キースの懸念とダンジョンの異変
二章折り返しくらい?
地龍に負けた【紅き閃光】の今後、不死鳥を追放された(されてない)ネイの今後、シアルの修行の進展、オークションの伏線回収……
書かなきゃいけないことが山積みすぎて、どこから着手すべきか……
◆ ◇ ◆キース視点 ◆ ◇ ◆
……おかしい。
さっきアイラがレッドスライムを倒したのを見て、ふと思い出したことがある。
前に俺たちがこのダンジョンの下見に来た時、ダンジョン内部のモンスターはレッドスライムが大半を占めていた。
レッドリザードは、本当に数えるほどしか居なかったはず。
それが今日は、レッドスライムとレッドリザードの数が逆転してはいないだろうか?
俺の考えすぎなら、それが一番良い。
だが、もし俺の勘が当たってしまったら……
何か、ダンジョンに異変が起きているということになる。
「キース、そっち行ったぞ!」
「あ、しまっ……」
「【雷の槍】!キース、ぼーっとしてないで」
「悪ぃ!」
……クソ、余計なことを考えていたばかりに、とんだ失態だ。
もっと集中しねえと。
……しかし、二人もそれほど気にしていないようだし、俺の考えすぎなのか?
確かに、今はまだ、あの時は偶然スライムの数が多かっただけとも捉えられる段階だ。
あくまで俺の憶測の域を出ない。
「右からレッドリザードが来ます!」
また、横から一体か。
もう、さっきと同じミスはしねぇ。
「クロウ、下がってろ!」
今度のレッドリザードの標的は、俺よりも若干前に位置取っていた剣士。
さっきみたいな俺の不注意で、俺自身が負傷するのは一向に構わない。
だが……
どんな理由があろうと、俺は盾役として、このパーティーの仲間にだけは怪我を負わせるわけにはいかねぇんだよ!
「うぉぉぉぉぉ!」
俺はレッドリザードの突進を受け止めるべく、パーティーの前へと躍り出た。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「うぉぉぉぉぉ!」
雄叫びを上げ、キースさんがレッドリザードの突進を受け止める。
「でかした、そのまま抑えとけ!」
「【盾攻撃】!」
「……!?」
援護に向かおうとしたクロウさんの足が止まる。
盾攻撃は、盾を敵にぶつけて後退させたり、脳を揺らして動きを止めることが主な目的。
それ自体が強い攻撃手段、という訳ではない。
結果的に倒せたから良かったものの……
「キース、今のは俺に預ける場面だろ」
「あ、確かにそうだ。すまん……」
「どうした、お前。調子でも悪いのか?」
「い、いや、大丈夫だ。速く行こうぜ!」
……今のも、キースさんらしくない。
あれから更に階層を降りて、次はいよいよボス戦だというところで、キースさんの様子がおかしくなった。
正確には、前の階層で僕がレッドスライムを倒したあたりからだ。
ダンジョンの浅層にいるとき、キースさんが【盾攻撃】を使うのは、相手の勢いを利用してカウンターを当てられる時だけだった。
しかし、今のは明らかに攻撃に前のめりになった、盾役としてはかなり危険な立ち回りだ。
僕は、どうにもキースさんが冷静さを欠いているような気がしてならなかった。
レッドスライムの姿を見て、昔のトラウマが蘇ってしまった……とか?
いや、流石にそれは無いかな。
やはり、この熱さのせいと考えるのが妥当か。
キースさんの集中力の欠如をそう理由付けた僕は、モンスターの気配が無い場所を見計らい、ごく自然なタイミングでこの話を切り出した。
「あの、少しブレイクを入れませんか?」
「……あぁ、確かにここまでブレイク無しで来たし、次のフロアはボス部屋だ。ここで一息つくのが良いかもしれないな」
「そうね。私も魔力ポーションを飲んでおきたいし」
魔力ポーションは、飲めばすぐに魔力を回復してくれると思われがちだが、実はそれほど便利な代物ではない。
理由は単純で、経口摂取した魔力が血液に浸透するまでに若干の時間を要するからだ。
故に、戦闘中に魔力が切れた場合、魔力ポーションを飲んで魔力を補給することはできない。
……ポーションの効き目が出るまで、敵の攻撃を凌げるのなら話は別だが。
そんなわけで、魔道士はボス部屋に入る前にポーションを口に含んでおくのだ。
「タオルです。汗が鬱陶しいでしょうし、今のうちに拭いておいて下さい」
「あぁ、助かる」
「しかも冷えてるわ。本当に気が効くわね」
「あとこれ、ただの水ですが。このダンジョンでは脱水症状が怖いですから、飲んで下さい」
「……それも、収納してきたのか?」
「はい。器に水を入れて収納しただけなので、それほどかさばらないはずですが……」
『はぁ。気付いてないようだから説明するけど、液体は流動性があるから、収納するには固体よりも遥かに大量の魔力を必要とするの。普通の荷物持ちは、水を収納せずに直に持ち歩くわ。そのために水筒が発明されたのよ』
……ネフィルさん、わざわざ解説ありがとうございます。
だ、そうです!
