!」
「ありがとう。少し、お灸を据えてやろうか」
……僕の仲間を侮った報いは、その身でじっくり味わうといい。
「据えられるのはテメェの方だよ、アイラ。俺が下手に出たのをいいことに、これまで随分好き放題言ってくれたじゃねぇか!」
「御託はいい。ルールは?」
「お前はいつも訓練用に刃の無い剣を持ち歩いていたよな。あれをよこせ」
僕はマイルスに訓練用の剣を投げ渡す。
当たるとそれなりに痛いが、大怪我を負うことはない。
「一撃当てられたら負け。シンプルだろ?」
「魔法は?」
「使っていいぞ。使えるならな」
僕への皮肉を言ったつもりなのだろうが、生憎、こちらには魔法を使える人材がいる。
僕はクゥにも同じ剣を手渡し、一度大きく深呼吸をする。
「……始めよう」
マイルスは魔剣士。
魔法も使えるが、遠距離に主体を置いているわけではない。
故に、こちらが先手を取ることは容易だ。
「シアル、牽制を」
「はい。【火球】」
「おーおー、覚えたての魔法で頑張ってるじゃねぇか。だかなぁ、その程度の魔法がSランク冒険者であるこの俺に通じるとでも思ったのか!?」
マイルスはシアルの魔法を剣で弾こうとする。
初級魔法の対処方法としては、何ら間違っていない。
あくまで、それが本当に初級魔法なら。
(……あーあ。威力は全然初級魔法なんかじゃないのに)
「な、重っ……!?」
マイルスはシアルの魔法のカラクリを知らない。
想像以上の威力に上体を流され、マイルスは大きく体勢を崩してしまう。
「あら、通じてるじゃないですか。Sランク冒険者サマは、初級魔法もろくに防げないのですね」
(え……闇シアル?)
ディノさん、彼女に一体何を吹き込んだんですか?
確かに挑発は立派な戦略だけども……
「テメェ……少し遊んでやるつもりだったが、もう辞めだ。【大火球】!」
「【大海蛇】」
「……!」
水で形成された大蛇がマイルスの魔法を喰らいつくし、そのままダンジョンの天井へと昇って行く。
もはや、魔道士としての力の差は歴然だった。
マイルスもそれを悟ってか、今度は近接戦闘に持ち込もうと距離を詰めてくる。
「【炎剣】!」
「【氷の盾】」
炎と氷が交錯する。
訓練用の剣だろうと、魔法を纏わせて斬りつけては元も子もない。
どう見ても、マイルスは本気だった。
もしシアルがマイルスの見立て通り初心冒険者だったら、間違いなく今の攻撃も命中していただろう。
そのとき、一体あいつはどう責任を取ったのだろうか。
「はいはーい! 次行きます!」
シアルに代わり、今度はクゥがマイルスと相対する。
流麗で美しいクゥの太刀筋に対し、スキルと力任せで荒削りなマイルスの太刀筋。
ここまで実力に差があっては、唯一の利点ともいえる体格差なんてものも、全くハンデにならない。
「馬鹿な。この俺の斬撃が、ガキに止められただと!?」
「ガキじゃないもん」
「ならクソガキか。お前には俺が目上の人間への礼儀ってもんを教えてやるよ!」
「だからガキじゃないってば! 【狂乱ノ剣】!」
目を見張るような連撃。
しかし、一太刀ごとに、クゥの太刀筋が乱れていく。
子ども扱いされたことで、平静を失ったのか?
……という悪い予感が胸を掠めたが、特に心配するようなことでもなかったようだ。
(な、なんだこのガキ! 一回打ち合うごとに斬撃が加速して……うぉぉっ!?)
クゥは手数でマイルスから主導権を奪い、ついにマイルスの剣を跳ね飛ばす。
力には、力を。
今のクゥは、まさしくその言葉を体現した戦いを演じていた。
「クゥ、あれはどういう技なの?」
「ふふん、最適化する場所を変えたんだよ!今までは『最も斬れる太刀筋』を最適化してたけど、今は『剣に最も力が伝わる角度』を最適化して……」
「……よくわかりません」
「なんで!? すっごく丁寧な説明なのに……」
言いたいことを要約すると、スキルが適用される場所を「斬れ味」から「殴打力」に変更したということだろうか……?
実はクゥはかなりの天才肌なので、たびたび僕たちを置き去りにする発言をする。
流石、賢者の血をひくだけのことはある。
「戦闘中におしゃべりとは、余裕見せてくれるじゃねぇか! その油断が命取りなんだよぉ!」
マイルスの剣が黒ずんだ赤色に発光する。
あれは……【獄炎剣】か!?
