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【赤い不死鳥side】元副ギルドマスターとの交渉

コロコロ場面が変わる関係であと2話ほど文字数が少なめになります。

ご了承下さい。


街角の寂れた酒場に、二人の人影があった。

一人は【赤い不死鳥】のAランク冒険者・ヒューズ。

もう一人は、かつて【赤い不死鳥】をクビにされた副ギルドマスター……ガラムだった。


ヒューズは、【赤い不死鳥】をマイルスの魔の手から解放すべく尽力しているうちの一人。

ガラムとて、それを知らないわけではなかった。



「用件は察している。……だが、例えお前の頼みであっても、俺はもうあのギルドへ戻るつもりはないぞ。あそこまで腐ったギルドはもう二度とごめんだ」



「ガラムさんの気持ちを差し置いて【赤い不死鳥】へ戻れ、などとは言いません。まずは、俺たちの計画の全貌を聞いて頂きたい」



「……話を聞こう」



ガラムは安い酒をひどく不味そうに飲みながら、ヒューズに話の続きを促す。



「俺たちは最初、マイルスとダックを【赤い不死鳥】から追い出すことを第一に考えていました。しかし、これはマイルス達が決定的なボロを出すまで根気強く目を光らせる、いわば他人任せの計画だったんです」



「あぁ、そうだろうな。だが、俺はそれが最もリスクが少ない、利口な方法だと思うよ。影響力や権力で言えば、お前はまだマイルスに劣るからな。何故それを続けない。あまりにマイルスがボロを出さないから、お前たちが根負けしたのか?」



「いえ、状況が変わったからてす。ガラムさんがギルドを去ってから、アイラさんがマイルスによって追放される事件が起こりました」



「……そうか。アイラの奴も、か」



ガラムは、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

声を上げても、周りは誰も助けてはくれない。

かつてアイラと同じ境遇を経験しているガラムは、その理不尽さを身に染みて感じていた。



「俺はまだいい。俺が自分が獣人であることを隠してあのギルドに入ったのは、紛れもない事実だからな。そこにつけ込まれるのは自業自得だ。だが、その口ぶりでは、アイラは違うんだろう?」



「……【赤い不死鳥】では、契約時に自身の種族を報告する義務はなかったはずです。ガラムさんは何一つ悪くないですよ」



「そう言ってくれる奴が多数派なら、追放されたのは俺ではなくマイルスとダックの二人だっただろうがな。種族間の差別ってのは、消えたように見えても根強く残ってるもんだ。……反対に、獣人の国では人間が差別されるのも珍しくねぇ」



「……」



ガラムは「人間国のギルドをスパイしにきた獣人」というレッテルを貼られ、ギルドをクビにされた。

その実態が「ダックの横領記録を掴んだ」ために口封じをさせられたのだということを知っているのは、ガラムと密接に関わっていたほんの一握りの人間しか知らない。

ヒューズもそのうちの一人だった。


だが、仮にそれを知っていても、一人で【赤い不死鳥】ほどの最大手ギルドに罪を被せることは非常に難しい。

故にヒューズは、彼らが言い逃れできないほどの、決定的な証拠を掴む必要があった。



……アイラが、追放されるまでは。



「アイラさんは横領の濡れ衣を着せられ、追放されました。そしてその後、理由は分かりませんが、後を追うようにネイも。……ギルドを不本意に去ったアイラさんには悪いけど、俺はここが転機だと思っています。証拠なんてもう要らない。【赤い不死鳥】の土台を根底からぶっ壊してやる、千載一遇のチャンスです」



荷物持ち(ポーター)のリーダー格の不在、か。ギルドが動揺している今が、お前達の『計画』にとっては都合が良いということか?」



「はい。俺達はいずれ【赤い不死鳥】を抜けます。なんでも、王都の南にある【黄金の剣】というギルドが、冒険者……特に荷物持ち(ポーター)の不足で廃業の危機にある、と。そこで、【赤い不死鳥】から荷物持ちと一部のまともな冒険者を選別し、全員を【黄金の剣】に移籍させて、新生【赤い不死鳥】を立ち上げます。それが、俺たちの計画です」



それを聞いたガラムは、初めて顔に笑みを浮かべる。

だが、それも一瞬。

次の瞬間には、元の険しい顔つきに戻っていた。



「それはいいな。上手くいけば、今まで荷物持ちをこき使ってきたギルドが、荷物持ちの不在に苦しむ絵が見れる。……だが、荷物持ち全員に移籍の承諾を取るのは骨が折れるぞ。彼らの心を掌握していた二人はもう居ない。移籍先となるギルドは全くの無名。多少境遇が悪くても、【赤い不死鳥】のブランドに縋ろうとする荷物持ちも沢山いるだろう。そもそも【黄金の剣】側は、そんなにたくさんの冒険者を一度に迎え入れられる体制は整っているのか?」



「前者に関しては問題ありません。王都の南部は北部に比べてギルドの数が少なく、クエストを依頼したい民に対して冒険者が足りていないのが現状です。後者に関しては……俺も、こんなに都合が良いことがあるのか、と思いましたよ」



「……何だと?」



「ネイは自主的にギルドを去ったようですが、登録の破棄はして行きませんでした。同時に、マイルスもネイが除籍を済ませたと勘違いしたのか、ネイの情報に関してはノータッチだったんです」



「それはつまり……ネイを、呼び戻せるということか」



「本人の意思次第ですが、そういうことです。あとはガラムさん、貴方に【黄金の剣】のギルドマスターの座に就いて頂きたい。向こうのギルドマスターはもう、ギルドを売り払う方向で思考を固めているようでしたから」



「なるほどな。……だが、今は遠慮しておく。二つ返事で話を受けられるほど、その計画が実現性を帯びているとは思わん。もしお前が【赤い不死鳥】の荷物持ち全員の署名を持って俺のところに来たら……そうだな、その時は改めてこの件を考えてやろう」



「えぇ、そうして頂けると助かります」




「代金は俺が払おう。良い話を聞かせて貰った」



ガラムは自分とヒューズの分の代金を支払うと、ヒューズの方を振り返ることなく酒場を後にする。



(……【黄金の剣】に向かったんだろうな。流石、相変わらず行動が早い)



ヒューズは、ガラムという人物をよく理解していた。

だからこそ、今の交渉には手応えを感じていた。



(次はネイの居場所を探って、並行して確実に反マイルス派と分かっている冒険者に計画のことを告げて……そうだ、受付嬢にもまだマイルスの息がかかっていない新人の子が居たはず。彼女にも声をかけないと。やれやれ、やることが山積みだ)



ヒューズは、残っていた酒を一気に飲み干す。

そして、顔をしかめる。



「……道理で、客が少ないわけだよ」



店主に聞こえないようにそうぼやくと、ヒューズはガラムの後を追うように酒場を立ち去って行った。


補足:パーティーの分け前を決めるのはリーダーなので、荷物持ちの全員が全員アイラほどひどい待遇を受けているわけではない、というのも、ヒューズが計画をすぐに実行に移せない大きな理由です。


やっとネイの伏線が回収できそう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 不死鳥が地に落ちる瞬間が楽しみです(≧▽≦)
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