【赤い不死鳥side】実行された「計画」
到底理解されるとは思っていないんですが、自分がまだ読み専のとき、もし自分が執筆する側に回ったら、前書きや後書きに死ぬほどアホなことを書いてみたいと密かに思っていました。
ということで、かつての薄氷氏のささやかな夢を叶えてあげましょう。
そこのお前!
レモン一個にはレモン五個分のビタミンCが入っているんだぜ!(マジ)
いつもの時間、いつものようにギルドに入ったマイルスは、ふと、何かの違和感を感じた。
普段より、ギルドが広く感じるような。
「……?」
ミリー、サナは相変わらず顔を出さない。
しかし、今日はそれよりも、もっと何か、決定的な何かが欠けている。
その正体に気づく前に、マイルスの元に血相を変えたギルドマスターが駆け込んでくる。
「マ、マイルスさん!」
「なんだ、ダック。朝っぱらから騒がしいぞ」
「そんなことを言っている場合じゃないんです!……すみません、人目につく場所で話せる内容じゃないので、すぐに来て下さい」
(……なんなんだ、一体)
マイルスはダックの後に続く。
普段の彼なら突き返してもおかしくない場面だが、流石のマイルスも、今日ばかりは只事ではない事態を察していた。
「で、大変なことってのはなんだよ」
「昨日、【堅守の砦】がギルドを脱退しました。ご存じだとは思いますが、【紅き閃光】に次ぎ、このギルドでは実績がNo.2だったパーティーです」
(【堅守の砦】は、目障りな存在だったヒューズ、ドルマが所属するパーティーだ。それが、ギルドを辞めただと?……好都合じゃないか。何をそんなに慌てることがある)
顔にこそ出さないが、ダックからの思わぬ知らせに、マイルスは内心で狂喜乱舞する。
「だからどうした。【堅守の砦】ごとき、俺たちに比べればなんてことはない、平凡なパーティーだろうが。別段、気にすることでもねぇだろ」
「いえ、それが……」
ダックはそこで言葉を言い淀む。
そんなダックの様子を見て、マイルスは苛立ちを覗かせる。
「言うならさっさと言いやがれ! 俺はさっさとクエストに行きてぇんだよ!」
「は、はい。……実は、辞めたのは【堅守の砦】だけではないんです。昨日のうちに、総勢30名の冒険者と、20名の荷物持ちが、【堅守の砦】の後に続くようにギルドを脱退しました」
「……なんだと?」
【赤い不死鳥】に所属している冒険者の数は、昨日の段階ではおよそ百名と少し。
つまり、ここに所属する冒険者のうち、約半分が1日のうちにギルドを去ったという異例の事態である。
「誰が辞めた。名簿を見せろ」
「はい、ただいま」
マイルスは脱退した冒険者のリストに目を通す。
そして、微かに笑みを浮かべる。
(……こいつらはほとんど全員、これまで俺の障害として機能していた冒険者だ。荷物持ちの方も、殆どが低ランクの雑魚。むしろこれは、素晴らしいことじゃないか!)
「状況は飲み込んだ。だが、たいして騒ぐようなことでもないだろう。俺はクエストに向かうぞ」
マイルスは、ソロで高難度ダンジョンに潜ることを決める。
自分は強い。
唯一敗北を喫した相手……地龍ほどの化け物が、そうやすやすと出てくるはずがない。
そんな根拠のない決めつけが、彼を動かしていた。
「手の空いている荷物持ちは名乗り出ろ! この俺のダンジョン探索に同行させてやる! Sランクダンジョン産の素材を拝ませてやるぞ!」
荷物持ちは腐るほど居る。
こう呼びかければ、すぐにでも立候補する者が現れるだろう。
マイルスは、そんな思い違いをしていた。
「……」
「聞こえなかったのか? もう一度言う。このSランク冒険者、マイルス様の……」
「いい加減にしてくれ! 荷物持ちは全員このギルドから去った。それに、お前はもうSランク冒険者じゃないだろう!」
「……はぁ!?」
マイルスは、このギルドに所属する冒険者の数を、おおよその感覚で覚えていた。
だから、冒険者の中に「荷物持ち」が何人居るのか、正確な数を把握して居なかった。
……この20人で全員だったとは、露にも思わずに。
マイルスは名簿を見た時、「辞めた荷物持ちは殆どが低ランク」という言葉を発した。
事実、その通りだった。
そもそも荷物持ちという職は戦わないという特性上、収納量以外で実力の差が出にくい。
そんなハンデを背負いながらSランク、Aランクまで昇格を果たしたアイラとネイがどれだけ異常な存在か。
……それは、彼らと同じ環境に身を置いた荷物持ちでなければ理解しがたいことだった。
つまるところ、高ランクの荷物持ちは、最初から数えるほどしか居なかったのだ。
「一人も居ないだと? そんな馬鹿な話があるか!」
「あるからこうなってるんだ! こうなったのはお前のせいなんだろ、マイルス。どう責任を取ってくれる。お前が今まで、荷物持ちを雑に扱うから……!」
「ふん、俺のせいじゃねぇよ。荷物持ちが俺たちより劣っているのは事実。そして、お前たちもそれを受け入れていた。そうだろう?」
「「……」」
マイルスの言い分は正しい。
ここに残っている彼らは、ヒューズ達の「選別」で選ばれなかった冒険者。
そのことが意味するのは、彼らもまたマイルスに乗じて荷物持ちを劣等職として扱い、自分たちがその蜜を啜っていたという紛れもない事実だった。
「慌てんじゃねぇ。荷物持ちならそのうち新人が湧いてくる。それまで荷物持ちを頼らないクエストをこなせばいいだけの話だ。低ランクの雑魚は、腕っぷしだけじゃなく頭も使えねぇのか」
「流石マイルスさん、こんな状況でも冷静だ……」
「マイルスさんが残ってくれたのは心強いな!」
(そうだろう、そうだろう。もっと俺を讃えろ!)
