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【赤い不死鳥side】Aランク降格

武器屋の親父さんの名前は「クオーツ」です。

この先作中で登場するかは分かりませんが、一応設定はありますよという話。


「……は? 降格だと?」



マイルスがギルドに戻ってから最初に聞かされたのは、【紅き閃光】Aランク降格の知らせだった。



「はい。【紅き閃光】の貢献値が大幅に減少したことを受け、ギルド協会の一存でSランクの称号は剥奪となりました」



「な……」



全ての公認ギルドは、国が運営する「ギルド協会」と呼ばれる組織に帰属する。

そしてその中で功績を上げたギルドほど、ギルド協会からの援助金や物資の支援をより多く受けられるという恩恵を得る。


功績は素材ポイント、討伐ポイントで数値化された上で一定期間ごとに公表され、そのランキングに基づいた支援が行われる、というわけだ。


今回、【赤い不死鳥】は首位から陥落した。


素材ポイントの大幅な減少。

それは、主力パーティーである【紅き閃光】から荷物持ち(ポーター)が抜けたことが主な原因だと思われた。

その結果を受け、ギルド協会は件の荷物持ち無き【紅き閃光】を、Aランクに格下げという措置を取ったのである。


……Aランクまではギルドの一存でランクを上げられるが、Sランク以上の認定は協会が直接担う。

ゆえに、マイルスといえど不正は許されなかった。



「ふざけやがって。すぐにSランクに復帰して、協会の見る目が節穴だったと思い知らせてやる。サナとミリーの二人はどうした?」



「……………………存じ上げません」



(なら、二人を待ってからクエストを受けるか。いや、その前に剣を直して貰わねぇと)



受付嬢の僅かな沈黙が何を意味するのか、マイルスは深く考えようとはしなかった。

マイルスは武器屋に足を運び、いつものように無理難題をふっかけようとする。



「親父、悪いがこいつを頼む」




「……無理だな。そいつはもう買い換えろ」



「は?」



「前に粗悪なミスリルを使っているといったろ。加工を重ねるごとに脆くなるんだよ。脆くなるだけで、何度でも修復はできる。が、耐久性に欠ける(オンボロ)が出来上がるだけだ」



「……なら、この店で一番安い剣をくれ。今は余裕が無いんだ」



マイルスはアイラと違い、契約形態を自由契約に設定していた。

勢いのある頃はそれで良かったが、ここ最近のマイルスは連日のクエスト失敗で、金銭的に余裕の無い日々が続いていたのだ。



「一番安いものでもそれなりに値は張るぞ。ウチは粗悪品を売る気は無いんでな」



「半額にまけろ」



「……無理な相談だ」



「Sランクパーティー御用達の店。その情報をダシに儲けを出してやったのは誰だ?」



「最近のおまえさんは口先ばかりで、まるで実績が伴っておらん。ワシとて商売人じゃ。今までは利益になるとわかっていたからこそ、多少の粗相には目を瞑ってやった。だがな……はっきり言って、もう潮時だ。このまま【紅き閃光】を押し上げていれば、いずれは矛先がこちらへ向いてくる。はっきりわかるんだよ」



「親父……目が腐ってきたか?」



「目利きもできんで商売がやっていけるか。目が腐ってきたのはワシじゃない。アイラ君を追放したおまえさんの方だ。……今回で最後だ。せいぜい頑張るんだな」



「ふん、最初からそうしやがれ」



武器屋の悲痛そうな表情には目もくれず、マイルスは鉄製の剣を半額で購入する。


そんなマイルスといえど、今の自分が良くない方向へと向かっているという自覚はあった。



(胸糞悪ィ……)



ギルドに戻っても、相変わらず二人の姿は無い。

普段なら、もうギルドに集合している時間。

マイルスは不審に思いながらも、単に少し遅れているだけだと考え、今度は酒場で時間を潰すことにする。



マイルスが席に着くと、突然、隣の席の先客から、並々に注がれた酒を差し出された。



「……何のマネだ?」



「何って、そりゃ……降格祝いだよ。Aランク、おめでとな!!」



マイルスは呆然とした。

そして次に、憤慨した。



「自分が何をしたか、分かっているんだろうな。テメェ……ドルマとか言ったか?」



「天下のマイルス様に名前を覚えて貰えるとは、光栄だなぁ! そうとも、同じAランクのドルマだ! 同格同士、仲良くしようぜ!」



元々マイルスが流行らせた、実力主義の風潮。

それは、マイルス達がSランクという高みに居たからこそ成り立っていた。

だが。

【紅き閃光】がAランクに陥落した今、もはやマイルスの絶対王政など存在しない。

【赤い不死鳥】は今、複数の勢力による無法地帯と化していた。



「……殺す」



「はは、そう殺気立つなって。女二人には逃げられ! 片腕を取られ! 挙句、散々見下してきた『Aランク』には自分が降格して! お前が辛いのは、よぉぉく分かってるからなぁ! ギャハハ……グァッ!?」



