ネイの決断
ネイ嫌われてそう(他人事)
まぁでも書かないと話進まないので……
ヒューズから【黄金の剣】への誘いを受けた時、これは避けては通れない運命なのだと感じた。
それこそ、私がマイルスと対立することになるのは、アイラさんと出会った瞬間から決まっていたような気がする。
ごく一部、心から信頼を置いている人々を除き、私は皆に隠していることがある。
私は、人間とエルフの混血……いわゆる、ハーフエルフという忌み嫌われた種族だ。
【弓使い】はエルフの父から、【収納】は人間の母から受け継いだ。
幸いというか、私は母の血を濃く継いでいるらしく、外見は人間とほとんど相違ない。
私は昔から臆病者だった。
人間である母親が里のエルフに罵倒されるのを見て、いつか自分もこうなるのではないかと怯えていた。
自分がエルフにとって目障りな存在だということも、幼いながらしっかりと自覚していた。
その上、私達の家族にはどうしても集落を離れられない事情があった。
母はいつも、こうなることを覚悟でエルフの父と結婚したのだと笑って話していた。
……私には、その気持ちが全く分からなかった。
私はこの居心地の悪い空間から一刻も早く出たくて、15の誕生日に里を出た。
気の毒なほど優しい母が私を探さずに済むよう、戻らない旨を書いた手紙を置いて行った。
ただ、闇雲に走った。
気が変わらないうちに里から遠ざかっておかないと、また母の元へ逃げ帰ってしまいそうだったから。
しかし、生まれてからずっとエルフの里で育った私は、人間社会の常識など知る由も無かった。
……食事をするにも、物を買うにも、宿泊するにも、「つうか」というものが必要らしい。
この時の私は、当然ながら一文無しだった。
仕方なくその日は風通しの良い路地裏で、凍えながら眠りについた。
……しばらくして、誰かの声が聞こえてきた。
『おーい、君。大丈夫? 家はどこ?』
路頭に迷った私を救ってくれたのは、たまたま近くのダンジョンに遠征していた【紅き閃光】だった。
……いや、正確にはアイラさんだけか。
その時の会話は、今でも鮮明に覚えている。
『……その汚ねぇ餓鬼はなんだ、アイラ。まさか連れて帰るつもりじゃねぇだろうな』
『そのつもりだけど。話を聞く限り、この子、帰る家も無いみたいだし』
『どんだけお人好しよ。貧困の子どもなんて、数えきれないほどいるわ。全員に手を差し伸べてたら、助ける側がもたないわよ。放っておきなさい』
『うん、ミリーの方が賢い。それはわかってるけど、これはもう僕の性分みたいなものだからさ。手の届く範囲に居るなら、なるべく見捨てたくない』
『……ここから王都まであと三日はかかる。それまでにこいつが食った食料分、生活費諸々は、分け前から引いておくからな』
『それで構わない』
アイラさんは自分の分け前が減ることを厭わず、ボロボロになった私に食べ物を恵んでくれた。
それだけじゃない。
王都に戻ってからは、ボロボロになった服を買い替え、綺麗な水のシャワーを使わせてくれた。
私がハーフエルフだと知っても、「種族なんて関係無い」と言ってくれた。
……ただ、嬉しかった。
『ネイ、行き場が無いなら、冒険者をやってみない?……と言っても、僕が紹介できる仕事がこれだけしかないって理由なんだけどさ』
『やってみたいです。いえ、やります』
私はアイラさんの誘いに乗り、【赤い不死鳥】で荷物持ちをやることにした。
【弓使い】なら後衛として戦いに参加することもできたかもしれないが、戦闘経験などまるで無かった私は、安全そうだという理由で荷物持ちを選んだ。
勿論、私を救ってくれたアイラさんと同じ役職をやりたかったというのも理由の一つだ。
この時の私の判断は、後に正しいことが判明した。
……というのも、【弓使い】はエルフに極めて多く発現するスキルらしいのだ。
ギルド登録時、当時の副ギルドマスター・ガラムさんにそのことを告げられてから、私は【弓使い】を信頼のおける相手の前以外では使わないことに決めた。
今思うと、私の登録を担当してくれたのが人種に理解のあるガラムさんだったのは、本当に運が良かったと思う。
驚いたことに、翌日にはマイルスは私のことを忘れており、登録を済ませたばかりの私に馴れ馴れしく話しかけてきた。
……この時は、あまりにみすぼらしかった私の外見が今の外見と一致しなかっただけだと考えていた。
事実、それもあったと思う。
でも、最もたる理由は、マイルスは助けた餓鬼がまるで眼中に無かったのだ。
ギルドでのアイラさんは輝いていた。
ずっと人の目に怯えて生きてきた私にとって、誰とでも仲良くなり、誰にでも分け隔てなく接するアイラさんは、まるで太陽のような存在だった。
アイラさんに荷物持ちとしての技術を教わるのも、同期の冒険者とクエストに向かうのも、全てが楽しかった。
自分が忌み嫌われた種族だということを完全に忘れて、人間の一員としてギルドに馴染んでいた。
……あの日、ガラムさんが追放されるまでは。
ガラムさんの追放を機に、私は信頼している相手の前でも【弓使い】を使うのをやめた。
あれだけ慕われていた人物が、「獣人」という理由一つで手のひらを返される。
根強く残る人種差別を目の当たりにして、それが自分のことのように怖くなってしまった。
ガラムさんの次は、私かもしれない。
それにどうやら、人間にとって「混血」は獣人以上に気味が悪い存在らしい。
私が混血のハーフエルフだと知れれば、周りの人間は何を考え、私をどうしようと考えるだろう。
それから私はより一層荷物持ちに固執した。
アイラさんから「弟子」という隠れ蓑を貰い、本来の自分以上に人当たりの良い冒険者を演じた。
敵を作らないために、自分を殺した。
既に種族を知られていて気兼ねなく話せるアイラさんが、私の心の拠り所だった。
……そんな私が、アイラさんが横領に手を染めたということに関して、疑うことを放棄していた。
まして、あれだけ恐怖したはずの【弓使い】を、マイルスの前で惜しみなく使った。
そこでマイルス達が私の種族に勘づかなかったことだけは、不幸中の幸いだった。
それでも、気づかれなければ良いという話では無い。
どうして。
どうして。
どうして。
ここ最近、毎夜同じ夢を見る。
私が放った言葉が、アイラさんの表情を悲痛なものに変える瞬間。
いくら自問自答をしても、何も答えは出なかった。
だから、直接聞こうと思う。
マイルスさん。
普通に正面から尋ねても、卑怯な貴方は何も答えてはくれないでしょう。
だから私は、ヒューズ達に手を貸すことにしました。
あの時の真実を聞き出すために。
本当に自分が、自分の意志であんな行動を取ったのかを確認するために。
アイラさんの無念を、晴らすために。
……まずはお前を、地獄へと突き落とす。
話は、それからだ。
「二重職」の発生条件は両親の種族が違うことです。
一応、ネイの伏線(のつもりだったらしいが、本文中で言及しなさすぎてもはや裏設定)でした。
これはひどい。
ストックが尽きてきたので頑張って書きます……
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