【赤い不死鳥side】vs地龍③
お久しぶりです。
今日からまた不定期更新(週1〜2?)します。
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「マイルス、どう使ったらこの剣が短期間でここまで痛むんだ。お前さんが客として金を落としているうちは文句は言わんが、いくらなんでも剣を酷使しすぎだ」
「うるせえな。それは、俺の剣の扱い方が下手だって言ってるのか?」
「そうは言っておらんだろう。ただなぁ……いや、しかし、これを言うのは……」
「なんだよ、親父。勿体ぶってんじゃねぇよ」
「……マイルス、多分、【獄炎剣】のことを言っているんだと思うよ。過剰に魔力を込めすぎて、剣に負荷がかかっているんだ」
「はぁ? お前何を言って……」
「流石の観察眼じゃな。アイラ君の言う通りだ。その剣は確かに魔剣士用に魔力を通しやすい構造にはなっているが、不純物の多いミスリルでは、一気に多量の魔力を込めると剣が痛みやすくなってしまう。……ワシとて、お前さんが折角編み出した技を頭ごなしに否定したくないのだ。否定したくはないのだが……」
「つまり、【獄炎剣】は使うなってことか?」
「……まぁ、つまるところはな。使うとしても、良くて7割程度の魔力に留めてくれ。あるいは、より高純度のミスリルを使った剣に持ち変えろ。でないと、いつか壊れるぞ」
(ミスリル製の剣はちょっとやそっとで手が届く値段じゃねぇ。この剣も一応ミスリル製だが、運良くダンジョンで手に入っただけだ。……ここは、親父の言うことを聞いておくのが利口か)
「フン、仕方ねぇな。……そもそも【獄炎剣】は奥の手だ。そんな大技を使わなくとも、剣聖の俺にさして支障は無いさ」
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【紅き閃光】がまだSランクに上がる前、マイルスは武器屋の店主とそんな会話を交わしていた。
今と変わらず気性は荒かったものの、この頃のマイルスはまだいくらか冒険者として、人としての常識を持ち合わせており、当時の彼は店主の言いつけ素直に聞き入れた。
そして、極力【炎剣】を始め、低魔力の技で敵を倒すように心がけていた。
……今日、ついさっきまでは。
地龍が倒せないことへの焦り。
そして、一太刀くらいならばさして剣に影響はないだろうという都合の良い思い込みが、マイルスの判断を狂わせた。
マイルスは、剣にありったけの魔力を込めて地龍の魔法を迎撃した。
一度目の【風の斬撃】で僅かに亀裂の入った剣に、本来この剣には想定されていない魔力量。
……ダメ押しとばかりに、迎撃したのは地龍による馬鹿げた威力の魔法。
これだけ条件が揃っていれば、剣が折れることは必然だったといえる。
「クソッ、俺の剣が……!」
マイルスは左手で折れた剣の半分を拾おうとして……そこでようやく、自分の左腕が、肩先から綺麗に無くなっていることに気づいた。
「お、お、俺の腕が、無い?」
マイルスは咄嗟に足元に視線を落とす。
そこにあったのは、無気力に横たわっている、血の気の抜けた肌色の物体。
それがかつて自分の腕だったものだと理解したとき、マイルスは発狂した。
「あぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!! サナ、治せェ! 俺の腕を治してくれぇ!」
「む、無理です! 私の魔法では、欠損した部位は治せません!」
「無能がぁぁぁ! ミリー、俺を助けろォォォ! 痛え、痛えよぉぉぉぉ!」
……ミリーは、回復魔法を使えない。
しかし、それでもマイルスは、ミリーにすがらずにはいられなかった。
藁にもすがるとは、まさにこのこと。
マイルスは痛みに悶え、地面をのたうち回った。
(……無様だな)
地龍は、そんなマイルスを無感情に見下ろす。
今のマイルスには、もはやSランク冒険者としての威厳も面影も残っていない。
……そして、それは他の二人も同様だった。
ダンジョンで格下のモンスターばかりを狩り続け、自分たちこそが最強だと思い込んでいたサナ、ミリーもまた、地龍の持つ本物の強さを目の当たりにし、恐怖という感情が芽生えはじめていた。
地面を転げ回るマイルスを横切り、地龍はゆっくりと二人の方へと歩みを進める。
「ひ……い、いや、来ないで……!」
「だ、だから、撤退しようって言ってたじゃない! なんなのよ、あの剣聖まがいの男は!」
ミリーはありったけの魔力を周囲に放出しながら、魔法を形成し始める。
「いいわ、私が直々に葬ってあげる!」
『ほう。自分の魔力を盾にすることで、我の【魔力嵐流】を一時的に打ち消しているのか。……だが、惜しいな。人間のお前の魔力量では、そう長くは持たんだろう?』
地龍は少しだけ感心したような態度を示した後、ミリーとサナにむけて三度目となる【風の斬撃】を放った。
その斬撃は、マイルスの片腕を葬ったものよりも遥かに広範囲。
……既存の魔法を自己流にアレンジし、魔法の範囲や威力を自由自在に操る。
ごく一握りの魔道士にしかできない高度な芸当を、地龍はいとも容易くやってのけた。
(この、化け物が……!)