「不思議ね。今まで一緒にクエストをこなしてきた荷物持ちは、水は収納出来ないと言っていたわよ?」
「……まぁまぁ、現に収納できてるんだから、細かい詮索はしなくてもいいじゃねぇか。生き返ったぜ、ありがとよ」
「いえ」
キースさんの機転で、僕は難を逃れる。
別に隠すようなことではないが、僕自身説明できないことを問い詰められても、正直、困る。
ネフィル曰く、僕は皆が考えるような、「普通」の荷物持ちではないらしいから。
僕はこれが普通だと思っていたけど。
(……さて、念のために辺りをもう一度索敵したら、僕もブレイクに入ろう)
ブレイクを取るときは、周囲の安全確認が取れ次第、基本的にパーティーメンバーは装備を下ろし、無防備な状態で体力や魔力の回復に集中することになっている。
これは、モンスターがリスポーンするポイントがある程度決まっているダンジョンならではの休息方法だ。
ダンジョン化していない自然の洞窟などではこうはいかない。
他にも、ボスが定期的に復活したり。
モンスターが時折レアな素材をドロップしたり。
……本当に、ダンジョンには謎が多い。
どうして、自然に出来上がったはずのダンジョンが、これほどまでに人間の都合の良いような仕様になっているのだろうか。
(………………よし、何も居ない)
改めて周囲安全を確認し、僕も持参した水に口をつける。
美味しい。
周囲が熱気に満ち溢れている状況だからか、いつもよりも水が美味しく感じてしまう。
次はいよいよボス戦。
ここまで大きな苦戦が無かっただけに気を抜きたくもなるが、ダンジョンにはイレギュラーが付き物だ。
ここに出現するモンスターの強さはCランクといえど、絶対に油断はできない。
しばしの休息を終え、更に数が多くなったモンスター達を掻き分けること数十分。
僕たちは遂に、ボス部屋の扉の前へとたどり着いた。
ここまで、僕たちは誰一人として、ダメージというダメージを受けていなかった。
怖いくらいに、順調だ。
「もう引き返せねぇぞ。準備はいいな?」
「あぁ……」
「ええ」
「はい」
「よし。……いくぞ!」
クロウさんが扉に手をかけ、それを一気に開け放つ。
……そして、僕たちは凍りついた。
扉の先に居た、本来そこに居るはずのないモンスターに圧倒されて。
「ヘ、ヘルサラマンダーじゃないか! どうしてこんなやつが……!」
レッドリザードを巨大化させたような外見に、背中のラインで常に揺らめく炎。
ヘルサラマンダー。
それは、火の下級精霊・サラマンダーが、何らかの影響を受けて巨大化、そして、凶暴化したモンスターだ。
ネフィルのような精霊とはまた違い、サラマンダーは実体を持った、言うなれば半精霊のような存在。
下級と言えど精霊の力は強く、その脅威度はAランクに認定されている。
「まずいな。これは……」
「すまない、やけにレッドリザードが多いとは思っていたんだ。俺がもっと早くこの違和感を報告すれば、こんなことには……!」
「キースのせいじゃないわよ。私はそんなこと、気にもとめなかった」
「恥ずかしながら、僕もです。すみません」
「これを事前に察しろという方が無理だ。ここにいる人間は誰も悪くない。……それより、来るぞ!」
「ビィィィィィィィ!」
耳を裂くような咆哮と共に、火の玉が打ち出される。
誰もが予想できなかった、Aランクモンスターとのボス戦。
その戦いの火蓋は、ヘルサラマンダーの火魔法によって切られたのだった。
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