一週間の成長ーシアル編①ー
更新遅れました。
すみません、短編書くのが楽しくてつい……
シアル編が終わり次第、ざまぁの方を進めていきます。
いましばし。
「ここが……」
「我の別荘じゃ。普段は人化して暮らしておる。この山は、竜の姿で暮らすには狭いのでな」
地龍様の背中に乗せられ、物凄い速さで山を登ること、数分。
私は、ディノ様の家に案内されました。
内装は以外にも落ち着いていて、アイラ様のお家ほどではありませんが、中もかなり広いです。
「……さて、改めて、突然連れ出してしまって悪かったな」
「こちらこそ、お招き頂いてありがとうございます。でも、どうして私なんかに修行を?」
「その理由もおいおい説明する。まぁ、座ってくれ。立ち話は苦手なもんでな」
「失礼します」
私は机を介してディノ様と向かい合いました。
……座っているだけなのに、威圧感というか、威厳というか、何やらオーラを感じてしまいます。
「ひとまず、お主が何故魔法を使えるか、という理由についてから話そう。自分の体もよく理解せずに、魔法を上達させるのはまず無理な話じゃからな」
「それは、アイラ様から伝えて頂きましたが……」
「吸血鬼の割に、血液と魔力の結合が弱い、と。では、どうしてあんな馬鹿げた威力の魔法が飛び出てきたのかを説明してみろ」
「え……?」
「魔法が使えた理由についての考察は、我も概ねアイラと同意見だが、それだけでは不十分。まだまだお主には謎が多い」
「言われてみれば、確かに説明できません。それは一体、どうしてなのですか?」
「そもそも、吸血鬼の魔力は人間の10倍程度の密度だと言われておる。極めて不安定な『魔力』という物質で血液を操るには、それだけの魔力が必要だということじゃ。まずはそれを理解しろ」
「はい」
「……ここからは憶測の範囲を出ないが、我の見立てでは、お主の魔力は良くて人間の8倍程度じゃ。それ故に、血液を操るには不十分かつ、吸血鬼ながらも魔法を使うことができた。つまり、お主が人間の要領で魔法を使った結果、人間の8倍の威力の魔法が放たれた、ということだな」
「え、じゃあ、この魔法をコントロールできるようになれば……」
他の人の8倍、アイラ様のお役に立てるということではないのでしょうか?
「できるようになれば、な。本来、高火力の魔法というのは、順々に段階を踏んで辿り着く努力の賜物。お主はそれを全てすっ飛ばして、身に余る魔法の才を開花させてしまったのじゃ。当然、今から求められる努力は常人の比にならん」
「覚悟は、できています」
「いい返事だ。まぁ、今引き返したら死ぬだけだがな。この山には中々強力なモンスターが多い」
……ディノ様、いじわるです。
「そうふて腐れるな。言っておくが、死ぬのは本当だぞ?」
「わかってます。今の私では、下山することは叶わないでしょう」
「いや、下山はできなくはない。お主が先程の魔法をあと一回だけでも放つことができれば、モンスター達は怯えてたちまち逃げていくだろう。……だが、下山した後に、遅かれ早かれ、な」
「下山した後に……?」
「正確には……いや、これは修行が終わってから話そう。今から変に気負われても困る」
いずれにせよ、あまり良い話では無さそうです。
慣れた、とは言いたくありませんが、私が命を狙われるのは、今に始まったことではありません。
……でも、今と昔とでは、状況が全く違います。
今の私に危険が及ぶということは、同時にアイラ様の身を危険に晒す可能性があるということ。
それだけは、絶対に避けなければなりません。
「お願いします。私を、強くしてください」
「……良い目だ。言われなくとも、ここでお主を鍛えることには、将来的に我にも利があるのでな。では、修行を始めよう。場所を移すぞ」
「はい」
私はディノ様に続き、山を下りました。
ディノ様の移動速度はとてつもなく速く、気を抜くと見失ってしまいそうです。
「体の使い方を覚えろ。お主の……吸血鬼の体は、人間よりも遥かに身体機能が高いはず。人化した状態の我についてこれないようでは、先が思いやられるぞ」
「は、はい……!」
しばらくディノ様に食らいついて、私は山の麓付近の、洞窟のような場所へ案内されました。
「ここは……」
「人間達がベルク山を直線で往来できるようにと作ったトンネル……の残骸だ」
「残骸……?」
「どうしてこのトンネルが完成しなかったのかは、先に進めばわかる」
ディノ様はどんどん奥へと進みます。
視界は極めて悪いですが、見えないわけではありません。
夜目の効く吸血鬼だからというわけではなく、トンネルの奥から漏れ出す光が、うっすらと内部を照らしているのです。
「着いたぞ。ここが、お主の修行場じゃ」
「わぁ……」
思わず声が出てしまうほどの絶景。
トンネルを抜けた先には、辺り一面に虹色の鉱石が広がっている、不思議な空間がありました。
「この石は『魔断石』と言って、その名の通り魔力を断絶する性質を持つ。このトンネルが完成しなかった理由がこれだ。いかなる魔道具でも、いかなる武器でも、この石を取り除くことはおろか、傷を付けることすらできなかった」
「凄く綺麗で、宝石みたいです……」
「あぁ。だから、ここでは遠慮なく魔法が撃てるというわけだ」
ディノさんは頭上に手をかざし、魔力を集め始めます。
……凄まじく吹き荒れる、魔力の嵐。
気を抜くと、倒れてしまいそうです。
「……【墜落する彗星】」
ディノ様が手を振りかざすと、どこからともなく現れた巨大な岩石が、炎を纏って魔断石の壁に迫ります。
私は岩石の破片が飛んでくると思い、咄嗟に頭を手で覆いました。
「そう怯えるな。魔断石は、魔力を遮断すると言っただろう」
「……え?」
恐る恐る手を除けると、ディノ様が放った魔法は、跡形もなく消えていました。
当然のように、壁は無傷です。
「当然、今の魔法は加減した。本気で撃てばあの石の1つは砕ける。お主の最終目標は、この魔断石に傷をつけることじゃ。それができるまで、人里に降りることは許さん」
「え、えぇぇぇぇ!?」
「出来ないとは言わせんよ。お前には我以上に魔法の才がある。そしてその才を、これから1週間、我が直々に伸ばしてやるのだからな」
そう言うと、ディノ様は顔に笑みを浮かべまました。
その屈託のない笑顔を見て、やはり人化したディノ様は、美しい方なのだと再認識させられます。
……笑顔の裏に、鬼神のような何かが宿ってさえいなければ。
ディノ様による修行。
これは、なんというか……
大変そうです。
拝啓、アイラ様。
もしかすると、私は一生ディノ様の側から離れられないのかもしれません……
彼女は作者公認のぶっ壊れキャラに育ちそうです……
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