【赤い不死鳥side】vs地龍①
大遅刻(常習犯)
多分このクエストに関しても色々疑問点あると思いますが、今後の話で説明される(はずな)ので。
先に言っておくと依頼主の貴族もク○です。
マイルス視点
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
地龍の居るベルク山に向かうべく、俺たちは王都の隣に位置する町「メリーズ」へと足を運んでいた。
「ここがメリーズ……王都と違って、随分、閑静な町ですね」
「腰抜け集団『蒼い彗星』が本拠地を置いてるからな。冒険者が冒険者なら、町も町ってワケだ」
「そうね。『碧の息吹』と『赤い不死鳥』にはSランクパーティーがいるけど、『蒼い彗星』だけはAランクが最高だもの。三原色の中では落ちぶれたギルドだし、町が寂れるのも仕方ないわ」
「全くだな。そういえば、風の噂でアイラの野郎が『蒼い彗星』に移籍したと聞いた。クエストが終わったら、地龍の討伐証明部位を拝ませてやるか。きっと、泣きながら土下座するぜ。『かつての自分はこんなに凄いパーティーに寄生していたんだ。なんて、自分は愚かだったんだ!』ってな!」
「あははは、マイルスったら、いい趣味してるわね」
「それであの人が、少しでも改心してくれると良いのですが……」
「ちょっとサナ、それはアイラに甘すぎじゃない? あんな奴に改心する機会を与えるのも勿体ないわ。一生苦しめればいいのよ」
「お前も大概じゃねぇか」
「……アンタよりはマシよ」
全く、何故あのギルドが「赤い不死鳥」と肩を並べているんだか。
そこに役立たずのアイラが加わって、ますます業績が落ちることは目に見えているというのに。
「……まぁいい、さっさとベルク山に行くぞ。どうせ、『蒼い彗星』の奴らじゃ、地龍は倒せねぇ」
たまたま依頼主の貴族が「赤い不死鳥」と素材売買の契約していたというのもあるが、仮にベルク山から近い「蒼い彗星」にこのクエストを依頼していても、彗星の奴らはこのクエストを達成できないだろう。
俺たちのいるギルドに依頼したというただ一点において、依頼主の貴族は冒険者を見る目があると言える。
蒼い彗星のギルドを横切り、更に真っ直ぐに道を進むと、前方に大きな山が姿を現した。
「あ、あの山じゃない?」
「あぁ、間違いない。この辺りにはベルク山以外の山は無いはずだ」
日暮れまでには王都に戻りたいところだ。
一つ心配なのは、地龍が思いの外強かった場合……ではなく、ヤツがすぐに見つかるかどうか。
【紅き閃光】に、敗北などありえない。
俺たちは、意気揚々とベルク山へと足を踏み入れた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「……狼風情が、ちょこまかと動くんじゃねぇ!」
マイルスが何度も剣を振り下ろし、ようやく遭遇したホワイトウルフの最後の一体に剣が命中する。
「クソッ、やはりコイツは剣とは相性が悪いな……」
……マイルスはこれまで、【剣聖】のスキルに物を言わせた力業で戦ってきた。
閉鎖的な空間の多いダンジョン内では、この脳筋戦法が見事に噛み合っていたため、マイルスは普段、戦闘で頭を使うことが少なかった。
ホワイトウルフとはダンジョンで何度も戦っている【紅き閃光】だったが、アイラ一人を除いては癖や習性を探ることはせず、各々のスキルや広範囲魔法に頼った力技でそれらを撃破していた。
……しかし、ここはダンジョンではない。
当然、広いフィールドほど、素早さの高いモンスターがその真価を発揮する。
まして、この森はホワイトウルフの縄張りだ。
全方位どこからでも現れる敵に翻弄されたマイルスは、ホワイトウルフになかなか剣を命中させることができなかった。
「……少し牙がカスっちまった。サナ、回復を頼む」
「はい。……【ヒール】!」
サナが回復魔法を使うと、マイルスの傷口に光の粒子が集まり、たちまち傷口が埋められていく。
「ミリー、どうして魔法で援護しなかったんだ! いつもこいつらに遭遇したときは、お前の広範囲魔法で一帯を吹き飛ばしていただろうが!」
マイルスは怪我をしたことに対する当てつけのように、ミリーを怒鳴りつける。
「魔法の範囲にマイルスが入ってたから撃てなかったのよ! 第一、マイルスがあの狼にもっと早く気づいていたら、遠距離から楽に潰せたじゃない!」
「……あぁ!? 俺が悪いって言うのか!?」
「あんたが先頭歩いてんだから、前方の確認くらいしておきなさいよ!」
「……ま、まぁ、ホワイトウルフは倒せましたし、ここで仲間割れするのは良くないですよ。ね?」
サナがなんとかその場を収めたものの、パーティーの雰囲気は重苦しいものになっていた。
地龍を討伐しに来たはずが、山道の雑魚モンスターを相手に手こずっている。
その事実が、マイルスにとっては耐えがたいものだったのだ。
