透明な空
薄氷リサーチによると、本日のハイファン最低ラインは60p後半。
7人の満点評価で載ることができるラインです。
以前は80p無いと厳しかったので、今がランキングの狙い目とも取れます。
ハイファンそのものが低迷しているようで、やや複雑な心境ではありますが……
「アイラ様、アイラ様」
「ん……?」
優しい声に脳を刺激され、僕は重い瞼を開ける。
……珍しく、太陽に負けていた。
若干だが、体がだるい。
昨日は魔力を大量に消費して疲れていたから、ついつい眠りすぎてしまったようだ。
「おはよう、シアル。わざわざ起こしに来てくれたの?」
「今日は朝からクエストに向かうと仰っていたので、起こした方が良いかと」
「あ、そうか」
自分から言い出しておいて、寝坊してしまうとは。
なんとも不甲斐ない。
「ところで、ネフィルは?」
「クゥと一緒にいるはずです。何やら、試したいことがあるとのことで」
(あんなに過保護なのに、寝坊した時は起こしてくれないのか……)
精霊様は、僕の寝坊に対しては寛容らしい。
……いや、甘えずに自分で起きろというメッセージという可能性も否定はできない。
「うわぁぁ! ネフィルさん、これ!」
「大成功よ! 思った通りだわ!」
部屋の外から、何やら騒がしい声が聞こえる。
ネフィルが弾んだ声を上げるということは、よっぽど凄い何かがあるのかもしれない。
「行こっか。あの2人、何やってるんだろう」
「気になりますね」
僕たちは声が聞こえた場所……クゥの部屋へと足を運んだ。
コン、コン。
扉をノックし、中からの返事を待つ……までもなく、ものすごい勢いでクゥが飛び出してきた。
「ご主人! 凄いのができたんだ!」
「剣? 凄く綺麗だね」
クゥが手にしていたのは、刃の部分が七色に輝く剣。
見た目は綺麗だが、戦闘用というより、観賞用といったところだろうか?
「ただの剣じゃないのよ。聞いて驚きなさい。こいつの素材は」
「これ、魔断石じゃないですか?」
「……」
「……ごめんなさい、続きをどうぞ」
最後まで言わせて貰えなくて、凹んでいる精霊様。
なんか、こうしてみると本当に人間みたいだな……
「コホン。こいつの素材は『魔断石』で出来ているの! 昨日ふとクゥのスキルが気になって、夜のうちに【収納】で魔断石を採取してきたのよ。私の空間魔法じゃ魔断石を原石のまま【収納】するのが精一杯で、形を変える加工はできなかったんだけど」
「私の【万物の支配者】なら、加工できたんだよ!」
「……」
「あ、ごめんなさい。続きをどうぞ」
「あんたねぇ……」
クゥ、恐ろしい子。
「……もういいわ、クゥの説明が全てよ。要するに魔法を斬ることができる剣が出来たってワケ」
「なにそれ、強すぎない?」
「爆破されても傷一つつかなかった石で出来ているから、耐久性は折り紙付き。魔法無効化、その上見栄えまで良し。この世界で考えうる最強の剣よ」
「もしかしてこれ、量産できるの?」
「すぐには厳しいわね。剣一本分の魔断石を収納するのに、アイラの残魔力を殆ど消費してしまったもの。収納は魔力を使う半魔法のようなスキルだから、魔力を散らす魔断石とはとことん相性が悪いのよ。他の方法を考えないと」
「おいちょっとまて」
つまり、僕が寝坊したのは魔力切れのせいで、それは勝手に魔力を使ったネフィルのせい……と。
自分の魔力に意識を集中させてみたら、なんとまだ魔力が半分も回復していない。
どうりて、怠いわけだ。
これからクエストに向かうというのに。
「今後、緊急時を除いて無断で僕の魔力を消費することを禁止します」
「はいはい」
「ご主人、ごめんなさい」
「クゥが謝ることじゃないよ」
ネフィルは当分おやつなしの刑。
異論は認めない。
「では、ギルドへ向かうのはアイラ様の魔力がもう少し回復してからにしますか?」
「いや、行こう。元々僕は魔法なんて使えなかったし、この程度ならなんてことないよ。それに、今日はソロじゃないし」
僕の魔力が回復しきってない以上はネフィルの助けは当てにできないが、この二人が居れば、僕がサポートに徹しても何の問題も無いだろう。
「任せてよ! 今なら何でも斬れる気がするんだ!」
「こら、ここで振り回さない」
「はーい」
