【赤い不死鳥side】vs地龍②
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「はぁぁぁぁぁ!」
マイルスの剣が魔法によって炎に包まれ、うなりをあげて地龍の胴に迫る。
……が、地龍はそれを一瞥しただけで、その場からピクリとも動かなかった。
動く必要が無かったのだ。
ガキン、と、まるで金属同士がぶつかったような音が響く。
「なっ……硬え!?」
胴体を両断するつもりで攻撃を放ったマイルスは、鉄を殴ったような感触に驚愕した。
『……竜種の中でも地龍は特に耐久力に優れた種。お前のようなひよっこの剣に傷を付けられるほど、やわではない』
「ひ、ひよっこだとォォォ!?」
地龍の言葉にマイルスは激昂し、今度は【炎剣】を連続で何度も放つ。
しかし、その全てが硬い皮膚に阻まれ、地龍にダメージらしいダメージは通すことはできなかった。
(俺は【剣聖】だぞ……! それなのに、どうして生身の龍が斬れねえんだ、クソが!)
自慢の斬撃が、地龍には尽く通用しない。
マイルスの苛立ちは徐々に大きくなり、それに伴って力任せに剣を振るようになっていった。
……怒りから剣筋が鈍り、マイルス本来の斬撃よりも遥かに威力が低下している。
しかし、当の本人はそれに気づいていない。
なぜなら、力んで剣を振っているせいで、マイルスの手に伝わる振動……すなわち手応えは、普段よりも大きくなっていたのだ。
「ハァ、ハァ、さっきより手応えアリだ。こんだけ斬り込めば、あの忌々しい龍だって、少しは……」
『気は済んだか、未熟な剣士よ。 お前たちの攻撃は、我には一切通用しない。最後の警告だ。大人しく引き返せ』
「なっ……」
渾身の連撃を無傷で受け切った地龍の姿を見て、マイルスはまたも驚愕した。
(なぜだ! 俺の剣が通用しない? そんなはずはない!……そうか、こいつは物理攻撃耐性に特化しているんだ。物理攻撃に強いだけで、魔法には滅法弱いんだ! そうに違いない!)
まだ奥の手を残しているとはいえ、地龍には自分の剣が全く通用しない。
マイルスは自身のプライドが傷つくことを恐れ、根拠の無い仮説を無理矢理自分に信じ込ませた。
……自身の剣に炎魔法が付与されていたことを考えれば、地龍が魔法耐性にも秀でていることは容易に予想できたというのに。
「おいミリー! 恐らくあいつは魔法が弱点だ! お前の魔法で止めをさせ!」
「はぁ!? 無理言わないでよ! 地龍の魔力が強すぎて、私の魔力も乱されているのよ! とても魔法を形成する余裕なんて無いわ!」
……実はミリーは先程から、マイルスを援護しようと何度も魔法の発動を試みていた。
しかし、その全てが失敗に終わった。
ミリーの魔法を妨害したのは、地龍を中心に吹き荒れている、濃い魔力の嵐だった。
その魔力の嵐に阻害され、ミリーは今まで思うように魔法を発動できなかったのだ。
「ね、ねぇマイルス、一度撤退しましょう? 私の魔法もろくに使えない上、あんたの剣も効かないんじゃ、とても勝ち目は無いわ。一度町に戻って、あの龍を倒す方法を考えるのよ。今なら見逃してくれるって言ってるしーー」
「あぁ!? 敵の言うことを真に受けてんじゃねぇよ! 大体、俺の剣が効いてないはずがねぇ、あの龍が強がっているだけに決まってんだろ!……もういい、地龍は俺一人で倒す!」
マイルスはミリーの提案を一蹴すると、再び地龍に向き合い、剣を構え直す。
自分より強い者がいるという事実を認めてはおけない。
普段はパーティー全体のモチベーションに繋がっているマイルスの極度の負けず嫌いが、完全に裏目に出た瞬間だった。
「地龍よ! 俺はここでお前を倒し、更なる高みへと登ってみせる!」
『これだけ慈悲を与えたというのに、あくまで我と敵対することを望むか。……残念だ。【風の斬撃】」
地龍は呆れたような声音でマイルスに語りかけると、風の初級魔法【風の斬撃】を発動した。
「……はぁ? 初級魔法だと?」
今度は、マイルスが呆れたような声を出す。
地龍が自信ありげな発言をしていた手前、もっと上位の魔法を使ってくると考えていたからだ。
(そんなお遊びの魔法で、俺が倒せるかよ!)
