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始まりの地


「うわっ、ひんやりする!」



「そりゃ、氷瀑のダンジョンだからね」



氷瀑のダンジョン。

その名の通り、このダンジョンは滝壺に形成されている。

滝の裏側からダンジョンの潜入し、目が眩むような氷の迷宮を抜けたら、最下層にあるボス部屋でこのダンジョンのボス「アイスタートル」とご対面だ。


多少ひんやりとはするが、「火炎のダンジョン」のように外気が敵となるわけではないので、いくらか攻略は楽だ。

ちなみに、水路に面している左側のルートには魚系のモンスターが多数出現し、それ以外の道では氷属性のアンデッドモンスターが多い。



「道が三つに分かれていますね。どちらに進みましょう?」



「どこを選んでも大差は無いよ。実は、ここは以前にもマイルス達と来ているんだ」



【紅き閃光】を結成した僕らが初めて挑んだダンジョンがここだったのだから、忘れるはずがない。



「アイラさん、敵が一番多いところは?」



「ちょっと待って……うーん、右かな。氷漬けの骨(アイスボーン)なんかが多い」



「じゃあ、そっち!」



クゥはウキウキとした様子で右の通路へ歩を進める。

彼女は試し斬りがしたくて仕方ないようだが、かつてここまで物騒な幼女が居ただろうか。



「あー! 居た!」


「カタ、カタ、カタ」



スケルトン独特の歩行音を立てながら、氷漬けの骨がクゥに襲い掛かる。



「えいっ!」



可愛らしい掛け声とは裏腹に、彼女から繰り出された斬撃は可愛げのない凄まじい一閃。

クゥは氷漬けの骨に真っ向から向かっていき、躊躇なくその頭蓋骨に刃を通してみせた。



「カタ、カタ……」



いくらアンデットといえどここまで激しく体を損傷しては、もうこれ以上動くことはできない。

骨という硬い物体を斬ったというのに、ダンジョン内は依然として静寂を貫いていた。



「斬れ味抜群だね」



「斬れ味は、ね。次は、ちゃんと魔法を斬れるか試さないと……」



「ボスのアイスタートルは広範囲に氷のブレスを吹き付けるから、その時にでも試してみなよ」



「うん、わかった。それじゃ、ボス部屋まで一気に行こう!」



「はいはい。それじゃ、僕が最短距離を探るから、モンスターの討伐は2人に任せるよ」



「畏まりました。それでは」



シアルは止め処なく現れる氷漬けの骨に、的確に【炎の槍(ファイアーランス)】を突き刺していく。

しかも「通常の威力」に抑えた中級魔法なので、それほど魔力の消費もしていなさそうだ。


クゥもシアルの魔法の射線上に入らないように気をつけながら、淡々と現れるモンスターを討伐していった。


右側はシアル、左側はクゥ。

そして、僕は空間魔法を駆使して逐一モンスターの場所を知らせ、最短のルートを模索する。


初陣ながらも役割分担がしっかりしていたおかげで、本当にスムーズに攻略を進めることができた。

僕達が選んだ右ルートのモンスターが全滅するまで、それほど時間はかからなかった。



「シアルの魔法は本当に頼もしいね。今日はサポートに徹するつもりだったけど、あまりに出番が無くてちょっと物足りなかったよ」



「あぅ……すみません。でも、アイラ様が敵の一部をクゥから遠ざけてくれたおかげで、凄く魔法が撃ちやすかったです」



「それはよかった。クゥ、お待ちかねのボス部屋だよ」



「任せといて! この剣の力、よく見ておいてね!」



クゥは意気込んで扉に手をかける。

その瞬間、禍々しい魔力が周囲に吹き荒れた。



「アイラ様、あれがアイスタートルですか?」



『どう見ても違うでしょ。もしやとは思ったけど、ヘルサラマンダーに続き、ここでもそうなのね……』



「いや、なんでだよ」



そこに佇んでいたモンスターを見て、僕は思わず誰もいない空間にむけてツッコミを入れてしまう。

これは一体、何の冗談だろうか?


