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一週間の成長ーアイラ編①ー

あけましておめでとうございました(過去形)

今年も気の向くままにゆるゆる書いて行きますので、何卒よろしくお願い致します。


Cランクダンジョン「森林のダンジョン」。

僕は今日、このダンジョンにソロで来ている。


本当は普段通りBランクのダンジョンへ行きたかったのが、僕が「荷物持ち(ポーター)」であること、ソロであることを考慮してか、リシェさんに全力で止められた。

僕がソロで行く場合は、せいぜいCランクが妥協点だったというわけだ。


というか、そもそも荷物持ちはソロでダンジョンに潜るような役職ではない。

仮に僕が逆の立場でも反対するだろう。



あの日、クロウさん達と火炎のダンジョンを攻略してから、今日で6日が経つ。

その間僕はというと、ネフィルに空間魔法の基礎を寝る間も惜しんで叩き込んで貰っていた。

ディノさんの言葉通りなら、シアルの修行も今日で終わる。

僕も空間魔法をある程度扱えるようになったので、ここが潮時だろう。


これまでは、町から最も近くに位置するモンスターの生息地(ベルク山)で魔法を練習することが多かったので、実際にダンジョンに潜ったのはこれが初めてだ。


今日は、その集大成となる攻略にしたい。



『はい問題。このフロアにはモンスターは何体いるでしょうか?』



早速、師匠(ネフィル)からいつもの出題。

僕は、周囲の空間に意識を集中させる。


初級魔法【空間探知】。

今まで無意識に行なっていた行為が、まさか空間魔法の一種だったとは思わなかった。



「えっと……15かな。エメラルドフロッグが8体、リーフスライムが5体、ポイズンスネークが2体」



『正解。だいぶ精度が上がってきたじゃない』



「まだまだだよ。魔力操作が上手い()()()()には全く通用しなかったし」


誰かさんというのは、言うまでもなくネフィルのことである。

本気で魔力を抑えたネフィルを相手に【空間探知】を使っても、まるで位置が掴めなかった。

それだけでなく、彼女は魔力でデコイを作り、僕の目を軽々と欺いて見せた。



『そりゃ、精霊相手に真っ向から魔法で挑んでも勝てないわよ。頭を使わなきゃ』



ネフィルにはそう言われたが、魔力をどれだけ抑えようと、そこから魔力が完全に消えてしまったわけではない。

【空間探知】の練度次第では、いずれ彼女を捉えることも可能なのではないかと、僕は淡い期待を捨て切れずにいる。


……仮にそうだとしても、まだまだ道のりは遥かに遠そうだけど。




「ピギィィィィ!!」



そうこう話しているうちに、目の前に緑色のスライムが現れる。

前までは、剣で核を潰して倒してきた相手。

しかし、今日は剣は使わない。



「ピギィ!」



リーフスライムの、鋭いトゲの生えた葉を飛ばす攻撃。

致死ダメージを受けることはほとんどないが、当たると深い切り傷を負ってしまう。



「【不可視の盾(インビジブルシールド)】」



葉は僕の眼前でピタリと静止し、不自然な動きで地面へと落下して行く。


初級空間魔法【不可視の盾】。


名前からはさも強そうな防御魔法のように思えるが、その実、多様な使い方ができる魔法だ。


空間魔法には多様な魔法があるが、その本質は「空間と空間繋げる」ということと、「空間に干渉する」という二点に尽きる。

前者の例を挙げるなら【収納】、後者なら今まさに行なっている【不可視の盾】だ。


そして、僕が前の攻略で散々無意識に使っていた【空間探知】も、ネフィル曰く「空間に干渉する」というカテゴリーに分類されるらしい。



「ごめんね」



僕は【不可視の盾】をスライムの頭上に展開し、圧力で核を押し潰す。

正直、これは倒し方があまりにも惨すぎて、スライムのようなモンスター以外にはあまり進んで使いたい技ではない。

しかし、展開した結界をそのまま動かせるというのは大きい。


水盾(ウォーターシールド)】や【光盾(ライトシールド)】を初め、他の属性にも結界系の防御魔法はいくつかあるが、どれも空間魔法ほど自由が効くものではない。

