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動き出した歯車

ここからちょっとでも気を抜くとすぐ設定にボロが出てきそうで物凄く慎重になってます。

更新頻度は遅いですが、内容は可能な限り深く面白くするので許してください……


「魔法を使ったのは、僕ではなく彼女です」


『……なるほど、妙な魔力だ。その娘、人間ではないな?』


(……!)


いずれバレるとは思っていた。

とはいえ、いくらなんでも見破るのが早すぎやしないか?

……この、一言を交わす僅かな間で、シアルの魔力を嗅ぎ分けたというのか。


『吸血鬼に近い魔力だ。しかし、吸血鬼は魔法を使えない。ならば……魔人か』


言い終わるが否や、地龍の雰囲気が変わった。

恐ろしいほど伝わってくる、地龍の殺意。


(クソ、静まれ……!)


自分の心臓の音をうるさいと感じたのは、一体いつ以来だろうか。

僕はそれを悟られぬよう、平静を気取って地龍と真正面から目を合わせる。


……こういう時こそ、強気に。

絶対に恐怖心を相手に悟らせるな。


「彼女は、魔人ではありません」


『なら、何だ?』


「吸血鬼です」


『吸血鬼は魔法を使えない。嘘を吐くな』


「ついさっきまではそう思っていました。正直なところ、僕たちもかなり戸惑っています。……何より、魔法を放った本人が」


「地龍様、この度はお騒がせして大変申し訳ありませんでした。私は魔人ではありません」


そう言って、シアルは微量ながらも血液を浮遊させ、無理に微笑んでみせる。

……魔力が不足しているせいで、かなり無理をしているのが手に取るように分かった。


『……』


シアルの様子をじっと見ていた地龍は、みるみる人型になっていく。


「その娘が吸血鬼である、というのはひとまず信じよう。話は聞いてやる」


「……!」


良かった、話が通じるタイプの龍だったようだ。


「話を聞いて頂けること、感謝します。どうやら、彼女は普通の吸血鬼よりも血液と魔力の結合が弱いようだったので、僕が試しに魔法適性を調べさせたんです。そうしたら……」


「……あの火柱が起きた、と。事の顛末は分かった。確かに、吸血鬼が仮に魔法を使えると仮定した場合、有り得ない話ではない、が」


地龍はそこで言葉を区切る。

そして、シアルに向けて軽く殺気を放ちながら、威厳を感じさせる低い声音で問いを投げかけた。


「吸血鬼が、どうして人間と共に居る。吸血鬼は人間と共存しない。ヤツらにとって、人間は都合の良い食糧でしかないからだ。お前はどうしてその人間に従う?」



「私が盗賊に捕まり、奴隷として売られかけていたところを、アイラさ……この方が、私を助けた上で保護まで買って出て下さいました。ですので、私はこの方に従っています。他に理由が要りますか?」


「……一切の躊躇無し、か。」



シアルの口から放たれた、迷いや淀みのない真っ直ぐな言葉。

その返答を聞いた地龍は、今度はどこか複雑そうな表情を浮かべる。


「……確かに、我は()()を知っている。だが、それだけだ。そいつを除いて、過去に対峙した吸血鬼からは何の理性も感じなかった」


「……例外?」


「我と古くから友人の、変わり者の吸血鬼が居てな。その娘はそれに次ぐ二人目の例外だったというわけだ。お前たち、名を何と言う?」


「アイラです」


「……シアルと申します」


「そうか。アイラ、お前にはとくに言うことは無い。少々、シアルを借りていくぞ」


「はい……え?」


「あれだけの力を持った吸血鬼を、みすみす放置するわけにはいかんだろう。我が直々に修行をつけてやる。その魔法をコントロールできるようになるまで、下山は許さん」


「……!」


シアルは、判断を仰ぐように僕の方を見る。

……この地龍が、魔法の扱いに長けているのは確かだ。

先程地龍が放った殺気とは、即ち魔力の奔流。

あれだけ濃密な魔力を、地龍は現在進行形で容易く抑えている。


もし本当に地龍が修行をつけてくれるのだとしたら、僕なんかが教えるより、【蒼い彗星】の魔道士の誰かに教えを乞うより、シアルの魔法は遥かに早く上達するだろう。


……とはいえ、相手は未知の存在。

地龍がこの町で人間と友好関係を結んでいることも、「守り神」として讃えられていることも知っている。

しかし、町の人々の評判だけで、この相手を信用しても良いのだろうか?