水竜。


地竜と同列に語られる、竜種だ。

厳密には竜は「モンスター」ではない。

故に、ダンジョンのボスとして出現することは、普通考えられないのだが……



「グルァァァァァ!!」



竜が出てきたこと事体に驚きはあったが、実はそこまで危機感は感じていない。

そしてそれは、恐らく他の2人も同様だろう。




「流石にディノ様ほどの力は無いようですし、人語を介しているようにも思えません。十分勝てる相手かと」



「ディノさんと修行していたシアルがそう言うなら、きっと間違いないね。それじゃ、竜退治といこうか」



「グルァァァァ!」



「「!」」



水竜の【氷の吐息(ブリザードブレス)】。

竜のブレスは種類によって属性が様々で、水竜は水や氷を生成し、螺旋状の空気の渦に乗せて打ち出してくる。


狙いは……最初にボス部屋に入ったクゥだ。



「よし、魔法! 任せ○*#&%!?」



先陣を切って魔法に突っ込んでいったクゥが、ブレスに巻き込まれて呆気なく撃沈する。



「クゥ! 竜のブレスの吐息部分はただの空気だから、魔断石は通じないよ!」



「先に! 言って!  よ!」



クゥは大きく吹き飛ばされながらも、持ち前の身体能力でなんとか体制を立て直し、無事着地を決める。

魔法部分はしっかりと斬っていたので、なんだかんだで直接的なダメージは受けていないようだ。


とんでもない肺活量。

全てがパワフルで高水準なのが、竜という生物だ。



「……【雷の槍(サンダーランス)】!」



シアルが魔法を放つが、水竜は飛翔してこれを回避。

ヘルサラマンダーの水属性版……というのは、少しばかり無理があるか。

圧倒的に、こいつの方が強い。



「【崩壊する空間】……は、ダメか」



僕は水竜の居る空間を捻じ曲げようと試みたが、水竜の魔力量が思いの外多く、これを断念する。

【崩壊する空間】は確かに「発動すれば」防御不能だが、魔力濃度が濃い空間を無理矢理捻じ曲げる場合、莫大な魔力を消費してしまうのだ。

それは即ち、自分よりも魔力の多い相手には、この技は通じないということ。

少なくとも、今の僕では無理だ。


魔力が全快している時の僕なら、この一撃で終わっていたはずだったのに。



「ダメだ、僕の魔法は当てにならない。拘束くらいならなんとかできるかもしれないけど……」



本当に、魔力が足りない。

一体これは誰のせいだろう。



『ごめんって。でも、残りの魔力でも転移3人分くらいならいけるわよ。危ないと判断したら最悪私が全員ダンジョンの外に飛ばすわ』



(それは助かる)