ミリーもミリーで、普段とは勝手の違う戦闘に戸惑っていた。
いつもより格段に狙いづらい標的に加え、激しく動く味方への誤発にも注意しなければならない。
ダンジョン外での戦闘に不慣れな【紅き閃光】は、本来の実力を発揮することができなかった。
……加えて、壁役の欠如。
バランスの良いパーティーが「攻撃役」「壁役」「回復役」の三つの役職が揃ったパーティーとされているのに対し、今の「紅き閃光」には壁役を担える人材がいない。
かつてはアイラが【回避】を活かしてそれに近い役割をこなしていたのだが、あろうことか、マイルスはアイラを追放し、臨時メンバーも雇わずクエストに出発してしまった。
……ダンジョンならば、それでも良かった。
あまり大人数で潜入すると、味方が別の味方の攻撃を阻害してしまう恐れがあるためだ。
しかし、広い空間で多数の敵と戦うのに、3人という人数はあまりにも少なすぎた。
「……地龍に辿り着くまでの辛抱だ。温存していた【炎剣】さえ使えば、どんな敵だって問題ねぇ。あの狼とだって、ダンジョンでは魔剣士として戦っていたからな」
マイルスは、自分に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
今までダンジョンで何度も倒してきたはずのモンスターに苦戦するなど、彼にとってはあってはならないことなのだから。
「私も魔法を使っていないから、結果的に見れば魔力を温存できたわ。……マイルスには悪いけど」
「地龍にぶつけてくれ。一気にカタをつけるぞ」
「えぇ」
マイルス達は、山の中腹へと足を進める。
ホワイトウルフに遭遇して以降、【紅き閃光】は何の足止めもなく山頂への道のりを進んでいた。
「やけにモンスターが少ないな。俺たちに怖気づいたのか?」
「きっとそうですよ。ホワイトウルフとの戦闘を見て、敵わないと踏んだのでしょう」
サナの言葉を聞いたマイルスは、先程の態度が嘘のように上機嫌になる。
「……ふっ、そうだな。この山で一番素早いモンスターのホワイトウルフでさえ、俺の剣を避けることで手一杯だったんだ。それを見た他のモンスターが怖気付くのもわからんこともない」
「違うわ。私の魔力量に恐れをなしたのよ。強いモンスターほど、強い魔力には敏感だから」
……何気なく言い放ったミリーの言葉は、確かに的を射ていた。
普通に考えて、ホワイトウルフを相手に苦戦するパーティーなど、それより強いモンスターにとっては絶好の獲物でしかない。
ホワイトウルフより素早いモンスターなど、この山には無数に存在する。
なぜ、マイルス達は道中、ホワイトウルフ以外のモンスターに襲われなかったのか。
答えはものすごく単純で、彼らもまた、捕食者から逃げていたのだ。
【紅き閃光】が山頂へ到達する前に、突如としてそれは現れた。
「「グォォオォォォォォォ!!」」
咆哮で空気が震える。
木々が揺れ、鳥達が一斉に空へ飛び立つ。
その咆哮の主の姿を認めたマイルスは、顔に満面の笑みを浮かべた。
威圧感を放つ、一匹の竜。
紛れもなく、今回のクエストの標的ーー地龍だ。
「……向こうからお出ましってわけか。わざわざ山頂まで行く手間が省けたぜ!」
「頑張って下さい、マイルスさん。私も後ろから回復魔法で援護します」
「…………!」
マイルスとサナは、地龍の出現に喜んだ。
……が、その後ろでミリーは顔を青ざめていた。
職業柄、2人よりも魔力の流れに敏感な彼女は、地龍の異常な魔力量を察知したのだ。
『……妙な気配を感じてみれば、ただの人間とはな。興が削がれた』
「へぇ、喋れるのか。大口叩いてられんのも今のうちだぜ。お前は今から俺に倒されるんだからな!」
……人語を介する竜は、そのほとんどが数千年の時を生きている個体だ。
しかし、これまで情報収集をアイラに丸投げし、自分たちこそが最強だと信じて止まなかった「紅き閃光」のメンバーの頭脳からは、そんな、誰でも知っているような常識すらもが欠如していた。
連携の取れないリーダーに、すっかり恐怖心を煽られた魔道士、攻撃手段を持たない回復役。
この地龍を相手にパーティーが機能しないことは、一目瞭然だった。
『大人しく引き返せ。こちらと敵対する意思が無いなら、お前たちの命を奪う気はない』
「そりゃぁ、無理な相談だな。俺たちはお前の死体に用があるんだ。……いくぜ、地龍! 【炎剣】!」
……マイルスの雄叫びと共に、【紅き閃光】にとってはとても勝機の見えない戦いの火蓋が、今、切られた。
ホワイトウルフは素早いですが、動きに癖があるので見極めれば比較的楽に倒すことができます。
マイルスが苦戦し、クロウがすんなり倒していたのはそういうことです。
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