【赤い不死鳥side】地龍討伐へ
Twitterで「明日更新します!」と告知して日付が変わってしまった薄氷氏だが、寝るまでが一日だと思っている彼は全く反省する気が無いのだった……
※マイルス視点
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「すみません、僕は既にパーティーを組んでいますので、折角のお誘いですが……」
「後悔しても遅いぞ。俺たちのようなSランクパーティーから直々に声が掛かったのだから、そんなBランクパーティーなんかより……」
「マイルスさんのおっしゃる通り、確かに僕らはまだまだSランクには程遠い。それは紛れもなく事実です。ですが、僕はこのメンバーで戦えることを誇りに思っています。マイルスさんのお誘いには乗れません」
「……そうかよ」
……これで、5人目か。
ネイに変わる荷物持ちのスカウトは、少し、いや、かなり難航していると言っていい。
有能な荷物持ちは既にパーティーに所属しており、俺が直々に声をかけても中々首を縦に振ろうとしない。
(何がパーティーに誇りを持っている、だ。戦わない荷物持ち風情が、一丁前にプライドだけは持ちやがって。俺が直々に声を掛けているというのに、何故あの荷物持ち共はそれに応じないんだ……!)
「マイルス、今日はもう荷物持ちを必要としないクエストを受けましょう? 荷物持ち探しにかける時間が惜しいわ」
ミリーはそう言うが、現状、ダンジョンに潜ることこそが、手っ取り早くSSランクに駆け上がる最適解だ。
俺たちがこのギルド史上最速でSランクに登り詰めたのも、素材を大量に納品した実績が買われたのが大きい。
「私もミリーさんに同意です。荷物持ちなら、そのうち加入希望者が現れますよ」
……楽観的なサナの意見には少し腹が立ったが、考えてみれば、確かにその通りだ。
荷物持ちは腐るほど居るのだ。
わざわざこちらから誘わずとも、「紅き閃光」ほどのパーティーならば、向こうから寄ってくるはず。
そうだ。
俺という選ばれた人間が、荷物持ち如きに時間を使うこと自体が間違っていたのだ。
そのうち、俺の誘いを断った荷物持ちが、己の過ちに気付いてパーティー加入を懇願してくるに違いない。
……なに、俺は寛大だ。
さっき断った無礼は水に流してやるさ。
「よし、なら今日はクエストを受けるぞ。あの鬱陶しいお荷物は居なくなったんだし、今の俺たちなら少しクエストの難易度を上げても問題ないだろう」
「そうですね。では、以前見送ったあのクエストを受けますか?」
「あぁ。【地龍の討伐】を受注する。異論ないな?」
「えぇ。さっさと終わらせましょ」
このクエストは、前々から受注しようと話には上がっていた。
Sランク推奨クエストの中でも難易度はかなり上位に位置し、これを達成すれば「紅き閃光」がSSランクにかなり近づけるからだ。
……だが、何故かアイラがこれに強く反対した。
今の俺ならあいつの反対を押し切ってクエストを受注しただろうが、その時はまだ代わりとなる荷物持ちが見つかっていなかったことと、普段は俺の決定に逆らわなかったアイラが珍しく感情的に訴えてきたことが相まって、クエストは見送ることにしたのだ。
……何が、『今の僕たちで勝てる相手ではない』だ。
お前が、俺たちの足を引っ張っていたせいだろうが!
(落ち着け、あいつはもういないんだ。居ないやつの言葉なんて、真に受ける必要はない)
俺は自分を落ち着かせ、クエストの詳細を確認する。
幸いにも、数ヶ月もの間、このクエストは誰の目にも止まらなかった。
……否、受注できる冒険者がいなかった。
このクエストは、Sランク以上のパーティーでないと受注することができない。
王都に所属するSランクパーティーは俺たちだけなので、実質【紅き閃光】専用のクエストとなっていたのだ。
「地龍はベルク山の山頂付近に生息しているらしい。しかも、このクエストはコレクターの貴族が私財を払ってギルドに依頼したものだ。つまり……」
「その貴族から報酬が貰えるってことね!」
ミリーが瞳を輝かせる。
こう言えば、金に目がないミリーのモチベーションが上がることは目に見えていた。
……パーティーリーダーたるもの、メンバーのやる気を煽るのも仕事の一つだ。
「各々武器の整備を済ませ、必要最低限のポーションを用意して、全員揃い次第すぐにでも出発しよう。俺は今から武器屋に行ってくる」
俺の一言で、「紅き閃光」は一度解散し、それぞれ地龍に向けた準備を始めた。
俺はギルドから近い行きつけの武器屋に向かい、店主に愛剣の手入れを任せることにした。
自分でもある程度は手入れできるが、武器の整備は鍛治スキルを持っている人物に任せた方が良い。
特に俺は剣に魔法を纏わせるので、他の冒険者よりも頻繁に武器屋に通う必要があるのだ。
「親父、整備を頼む」
「……マイルスか。今は少し立て込んでいてな。少し後にしてくれ」
「無理な相談だな。俺はこれからクエストに向かうんだ。早くしてくれ」
「おまえさんには、どうしてそんなに計画性が無いんだ。また、あの荷物持ちの子に迷惑をかけるつもりか?」
「……アイラのことか? あいつなら、既にパーティーを抜けたぜ。あと、ひとつ訂正しておくと、あの役立たずに2年間迷惑をかけられ続けたのは、俺たちの方だ」
「……そうか。ワシの目には、あの子がこのパーティーの手綱を上手く握っていたように見えたのだが、おまえさんがそう言うのなら、そうなんだろうな」
それだけ言うと、親父は俺の愛剣を受け取り、店の奥へと消えた。
……フン、最初からそうすればよかったんだ。
恐らく、親父は最初に俺を追い返そうとしてしまった手前、これからクエストに向かうという事情も聞かずに断ってしまった己の浅はかさに気づいたのだろう。
それを少しでも誤魔化すために、苦し紛れにアイラの話題を出したに違いない。
親父とも長い付き合いだ。
俺は親父のこの程度の粗相で腹を立てるほど、矮小な人間ではない。
しばらくして親父は、スキルの効果でピカピカに磨かれた愛剣を片手に戻ってきた。
……やはり、親父のスキルは一流だな。
これで、準備は万端だ。
パーティーのモチベーションも十分。
今の俺たちなら、地龍如きに遅れは取らないだろう。
見ていろよ、無能。
かつてお前がビビって取り下げさせたクエストを、今から俺たちが潰してやるからよ!
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