マイルスは目前に迫った魔法の斬撃に狙いを定め、剣を振り下ろす。
しかし、マイルスが【風の斬撃】を断ち切るつもりで振るった剣は、空中でピタりと動きを止めた。
「……う、うぉぉぉぉぉ、なんだ、これ……」
地龍の放った風魔法は、分類上では「初級魔法」に判別される。
初級魔法は魔法適性が判明した者が最初に覚える魔法で、消費魔力が軽微な代わりに、大した威力は出ない……というのが一般的な認識だ。
しかし、地龍の放ったそれは、とても初級魔法などとは言えないような威力だった。
「初級魔法如きに、俺の剣が弾かれてたまるかぁぁぁ!」
……ピシッ。
地龍の規格外な魔法に押し負けてたまるかと、マイルスの剣を持つ手により力が入る。
しかし、それでもまだ、地龍の魔法には押し負ける。
「【力の加護】!」
「サナか、助かった! うぉぉぉぉぉ!」
ドシン、と、マイルスの剣が勢いよく地面に振り下ろされる。
サナが【聖女】のスキルを用いたバフをマイルスに付与し、なんとか魔法を相殺することに成功したのだ。
「どうだ、防いでやったぜ! 次はこっちの番だ!」
『……初級魔法程度にここまで苦戦していながら、まだ我に挑むというのか。理解し難いな』
「抜かせ。次の俺の攻撃でお前の首と胴体は泣き別れだ。今のうちにこの世に別れを告げるんだな」
そう言うとマイルスは、剣に自分のありったけの魔力を溜め始める。
【炎剣】では地龍に傷をつけることができないと判断したマイルスは、己の全魔力を消費した大勝負に出ることにしたのだ。
「できればこの技は使いたくなかったぜ。 武器屋の親父からも、なるべく使うなと念を押されてたんだ」
『……哀れな弱き人間よ、楽に逝かせてやろう。【風の斬撃』
「お前が死ね、このクソ龍がぁ!」
「【素早さの加護】!」
サナの支援を受けたマイルスが、地龍の初級魔法を掻い潜り、再び懐へ潜り込むことに成功した。
(よし、かわせた! 貰った!)
「これで終わりだぁ! 【獄炎剣】!」
「【力の加護】! 【魔法の加護】!】
『……【風の斬撃】』
(懲りずに初級魔法か。……馬鹿め、その魔法ごと斬り裂いて終わりだ! 死ねェェェェェ!)
【炎剣】よりも遥かに多くの魔力を消費する奥義【獄炎剣】に、サナによる2種類の強化魔法。
これを喰らって五体満足でいられるはずがない。
ミリー、サナ、そして技を放ったマイルスは、完全に勝ちを確信していた。
……しかし。
パキン、という呆気ない音が、静かな森に響く。
地龍の魔法とぶつかり合ったマイルスの剣は、真っ二つに折れていた。
「え……?」
【風の斬撃】はその勢いのままマイルスに迫る。
マイルスは咄嗟に身をひねって魔法を避けようとするが、その体勢からでは完全に避けることはできない。
辺りに、鮮血が飛び散る。
サナとミリーが顔を青ざめる。
……魔法の斬撃に貫かれたマイルスの左腕は、彼の意思に背いて宙を舞っていた。
竜と龍は基本的に同じですが、「龍」の方が格が高いという(裏)設定があります。
発音が同じで説明が難しいので、多分本編で扱うことはないです。無事お蔵入りです。悲しい。
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ものの数秒で終わる作業ですので…!