マイルスのストッパーとして機能していた人材は居なくなり。
また、マイルスを嫌う冒険者も居なくなり。
ここに残った冒険者は皆、マイルスを尊敬していた。
故に、多少彼の口が悪くとも、多少彼が手のひらを返そうとも、大抵のことは見過ごされていた。
これこそ、マイルスが今まで望んでいた理想の環境。
そのはずだった。
……ヒューズ達が去ってから2日後、【赤い不死鳥】はヒューズの目論見通り「地獄」と化した。
ダンジョンという収入源を断たれた冒険者達による、クエストの争奪戦が起こったのだ。
今や荷物持ちの新人は殆どがアイラを目当てに【蒼い彗星】に流れ、【赤い不死鳥】を視察しに来た荷物持ち希望者もまた、今のギルドの惨状を知ると、その足で【蒼い彗星】へと向かうような状況。
次第にギルドからは荷物持ちを頼らずとも達成できるクエストが減り、そこで起こった暴動はマイルスの手に余るものへと発展して行った。
「おい、もうクエストは無いのか! これ以外は全部素材収集の依頼とダンジョン攻略しか無いぞ!」
「低ランクばっかり優遇してんじゃねぇ! Cランクにも害獣駆除のクエストを回せ!」
「おいお前、それはDランク推奨クエストじゃねぇか! Cランクなんだから、もう一つ上のランクを受けろよ!」
「黙れ、他にクエストがねぇんだよ!」
「あ、あいつ2枚依頼票隠し持ってやがるぞ! クエストは1人一つまでだろうが!」
「おい、卑怯だぞ!」
まさに地獄。
マイルスの背中を見て育った冒険者達。
彼らは他人を思いやるなどという崇高な思想は持ち合わせていない、エゴイストの集まりだった。
マイルスを讃えていた冒険者は一転して、徐々にマイルスを責めるようになっていった。
「何がすぐに荷物持ちの新人が来る、だ! この嘘つきが!」
「荷物持ちを散々酷い目に合わせておいて、そのザマはなんだ! あの時追放されたのがお前なら良かったんだ!」
「ランク詐称の底辺冒険者がよぉ!」
「死んで詫びろや!」
(こいつら、都合が悪くなると、コロコロと手のひらを返しやがって……!)
マイルスは考えた。
どうしたら、この暴動を治めることができるのか。
それには、荷物持ちが居ればいい。
なら、そのために自分はどうすべきか。
荷物持ちのリーダー的存在だったアイラを、呼び戻せばいいじゃないか。
(……落ち着け。背に腹は変えられない。少し、ほんの少しの間だけ自分を殺して、あの野郎の機嫌を取ればいい。それで事態は解決する)
「お前ら、黙れ! これから俺は【蒼い彗星】へ向かい、今日中にアイラを再び【赤い不死鳥】に移籍させる。そうすりゃ、去った荷物持ちも戻ってくる。それで文句ねぇだろ!」
「……荷物持ちさえ連れてきてくれんなら、文句はねぇよ。今度は信じていいんだな?」
「最初から嘘をついた覚えはねぇ」
それなら……と。
クエストに関する暴動は、マイルスのこの発言で一時的に収束を見せる。
だが、【蒼い彗星】での生活に満足しているアイラが、そんなマイルスの誘いを受けるはずもなく。
事態は、これ以上に無いほど悪化することになる。
やっと盛り上がって参りました。
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