今日はクゥが攻略の軸になりそうだなぁ。
シアルには、なるべく後衛に徹するように伝えておこう。
「じゃ、クゥの剣の試し斬りも兼ねて、今から適当なダンジョンに向かおうか。ついでに、この3人でちゃんと連携が取れるかも確認しておきたい」
「はい」
「おー!」
というわけで、僕達はいつもよりだいぶ遅れた時刻にギルドへと足を運んだ。
……そして、「もっと早くギルドに向かっておけば良かった」と、猛烈に後悔したのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「こんにちは。クエストの受注ですか?」
「こんにちは、リシェさん。今日はクエストではなく、パーティーの申請をしたいのですが」
「……やっとですか! いつもソロでダンジョンに潜っていたから、心配で仕方なかったんですよ?」
「すみません」
この反応、思った以上に心配されていたらしい。
そりゃ、僕が空間魔法を使えると知らない人にとっては、荷物持ちが一人でダンジョンに向かって攻略まで済ますとは、にわかには信じ難いことだっただろう。
「パーティーになった場合、受注できるのはリーダーのランクの一つ上までという規則です。アイラさんの現在のランクはBですので、パーティーならAランクまで受注できます。但し、格上のクエストに挑む場合は完全に自己責任となりますので、身の丈にあったクエストを選ぶことを強くお勧めします」
「はい、大丈夫です。今日は元からそこまで難しいダンジョンに行くつもりは無かったので」
そこからいくつか小難しい手続きを終え、残るはパーティー名の決定のみ。
……となったのだが、ここからが非常に難航した。
「チームアイラ!」
「却下。凄く恥ずかしい」
「……アクシネ?」
「頭文字取っただけじゃん! しかも何か物騒だし」
『アイラをお守りし隊』
(却下に決まってんだろ!)
『えー。自信作だったのに』
(その自信はどっからくるんだ……)
僕が彼女達にパーティー名の希望を取ったところ、何を隠そう、4人ともネーミングセンスが皆無だったのである。
「パーティー名に悩んでるなら、メンバーが得意としている技、魔法なんかを織り込んでみると良いですよ。【黒い雷】なんかが良い例ですね」
「あ、なるほど。あれってミラさんの魔法が由来だったんですね」
「それと、リーダーのクロウさんの名前をとって『黒』になったそうですよ。少しでも参考になれば」
「アドバイス、ありがとうございます」
メンバーが得意としていること。
魔法、操血術、剣術、精霊魔法……
ダメだ、何も浮かんでこない。
「僕が得意としている魔法って言っても、基本無色透明で見えないからなぁ……」
「私、透明って好きだよ。何色にも染まらないところが、自由って感じがして!」
……自由。
確かに僕達は、今までずっと「何か」に縛られてきた、不自由な者の集いかもしれない。
クゥのこの何気ない一言が、僕の中にストンと落ちていく感覚がした。
「採用。【透明な空】、なんてどう?」
『なるほど、確かに空は昔から自由の象徴とされてきたわね。良いんじゃない?』
「異論ありません」
「賛成!」
「……お決まりのようですね。では改めて、パーティー名の申告をお願いします」
「すみません、長らくお待たせしてしまって。【透明な空】です」
「はい。これにて登録は完了しました。クエストはこれまで通り、代表者の方が受注の手続きをお願い致します。皆様のご活躍、楽しみにしていますね!」
かくして、【蒼い彗星】に新生パーティー【透明な空】が誕生した。
そのまま続けてクエストの手続きを済ませ、今日はBランクダンジョン【氷瀑のダンジョン】の攻略を目指すことにしたのだが……
そのまますぐにダンジョンに直行することは叶わなかった。
ギルドの建物を出ると、そこにはよく見慣れた人物が居た。
もう二度と会うこともないと思っていた。
否、もう二度と会いたく無かった【紅き閃光】のパーティーリーダーが。
「遅い。遅すぎる。一体どれだけ俺を待たせれば気がすむんだ、アイラよぉ!?」
「……なんでお前がここに居るんだよ、マイルス」
本当に分からない。
マイルスが散々見下していた【蒼い彗星】に自ら足を運ぶなんて、一体どういう風の吹き回しだ?