「やめろ、マイルス! そんな大技が直撃したら、どう考えても怪我じゃ済まないだろ!」
「うるせぇえぇぇ! 俺に指図するな! 【獄炎剣】!」
……もはやこれは、模擬戦ではない。
ただの、殺し合いだ。
なら、もういい。
「終わりにしよう。【不可視の盾】」
盾に阻まれ、マイルスの剣は届かない。
そして、熱に耐えかねた訓練用の剣が溶け始める。
……元々戦闘用の剣ではない上、耐熱性は無いのだから当然だ。
「なんだテメェ、何をしやがった!」
「……頭に血が上ると攻撃が単調になりやすい。常々言ってきたはずなんだけどね」
形を失った剣による斬撃とは言い難い攻撃を余裕をもってかわし、僕はマイルスの背後に回り込む。
そして、取り出した短剣の剣先をマイルスの首筋に当てた。
その気になれば、すぐにでも振り抜ける。
「これは訓練用の剣じゃない。……こうでもしないと、どうせお前はしらをきって何事もなかったかのように戦うだろ。僕たちの勝ちだ。はっきり言って、今のマイルスは以前ほど強くない。Sランクという肩書きに溺れて、努力を怠った結果だよ」
しばらく呆然としていたマイルスだったが、やがて正気を取り戻すと、声高らかに笑い始めた。
「……何、笑ってるんだよ」
「はっはっは、落ち着けって、ちょっと試しただけじゃねぇか。手加減したとはいえ、俺を打ち負かすとは大したもんだ。この実力なら全員纏めて【赤い不死鳥】へ歓迎しよう。それにちょうど今、ミリーとサナが遠出をしているところでな。この4人で新生【紅き閃光】として……」
「散々良いように使っておいて、今更戻ってこいだと? どの口が言ってるんだ。第一、彼女達がそれを承諾するとでも思っているのか?」
「……私はアイラ様の決定に従います。貴方に従う理由はありません」
「私も〜」
「おい、いい加減にしろ。それ以上強情を貫くなら、もう二度と【赤い不死鳥】の敷居は跨がせねぇぞ」
「いい加減にしてほしいのはこっちだよ。マイルス、お前は僕たちに負けた。さっきの模擬戦の条件をもう忘れたのか?」
「い、いや、手加減したと言っただろう。あれは……」
「無効なんて言い訳が通じると思うな。これ以上騒ぐなら力ずくで通してもらう。それと……加減したのが自分だけだと思うなよ。マイルス、君は一度、自己評価を改めた方がいい」
魔力量が万全でない僕、魔法がマイルスに直撃しないように軌道を修正したシアル、わざわざマイルスの土俵に上がって戦ったクゥ。
……そして。
なんだかんだ僕たちを気づかって手を出さないでいてはくれたものの、許可さえ出せばいつでも一方的にマイルスを攻撃できる精霊まで温存しているのだ。
「もういい、喋るな! この俺がテメェみたいなゴミ屑に時間を割いてやったっていうのに……。自惚れるなよ、俺の力ならお前程度の荷物持ちならすぐに見つけられる。テメェなんかこっちから願い下げだ! 二度とそのツラ見せんな!」
マイルスは吐き捨てるようにそういうと、大股でダンジョンを後にする。
『見つかるわけないでしょ。あいつ、終わったわね』
「……うん」
『あら、意外ね。アイラのことだから、また自分程度の荷物持ちならすぐ見つかる、とか非常識なことを言い出すのかと思ったけど』
「実力云々じゃなく、あいつの下で働きたいと思う荷物持ちが現れるわけがない。改めて話してみて、はっきりそう感じたんだ」
『……そう』
これを機に改心してくれれば、或いは。
今はそれを願うばかりだ。
「ともあれ、これで本当に【紅き閃光】……過去のしがらみがなくなった。皆、ありがとう。巻き込んでごめん」
「謝らないでください。迷惑だなんて思っていませんから」
「お礼は、美味しいごはんがいいな!」
「いいね、そうしよう」
ダンジョンから帰還してから、リシェさんに収集した素材の量に呆れられるまでの一連の流れがあり。
この日の食卓には、いつもより少しだけ奮発した料理が並べられた。
2章がやっと終盤。
多分3章で完結……するといいなぁ。
次回更新は未定ですが、一週間以内には。
よろしければ応援よろしくお願いします。