その上、空間魔法の結界は、完全に無色透明で、文字通りの「不可視」なのだ。


『ここのモンスターは、弱すぎて相手にならなそうね』



「Cランクならこんなものじゃないかな。リシェさんの言い分も尤もだし、仕方ないよ」



『目障りな受付嬢。今後、何もないところで転ばないように気をつけることね』



「目障りって…」



毒舌もさることながら、彼女なら見えない障害物を作ることくらいは簡単にできてしまうのが、更なる恐怖のポイントである。


リシェさん、どうか足元に気をつけて……



『初級魔法程度で倒せる相手ばかりなら、戦っても魔力の無駄ね。こんなダンジョン、早く終わらせて帰りましょう。ベルク山のモンスターの方が、まだいくらか骨があったわ』



……ダンジョンに入る前は僕の成長を見届けるのだと意気込んでいた彼女だが、思いの外モンスターが弱かったことで興味を無くしたらしい。


気分屋なところは、流石「精霊」といったところだろうか。



「はいはい、最短距離で攻略するので少々お待ち下さい」


僕は【空間探知】を用いてモンスターが少ないルートを割り出し、ボス部屋へと向かう。



「ゲコッ!」



「【空中歩行(エアウォーク)】」



すれ違ったカエルのモンスター・エメラルドフロッグは僕に攻撃を仕掛けようとするが、伸ばされた舌の先は、既に何もない空間になっている。


【不可視の盾】の応用。

自分の足元に結界を展開することで、空中に擬似的な足場を作る。

「空を飛んでみたい」という密かな夢は、この魔法によって叶えられることとなった。


僕はモンスターの間を縫うように、或いは飛び越え、どんどん階層を踏破……否、走り抜けていく。

不要な戦闘はなるべく避け、最短距離で。

そうして三階層ほど降りたところで、ネフィルがふと動きを止める。



『別の人間の気配がするわね』



「……本当だ。先客が居たみたい」



ネフィルに言われるまで気付かなかったが、明らかにモンスターとは違う気配が4つ。


ダンジョンで冒険者同士が鉢合わせるのはそこまで珍しいことではないし、狙いの獲物の取り合いにならない限り、特に問題は生じない。

第一、今回僕は素材目当てでダンジョンに潜ったわけではないのだから、なおさらだ。

……などと、思っていたのだが。


いざそのパーティーに近づいてみて、僕はトラブルを回避できないことを悟った。



「賢者の娘というから買ってみたのに、お前はどうして戦わない。とんだ足手まといじゃないか。もういい、ここに一人で残れ。用済みだ」



「……そうですか」



「おい、お前。こいつを痛めつけろ。モンスターから逃げられないようにな。あのカエルの餌にしよう」



「し、しかし」



「やれ。お前もそうなりたいのか?」



「……!」



(え、あいつは……)



間違いない。

あの時、オークションに居た貴族だ。

どうしてあの男が、ダンジョンに?

いや、それよりも、まず僕がすべき事は。



「【不可視の盾】!」

 

カキン。


間一髪のところで、奴隷の少女に振り下ろされた剣が静止する。



「貴族の方ですよね。どうして貴方がこちらにいらっしゃるのですか?」



悔しいが、いくらこいつが奴隷を酷く扱おうと、この国の法律上では何の問題も無い。

奴隷の命は、主の元で認められている。


……だが。

だからといって、この場であの少女を見殺しにすることは、僕にはとてもできなかった。



「ワタシがここに居ることに、何か問題でも?」



露骨に戸惑う様子を見せる貴族。

……自分がどうして話しかけられたのか、本気で理解していないのだ。

僕は怒りで声が震えないよう、平静を装って言葉を続ける。



「ダンジョンは冒険者協会の管轄です。冒険者でない者が、許可なくダンジョンに立ち入ることは禁じられています。ですから……」



「ほう。では、これが何だか分かりますか?」



「……冒険者ライセンスですか。それも、【赤い不死鳥】の」



「ワタシは晴れて、冒険者になったのです。そのためにオークションで【竜殺しの剣】も競り落としたし、戦闘に有望そうな奴隷も揃えました。過去にDランクのダンジョンも攻略済みです。アナタに指図される筋合いはありません」