ミリーは、初めて対峙する自分より遥かに高位の魔法使いに、恐怖という感情を自覚した。
しかし、ミリーは湧き上がる恐怖心を抑え込み、最後まで地龍に対して高圧的な態度を貫いた。
そしてそれは、結果として見事に地龍の目を欺くことに成功した。
……そう、彼女は、最初から地龍と戦う気など毛頭なかったのである。
「馬鹿ね、魔法はカムフラージュよ。動きなさい、【転移のスクロール】!」
刹那、ミリー、サナの体が白い光に包まれ、地龍の前から忽然と二人の姿が消えた。
地龍に攻撃魔法を発動すると見せかけ、裏では緊急用の【転移のスクロール】に魔力を注いでいたのだ。
……ミリーは、ノータイムでマイルスを捨てて逃げるという判断を下した。
冒険者の世界では、助からないメンバーを見捨て、一人でも多く生き残る策をとるということは、必ずしも間違ったことではない。
しかし、地龍はここまで躊躇なく剣士を切り捨てることは想定していなかった。
『してやられたな。まぁ、わざわざ町まで深追いする必要はあるまい。さて……』
「や、やめろ! あ、あの二人を見逃したんなら、俺も見逃してくれ! な、なぁ、いいだろ!?」
『随分と都合の良いことを言う。敵意を持って向かってくる者には容赦はしないと言ったはずだ』
「い、いやだ、いやだぁぁァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
マイルスは二度目となる発狂を終えた後、糸が切れたようにその場に倒れ伏した。
大量出血と痛み、過度な恐怖が相まった結果だ。
『……気を失ったか』
地龍はマイルスが気絶していることを確認すると、その巨体をみるみる人形へと変えていく。
(【蒼い彗星】のギルドマスターには、少しばかり忠告をしなければなるまい。さて、この男はどうしたものか……)
ここで止めを刺すか、治療してギルドまで連れていくか、この場で放置するか。
地龍は少し悩んだ末、マイルスをこの場に放置しておくことにした。
(あれだけ忠告したにも関わらず、上位種族である竜種に挑んだのだ。我が情けをかける義理はない。貴様もこうなることは覚悟の上だったのだろう? なぁ、未熟な剣士よ……)
地龍は背中に翼を顕現させると、そのまま遥か上空へと飛び上がった。
……メリーズの町にある冒険者ギルドは、【蒼い彗星】のみ。
地龍は、王都からはるばる【赤い不死鳥】のパーティーが討伐に来ていることなど知る由もない。
故に地龍は、マイルス達が【蒼い彗星】に所属している冒険者だと信じて疑わなかった。
(全く、契約不履行はいただけないな。確か今代のギルドマスターは、頭の切れる男だったはずなのだが……)
地龍は、【蒼い彗星】のギルド目がけて猛スピードで山を下り始めたのだった。
2週間以上放置したのが悪いとはいえ、ブクマが100件近く剥がれていて軽く凹みました……
その100人がまた戻って来てくれるようなストーリーに仕上げたいものですね。
ここから心機一転して頑張りますので、今後とも是非よろしくお願い致します!
よければブクマ・評価等もお願いします!
長文失礼しました!




