想定外
文字数少なめなのはストーリー展開の都合上です。
やっとシアルの伏線1が回収できそう……
伏線は他にもいくつか仕掛けてあるので、是非予想しながら読んでみて下さいな。
「……私が、魔法ですか?」
「うん」
突然僕の口からそんなことを言われても、シアルはただ困惑するだけだろう。
僕はシアルに、僕なりの操血術と魔法についての考察を、なるべく丁寧に噛み砕いて伝えた。
「……そういうわけだから、シアルは例外的に魔法が使えると思うんだ」
「えっと、理屈は分かりました。しかし、魔法というのは、練習もせずにすぐに使えるものなんですか?」
「使いこなすには練習は必要だよ。ただ、魔法に適性があるかどうかを調べる方法は簡単で、適性がある人なら、制御はできなくても何らかの変化が起こるんだ。例えば、火魔法なら僅かに火の粉が散るとか」
任意の属性の魔法を頭の中でイメージしながら、魔力を放出する。
これは、魔法の適性を調べたいときに、一番簡単に試すことのできる方法だ。
専用の魔道具を使えば適性を正確に数値化したりすることもできるらしいが、その魔道具は非常に高価で、貴族や王族と関係を持たない限り、お目にかかる機会はまず無い。
この、魔力を放出する方法は、説明を聞く分には誰でも簡単に適性を調べられると思うかもしれない。
……しかし、これがなかなかに難しい。
最初は体外へ魔力を放出する感覚が掴めず、折角適性があってもそこで魔法を挫折してしまう人が非常に多いのだ。
冒険者に魔道士がそれほど多くないのは、決して魔法の適性を持つことが希有なわけではなく、魔力を放出する感覚を掴むのが非常に難しいため。
……なのだが、先程の操血術の様子を見る限り、シアルはどうやら魔力操作を無意識のうちに体得しているらしい。
でなければ、そもそも血液を浮遊させるところからおぼつかないはず。
その第一段階を無意識のうちに突破できるということは、吸血鬼という種族に生まれた彼女の大きなアドバンテージだ。
ちなみに僕は、魔力を放出することはできても、どの属性も何の反応も示さなかったのだが。
……それで、ミリーに呆れられたっけ。
「わかりました。私はどうすれば良いですか?」
「最初は火属性から試してみよう。火をイメージしながら、魔力を放出してみて」
「できるかはわかりませんが……やってみます」
シアルは再び軽く目を瞑り、【操血術】の要領で、器用に魔力だけを放出する。
……予想通り、ここまでは一発で成功。
シアルの魔力操作は、とても今日初めて魔法を試す初心者のものとは思えない。
問題は、ここから何か反応が起こるかどうか。
……さて、どうなる?
僕は期待と不安を胸に、シアルの様子を見守った。
……後に、今このタイミングで彼女の魔法適性を調べたことを後悔することになるとは、この時はまだ露にも思っていなかった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
(アイラ様の話を聞く限りでは、魔法も操血術同様、イメージが大切とのこと。火……あの時見た火は、確か……)
シアルは魔力を放出している間、自分の記憶から「火」という物質を手繰り寄せた。
……彼女が最も印象に残っていた「火」は、追手に隠れていた民家に火を放たれ、その火が徐々に大きな炎となって轟轟と天に立ち昇る様子。
脳裏に鮮明に焼き付いたその光景は、彼女のイメージを補完するには充分すぎるものだった。
……そして、幸か不幸か、シアルにはアイラの想像を遥かに上回る魔法の「才能」が眠っていた。
血液と魔力が強く結びついている完全な吸血鬼では、絶対になし得なかった所業。
同族からも「吸血鬼の恥」と罵倒されたなり損ないの吸血鬼が、その真価を発揮した瞬間だった。
(お願い、燃えて!)
シアルが、そう強く念じた瞬間。
……目の前の平原が、焦土と化した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「………………」
僕は、目の前で立ち昇る火柱を見上げて、ただただ呆然とするしかなかった。
シアルの魔法が消え去った後の草原は、見るも無残な姿に変貌を遂げていた。
火柱が直撃した部分の草は尽く焼き付くされ、よく見ると微妙に地形までもが歪んでいる。
(……はっ、ボーッとしてる場合じゃない!)
僕は【収納】しておいたありったけの水を放水し、辺り一帯に飛び火した炎を鎮火した。
ストックしておいた非常用の飲料水の殆どが無駄になってしまったが、これは仕方のないこと。
「……いきなり、あんな大魔法を撃たれるとは思ってなかったよ」
「……あ、あの、ごめんなさい。こんなに強い魔法が出せるとは思ってなくて」
そう言ったシアルの表情からは、申し訳なさそうにしながらも、どこか喜びが伺える。
魔法……とりわけ、戦いに生きる能力への活路が見えたことが大きいのだろう。
周囲の鎮火を確認し、ようやく僕は肩を撫で下ろした。
魔法が上に向かって放たれてくれたことは、せめてもの救いというべきか。
もしも地面と平行に放たれていたら、この平原一帯が跡形もなく消し去られた可能性が……
もしかすると僕は、何かとんでもないことを助長してしまったのかもしれない。
「あれ、アイラ様、なんだか、体に力が入りません?」
「……魔力切れかな。あれだけの魔法を使ったら、そりゃそうなるよ」
もし、あれを連発できたらと思うと……少し、ゾッとする。
僕は背筋が寒くなる感覚を覚えた。
……それは最初、シアルの魔法に対して湧き出た感情なのだと思っていた。
だから、反応が遅れた。
徐々にその感覚が強くなっていると気づくまで、それの接近に気づかなかった。
『そこの人間、答えろ。今の魔法を使ったのは、お前か?』
「……え?」
……この町の「守り神」にして、最強の種族の一角・地龍。
恐ろしく強大な存在が、僕たちの前に立ち塞がった。
なるべく自分の中で構想を纏めてから投稿したかったため、同時進行で一気に3話分の下書きに着手していました。
今週は更新多めになるかもです。
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