そう言われて、僕は言葉に詰まる。

貴族が遊び半分でダンジョンに潜って事故に遭うという事例は、過去に何度も発生している。

そして、ランクが一つ変わると、ダンジョンの難易度は急激に跳ね上がる。

Dランクまでは武器の性能で押し切れても、Cランクでは通用しないだろう。



「もういいかね。失礼するよ。……あぁそうだ、君はどうやらその奴隷に興味があるようだし、貰ってくれて構わない。是非、首輪を外してやってくれたまえ」



「……!」



貴族は奴隷達を連れて、ダンジョン深部へと歩みを進める。

彼が「冒険者」としてダンジョンに潜っている以上、仮に命を落としたとしても自業自得なのだが……

あの貴族がモンスターに殺されると同時に隷属の首輪が作動し、所有する奴隷も死ぬような仕組みになっているのが厄介だ。


ひとまず僕は、取り残された少女に話しかけることにする。



「君は確か、オークション会場でも見かけた。あの貴族に買われた子で間違いないよね?」



「うん、そうだよ。今日は吸血鬼さんと一緒じゃないんだね」



「うーん、強いて言うなら別行動かなぁ。一応言っておくけど、僕も彼女が吸血鬼なのは承知の上だよ」



「なんだ、知ってたんだ。残念」



少女の落ち着いた口調に、話しかけた僕の方が逆に戸惑ってしまう。

この子は、死が怖くないのだろうか?



「……とりあえず、首輪外すね」



「あいつの言うことを間に受けちゃダメだよ。首輪を無理に外そうとすると、首輪から刃が出てくるの。あと、所有者から遠ざかっても、脱走とみなされて作動する。最初から、私を助けるつもりなんて……あれ?」



はい、ここで毎度お馴染みの【収納】です。

実は【収納】で隷属の首輪を強制的に移動させられることは、殆ど知られていない。



『いや、そんな芸当ができるのはアイラだけよ』



前言撤回、本当は出来ないらしい。



「………えぇ?」



戸惑いを隠せない様子の少女。

……なんというか、助けたのは良かったが、少し申し訳ない気持ちになってくる。

 


「こ、こんなにあっさり取れるなんて思わなくて、びっくりしちゃった。ありがとう!」



「見かけて放置っていうのも気が引けるしね。本当はすぐにでも地上まで送り届けたいところだけど、あの貴族のことも気がかりだから。とりあえず、一緒に付いてきてくれる?」



「うん、いいよ。なんとなくだけど、その方が安全そうな気がするし」



そう言って、屈託の無い笑みを浮かべる少女。

ここで僕は、少し前から引っかかっていたある「疑問」を問いかけることに。



「ところで、君はノースキルで売りに出されていたけど……」



「……」



しばらくの間、無言の空気が流れる。

どうにも、触れてはいけない話題だったらしい。

これ以上追求するのはやめておこう。



「僕はアイラ。せめて、名前だけでも教えてくれない?」



「クゥ=エルスカーノ。クゥでいいよ。()()荷物持ちくらいしか出来ることがないけど、()()()()()精一杯サポートするね」


普段は僕がクゥの立場なんだけどなぁ……

なんとも、不思議な気分だ。


こうして、僕とクゥによる、即席パーティー(?)が結成された。 




クゥの設定はめちゃくちゃ頭使いました。

次話で吐き出します。


評価・ブクマ等よろしくお願いします!

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