本当に善意での行動なのだろうか?

何か、地龍に別の狙いがあるのではないか、と、僕は不安で仕方がなかった。


「失礼ですが、僕は貴女を信用していません」


「まぁ、そうだろうな。では、我が力尽くで連れて行く、と言ったら?」


「……貴女と戦います」


「勝てないと分かっていてもか?」


「……」



今の僕では、目の前の地龍には勝てない。

そんなことは分かっている。


仮に僕が【紅き閃光】のパーティーとして挑んだとしても、結果は変わらないだろう。

……その結果を予測できていたからこそ、僕はあのパーティーを抜ける日まで、地龍討伐のクエストに反対し続けていたのだから。



「お前はどこかの冒険者と違って、自分の力量を良く分かっている。だが、勝てないと分かって尚、お前は我と戦おうとしている。何故だ?」


「彼女は僕が守ると約束したんです。自分から持ちかけた約束を違えるくらいなら、限りなく低い可能性に命を賭けます」


「そうか。……ふっ、いつの時代にも、馬鹿は居るものだな。安心しろ、別に悪いようにはしない。我の名はディノ=ドレーク。これで少しは信用して貰えたか?」


「……!」


龍が自分の名を明かすのは、自分が本当に信頼を置いた相手だけ、というのは有名な話。

この地龍……ディノさんは、僕からの信用を得る為に、龍としてのプライドを投げ打った。

ここまでされて尚もディノさん疑うというのは、彼女と敵対するという意思表示でしかない。


「貴女に敵意が無いことは伝わりました。あとは、本人の意思で決めさせたいのですが」


「構わない。我についてくるか?」


「……」


シアルは僕とディノさんの顔を交互に見比べ、暫く思考を巡らせているようだった。

しばらくの沈黙の後、シアルはようやく顔を上げ、そしてはっきりと、僕に彼女なりの「決意」を伝えた。


「私はディノ様のお世話になります。離れるのは寂しいですが、やっぱり、私は早くアイラ様のお役に立てるようになりたいです」


それを聞いたディノさんは、初めて少しだけ口角を上げた。


「1週間だ。それで、並の魔道士を凌駕する実力を身につけさせる」


「そんな、短期間で?」


「我を誰だと思っている。それに、我とて半ば強引に同意させてしまったことは申し訳なく思っておるのじゃ。あまり長く拘束する気はない」


ディノさんは【人化】を解き、シアルに背中に乗るようにと促した。


『……あぁ、そうだ。ギルドマスターには、魔人が出現したが、我の姿を見て逃げ出したと伝えろ。恐らく、相当な騒ぎになっているぞ』


「ご配慮感謝します。シアル、あんまり無理はしないでね」


「はい。それでは、行って参ります」



やがて、シアルを乗せたディノさんは、山へと向けて羽ばたいて行き、やがて、その姿は見えなくなっていった。


……これで良かったのだと思う反面、僕の中にはいくらか虚無感が残っていた。

それは、シアルが居なくなったことに対する寂しさではなく、地龍(ディノさん)に太刀打ちする力の無い自分に対する失望だった。


もし、あの時ディノさんがシアルを拐おうとしていたら。

もし、あの時ディノさんがシアルを殺そうとしていたら。


僕はきっとディノさんと敵対し、そして……赤子のように捻られて死んでいただろう。


自分が【荷物持ち(ポーター)】でさえなければ。

自分にも、戦う力があれば。


(悔しい。悔しい……!)



……アイラはこの日、初めて荷物持ちである自分に強く失望した。

初めて、誰かをサポートするだけではなく、誰かを守れるだけの力が欲しいと願った。



そして、その気持ちに呼応するように、アイラのスキルは急激な変化を起こしていた。


意思が芽生えた、とでも言おうか。

……はたまた、スキルとは別の「何か」が取り憑いたとでも言おうか。


『あぁ、やっと、心の枷を緩めてくれた。そうだよ、アイラ。そうやって、もっと(わたし)を求めるの。そうすれば貴方は、もっと……』


スキルから響く謎の"声"は、アイラの心境の変化を嬉しそうにコロコロと笑う。


……アイラがその"声"の正体を知るのは、その日の夜のことだった。


若干ですが当初思い描いていた構想を修正しているので、不自然な点があればご指摘お願いします。


できればブクマや評価もお願いします!

かなりモチベに繋がります!

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