「死ィィねぇぇぇぇ!」



マイルスがドルマを殴りつけ、酒場での乱戦が幕を開ける。



「おー、まーたやってるよ。今度は誰と誰だ?」



「……おい、アレ、マイルスじゃねぇか!」



不意打ちで先手を取ったマイルスは、無抵抗のドルマを殴りつける。

何度も、何度も。


最初は面白おかしく茶化していた周囲の冒険者達も、次第に顔を青ざめていった。



「誰か止めてやれ! ドルマが死んじまう!」



「うるせぇ。俺を馬鹿にするやつは、こうだ!」



止めとばかりに、マイルスは手元のジョッキを振り上げる。

が、後ろから手首を掴まれ、マイルスは盛大に酒を被ってしまう。



「やめろ。ここで死人を出す気か」



「……『優等生』ヒューズ。お前も俺を苛立たせるのが上手ぇなぁ!?」



「すまない。酒をかけるつもりは無かったんだ」



……クスクス。


本人からしてみれば悪意のない皮肉に、周囲から失笑が漏れる。



「そういや、アイラを除けばお前とネイだけだったな。この俺に偉そうに指図してくる野郎は」



「これが指図だって?……いや、この際指図の定義はどうでもいい。マイルス、ここでの君の実績は賞賛に値するよ。本当によく、こんなふざけた環境を作り上げたものだ。だが、それももう長くは続かない」



「あぁ?」



「ドルマ君、立てるか?」



「……なん、とかな」



ヒューズはドルマに肩を貸して起き上がらせると、そのまま自然な流れで耳元に囁きかける。



(まだここじゃない。()()()まで、なるべく騒ぎを起こすな)



(すまねぇ、気が逸った。マイルスが降格したと聞いて、居ても立っても居られなくなってな。ざまぁねぇぜ。へへへ……)



マイルスは知らない。

今まで「Sランク」という称号と、「ギルドマスターの弱み」という切り札を元手に、【赤い不死鳥】で独裁を行ったマイルス。

そんな彼とその取り巻きに対して、水面下で制裁を与える計画が進行していることを。



【赤い不死鳥】では今、二つの勢力がせめぎ合っていた。

マイルスを支持するマイルス派。

そして、そんなマイルス派を疎ましく思うヒューズ派。


当然、ヒューズ派には荷物持ち(ポーター)が多かった。

ギルドにおける彼らの力は弱い。

彼らが荷物持ちを格下の存在として扱うマイルスを忌み嫌うのは、至極当然のことだ。


それでも荷物持ち達がこのギルドに留まった理由は、大きく二つある。


一つは、初めての冒険者登録を【赤い不死鳥】で済ませてしまったがために、【赤い不死鳥】以外のギルドの事情を全く知らず、荷物持ちに対してはこの待遇が普通なのだと思い込んでしまうこと。

アイラのようなケースだ。


そしてもう一つは、指導者の充実……()()()

だが、その筆頭たるアイラ、ネイの二人が離脱したことで、徐々に荷物持ちは【赤い不死鳥】に固執して身を置く必要が無くなってきていた。


事実、アイラやネイがギルドを去ってからというもの、【赤い不死鳥】には荷物持ちの新規登録者がほとんど来ていない。

反対に【蒼い彗星】では、これまでの荷物持ち不足が嘘のように、荷物持ちの登録希望者が後を絶えなかった。



ヒューズが目をつけたのは、マイルスが未だに「荷物持ち(ポーター)」という存在を軽んじていること。

そして、アイラの追放を皮切りに、荷物持ち(ポーター)達に少しずつ反抗の意思が芽生えてきたということだった。



(ガラムさん、貴方の意思は俺が継ぎます。……マイルス。お前はこの腐ったギルドに、()()()()()()()()()()()居るといいさ)



この後、彼を筆頭とした反マイルス派によって、【赤い不死鳥】にとある「事件」が引き起こされることとなる。

この時、既にマイルスのギルドでの立場は、崩壊する寸前まで来ていたのだが……

当のマイルスは、その鱗片すらも感じ取れていなかった。




頑張って投稿頻度上げます。

毎日……は無理でも、2〜3日に一話くらいのペースで願わくばランキング復帰を目指したいなぁ……(遠い目)


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