「その女共は誰だ。お前の連れか?」
「パーティーメンバーだよ」
「ふん、とても強そうには見えねぇがな。なるほど、お前は元Sランクの肩書きを使って、初心冒険者のパーティーに取り入った、というわけか」
その一言に、女性陣から微かに殺気が放たれる。
が、彼女たちは(約一名を除いて)すぐにその怒りを鎮めてくれた。
「赤の他人である貴方に何と言われようと構いませんよ、私は。ただ……」
シアルはちらりとネフィルのいる(正確には僕の魔力を感知して推測した)空間へ視線を送る。
ネフィルは案の定というか、著しく情緒が崩壊していた。
『……決めた。今すぐ息の根を止めてやる。お前、楽に死ねると思うなよ』
「べ、別に何だっていいだろ! マイルスには関係無いんだからさ!」
頼む、やめてくれ、マイルス。
君にとっては冗談のつもりかもしれないが、これ以上は本当に冗談じゃ済まなくなる。
「そうもいかねぇよ。……なるほど、見込みはあるようだ。よし、そいつらも歓迎しよう」
「さっきから、一体何の話をしてるんだ?」
「決まってんだろ。この俺がわざわざ迎えに来てやったのに、礼の一つも無しか?」
礼?
むしろ自分は謝罪される側だと思っていたのだが、マイルスは僕に何を言わせたいのだろうか。
「ごめん、話が読めないんだけど。どうして僕がマイルスにお礼を言わなくちゃならないのか、できれば説明して欲しい。本当に心当たりが無いんだ」
「はぁ? テメェ……」
マイルスは後に続く言葉を切り、呆れたような、不機嫌そうな表情を浮かべる。
「一度しか言わないぞ。この俺が、お前に【赤い不死鳥】復帰の権利をやると。そう言っているんだ」
【赤い不死鳥】に?
あぁ……
「そういうことか。要らないよ。【蒼い彗星】がこれからの僕の居場所だから。それじゃ」
「は? おい、待てよ、話はまだ……」
『もう終わりよ!【不可視の鎖】!』
「うおっ!?」
マイルスは、何もない地面で盛大に転んだ。
僕の方に歩み寄ろうとした矢先、透明な何かに足を引っ張られたのだ。
(ちょっとネフィル、不用意に魔力使うなって言ったじゃん。というか、まさかこれをリシェさんに使おうとしてたの?)
『……さて』
(誤魔化すな。使うつもりだったんだな?)
僕は、彼女の魔法をリシェさんに対して絶対に使わせないと心に誓う。
『あれは継続魔法だから、もうしばらくまともに立てないんじゃないかしら?』
マイルスの足には透明な鎖が巻き付いており、地面に固定されたまま、ほとんど動かすことができないようだった。
だが、この鎖の存在を認識できているのは、この場では僕とシアルくらいだろう。
マイルスは、見るも無惨な姿……というか、滑稽な姿を群衆の前に晒していた。
流石にここまでくると気の毒に思えてくる。
「……もういいや、行こうか」
「待て、おい待てよ! アイラ、これはお前の仕業か!?」
ついに立つことを諦めたらしいマイルスを横目に、僕たちは【氷瀑のダンジョン】へと向かった。
ド直球な本音を言います。
ざまぁが終わるか、作者のモチベーションが尽きる前にランキングに復帰したい!
ということで評価・ブクマ等よろしくお願いします!