僕が転移させられるのはまだ自分に限り、その上狙った場所に転移できる確率もまだ高くない。

ネフィル保険が適用されるなら、彼女からストップがかかるまで全力で水竜とやりあえる。



「拘束ができるなら是非お願いします。飛行能力さえ奪ってしまえば、私が」



神級魔法は外した後のリスクーー操血術が使えなくなることーーが非常に大きい。

今の発言は、それを踏まえた上でのものだろう。



「わかった。クゥ、いける?」



「勿論!」



水竜は再び飛翔し、ブレスを吹き付けてくる。

僕たちはそれを二手にわかれて回避。


……まずは、あいつを地上に下ろさないとな。



「クゥ、翼を狙え! 【不可視の盾(インビジブルシールド)】!【不可視の鎖(インビジブルロック)】!」



「うわわっ?」



僕は【不可視の盾】をクゥの足元に展開し、そのまま彼女を水竜の居る空中まで押し上げた。

そして、それと同時に地面から生やした鎖を水竜の両足に巻きつけ、僅かに時間を稼ぐ。


水竜は二度、三度空中で体を捻って鎖を引きちぎるが、それでは遅すぎる。

……ウチの剣士の本気の「速さ」は、僕はついこの間身をもって体験している。



「【閃光ノ剣】!」



「グルァァァァァ!?」



クゥの斬撃で水竜は飛行能力を失い、よろよろと地面に墜落する。


……道中あれだけの活躍を果たした【魔断剣】でも切断に至らないのは、流石竜種といったところ。

そんなとてつもなく硬い竜の体だが、攻撃が通る場所はある。

最も柔らかいのが、今クゥが傷を付けた翼だ。



「【不可視の鎖(インビジブルロック)】!」



今度は鎖を首に巻きつけ、僕は後方へ退避する。

……仕上げは、僕の仕事じゃない。



「シアル!」



「任されました!」



僕達が射程外まで退避したことを確認し、シアルが渾身の魔法を形成し始める。

水竜は自身の頭上に尋常ではない量の魔力が集まっていることを察知し、すぐにその場を退避しようとする。


……が、それは叶わない。

今更僕の【不可視の鎖】を破ったところで、神級魔法の悪魔的な攻撃範囲からは逃れられない。

その上、クゥの斬撃によって翼を深く損傷したことにより、飛行能力は失われている。

もはや水竜に、打つ手など残っていない。



水竜の頭上に現れた幾千もの蒼い雷が、やがて集約して一つの巨大な雷を形成する。

まるで意志を持ったようなその雷は、シアルが腕を振り下ろすと同時に水竜へと襲いかかる。



「【 雷霆(インドラ)】!」



一瞬だけ視界が蒼く染まった直後、激しい轟音が響く。


再び視界が戻った時、僕達の前にはもはや原型を留めていない水竜の死体があった。


1人の怪我人も出さない、完全勝利だ。



「うわぁ、物凄いオーバーキル……」



「今の……前に見た【神の炎(ウリエル)】よりも威力が落ちてたような気がしたんだけど」



「【雷霆】は極大魔法です。アイラ様たちの戦闘の様子を見ていて、神級魔法まで使う必要はないと判断致しました」



「あれ、神級魔法じゃなかったの!?」



自己判断で魔力をセーブしたということか。

つまり、あれよりも上の雷魔法がある……と。


恐ろしい。



『あれなら更に下の王級魔法でも十分倒せたんじゃない? 大体、アイラとクゥのアシストが無くても、貴女に動き回る敵に正確に魔法を当てる技術があればね……』



「……うるさいです」



『うるさ……!? なんてこと、ついに吸血鬼の化けの皮が剥がれたわ!』



「いや、ネフィルがしつこいだけでしょ」



本当にもう、どうしてネフィルはシアルにだけ当たりが強いんだろう……



ぐぅぅぅ。


微妙な雰囲気を吹き飛ばすように、どこからか空気を読まない可愛らしい音が聞こえてくる。



「お腹空いた!」



「うん、そうだね。帰ろっか」



『……つくづく、クゥには敵わないわね』



水竜の死体はもはや素材として活用できる箇所が無いほど焼失してしまったので、少し勿体ないが、大人しくダンジョンに置いていくことにする。

前までの僕は素材以外もなにふり構わず【収納】していたが、【収納】が魔力の最大値を削る行為だと知った今では、なるべく不要なものの収納は避けるようにしている。



「右ルートのモンスターは全滅しているから、帰りは真ん中のルートで素材を収集しながら帰ろう。沢山素材を納品すれば、その分ランクも早く上がるし」



「わかったー!」



(とか言って、今日はサポートばっかで消化不良だっただけじゃないの?)



(……バレた?)



今まではサポートしかできなかったから、自分にできる支援を精一杯やってきた。

でも今は、自分もパーティーの戦力面に貢献できるという事実が、堪らなく嬉しい。



「帰りは僕に任せて欲しい。二人は休んでて!」



「いえ、私もまだ……」



『黙って見てなさい』



ありがとう、ネフィル。

僕は【空間の盾】を2枚展開し、氷漬けの骨を次々に倒していく。

攻撃スキルの無い僕では骨を切断することはできないが、氷漬けの骨(アイスボーン)は骨と骨の繋ぎ目に剣を強く当てることでも倒すことができる。



「まるで蝶みたいです。動きに無駄がなくて、それでいて凄く身軽で……」



『2枚の【不可視の盾】を常時展開し、足場にすることで可動域を空中にまで広げる。盾を蹴って加速に使ったり、勿論本来の用途である攻撃を防ぐ盾としても使う。あれは私が教えた技じゃない。アイラが自分で考えて編み出した戦闘スタイルよ』



「ご主人、凄い!」



「照れるなぁ。……どうやら僕達に以外にソロの冒険者が来てるみたいだから、これ以上素材を乱獲するのはやめておこうか。ここからはなるべく接敵を避けて進もう」



「……本当ですね。やはり、索敵面ではアイラ様に敵いません」



僕がそう告げてからしばらく置いて、シアルもその冒険者の魔力を感知したらしい。

僕からしてみれば、魔力だけで冒険者の存在を感知したシアルも、常人では到底真似できないことをしていると思うのだが。


万が一冒険者が僕たちのように水竜と対峙してしまったら困るし、すれ違ったら忠告しておこう。

お互いにこのペースで進み続ければ、あそこの角を曲がったところで鉢合わせることになる。



「オラァァァ!」



「……ん?」



今、よく聞き覚えのある声が聞こえたような……



マイルスへのざまぁももう終盤です。

頑張って書く。

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